多系統萎縮症(MSA)とは?症状・タイプとリハビリでできること|理学療法士が解説

はじめに
「多系統萎縮症と診断された。パーキンソン病とは何が違うの?」
「立ち上がると、ふらついて倒れそうになる」
「進行が速いと聞いて、不安でいっぱい」
多系統萎縮症(たけいとういしゅくしょう、MSA)は、耳慣れない病名で、情報も多くありません。ご本人・ご家族が不安を抱えるのは当然のことです。
私は訪問リハビリの現場で、多系統萎縮症の方のリハビリを担当しています。この病気は、症状が多彩で進行にも個人差があり、「一人ひとりに合わせた向き合い方」がとても大切な病気です。
この記事では、MSAの症状・タイプ・リハビリでできることを、やさしい言葉で整理します。あわせて、この病気で特に注意したい「立ちくらみ(起立性低血圧)」や「転倒」への対処もお伝えします。
多系統萎縮症(MSA)とは?
結論:多系統萎縮症は、脳の複数の場所(小脳・大脳基底核・自律神経の中枢)が少しずつ障害される、進行性の病気です。
「多系統(たけいとう)」という名前の通り、ひとつの場所ではなく、体を調節する複数のシステムが影響を受けます。そのため、次のような症状が組み合わさって現れます。
- 小脳の障害 → 体のふらつき(運動失調)
- 大脳基底核の障害 → 動きにくさ(パーキンソン症状)
- 自律神経の障害 → 立ちくらみ・排尿トラブルなど
日本では国の指定難病(指定難病17)に定められており、医療費助成の対象です。中年期(50〜60歳代)以降の発症が多く、パーキンソン病に比べて進行が比較的速い傾向があります。
3つのタイプ(症状の組み合わせで分かれる)
MSAは、どの症状が目立つかによって、大きく次のように呼び分けられてきました。
① 小脳症状が主なタイプ(MSA-C/オリーブ橋小脳萎縮症)
体のふらつき、歩行のふらつき、ろれつが回りにくい(構音障害)など、小脳の障害による「運動失調」が前面に出ます。
② パーキンソン症状が主なタイプ(MSA-P/線条体黒質変性症)
動きの遅さ、筋肉のこわばりなど、パーキンソン病に似た症状が前面に出ます。ただしパーキンソン病と違い、L-ドパ(お薬)が効きにくいことが多いのが特徴です。
③ 自律神経症状が主なタイプ(シャイ・ドレーガー症候群)
立ちくらみ、排尿障害、発汗異常など、自律神経の障害が前面に出ます。
ただし、実際には症状は重なり合い、進行とともに変化していきます。 はじめは小脳症状が主でも、後からパーキンソン症状や自律神経症状が加わることも珍しくありません。「タイプはあくまで目安」と考えるのがよいでしょう。
特に注意したい「自律神経症状」
MSAでほぼ必ず問題になるのが、自律神経症状です。生活の質や安全に直結するため、特にていねいに向き合う必要があります。
- 起立性低血圧(きりつせいていけつあつ)=立ちくらみ:立ち上がった時に血圧が下がり、ふらつく・目の前が暗くなる・失神する。転倒や大けがの大きな原因になります。
- 排尿障害:頻尿、尿が出にくい、失禁など
- 発汗の異常・便秘・体温調節の乱れ
リハビリや日常生活では、この「立ちくらみ」を前提に動作を組み立てることがとても重要です(具体策は後の章で)。
パーキンソン病との違い
MSAは、初期にはパーキンソン病とよく似ています。ここで違いを整理しておきましょう。
| パーキンソン病 | 多系統萎縮症(MSA) | |
|---|---|---|
| 進行の速さ | ゆっくり | 比較的速い |
| L-ドパ(薬)の効き | よく効くことが多い | 効きにくいことが多い |
| 自律神経症状 | 進行してから | 早期から強く出やすい |
| 小脳症状(失調) | 目立たない | タイプにより前面に出る |
| バランス障害 | 進行してから | 早期から出やすい |
※見分けは専門的な診察と検査が必要です。診断や治療方針は必ず主治医にご相談ください。
リハビリでできること(エビデンスの現状を正直に)
結論:MSA「専用」のリハビリ研究はまだ少ないのが現状です。ですが、関連する分野の知見を組み合わせることで、できることはたくさんあります。
正直にお伝えすると、MSAは患者数が限られる希少な病気のため、「MSAだけを対象にした大規模なリハビリ研究」はほとんどありません。そのため、リハビリでは次の3つの分野の知見を応用します。
① 小脳失調へのリハビリ(MSA-Cに)
小脳の障害による運動失調に対しては、バランス練習や協調運動の練習が有効と報告されています。近年は、在宅で続ける運動プログラムの効果を示した研究も出てきました。失調症状のメカニズムとリハビリについては、別記事でくわしく解説しています(関連記事参照)。
② パーキンソン症状へのリハビリ(MSA-Pに)
動きにくさに対しては、パーキンソン病のリハビリと共通する「大きく動く練習」「歩行の練習」が応用できます。ただしMSAはバランス障害が強く出やすいため、安全性への配慮がより重要になります。
③ 自律神経症状への対処(全タイプに)
起立性低血圧に対しては、急に立ち上がらない・段階的に姿勢を変える・弾性ストッキングの活用など、動作の工夫で転倒を防ぎます。
リハビリの一番の目的は「安全に、できることを保つ」こと。 進行がある病気だからこそ、関節が固まるのを防ぎ、残された機能を使い、生活動作を工夫していく関わりが大切になります。
転倒・立ちくらみを防ぐ、自宅での工夫
MSAは「転びやすい」病気です。ご家庭でできる工夫をまとめます。
立ちくらみ(起立性低血圧)への対策
- 寝た姿勢からは、いきなり立たず「起き上がる→座って一息→立つ」と段階を踏む
- 起き上がる前に、足首を動かして血流をうながす
- こまめな水分・塩分(※心臓や腎臓の病気がある方は主治医に相談)
- 主治医から弾性ストッキングや薬を勧められることもあります
転倒予防の環境づくり
- 段差・コード・滑るマットを片づける
- 手すり・つかまれる場所を動線上に用意する
- 方向転換や立ち上がりの時は、そばで見守る
- ふらつきが強い時期は、無理をせず歩行補助具や車いすも前向きに検討する
動きを保つ工夫
- 調子のよい時間に、関節を大きく動かすストレッチを習慣に
- 座ったままでもできる運動を取り入れる
- 「安全第一」で、一人での無理な動作は避ける
💭 ほーりーの臨床メモ
訪問リハビリでMSAの方に関わっていて痛感するのは、「起立性低血圧を甘く見ない」ことの大切さです。リハビリで少し体を動かした後、立ち上がった瞬間に血の気が引く――そんな場面に何度も出会います。血圧の変動を意識しながら、姿勢を変えるスピードをコントロールするだけで、安全性が大きく変わります。
進行が比較的速い病気だからこそ、「今できていることを、少しでも長く保つ」視点で関わっています。できなくなったことを嘆くより、今日できることに一緒に目を向ける。ご本人・ご家族の気持ちに寄り添いながら、生活の工夫を積み重ねていく関わりを大切にしています。
症状が多彩で変化していくため、「昨日できたことが今日できない」ことも起こります。それは決してサボっているのではなく、病気の性質です。焦らず、その日の状態に合わせて手伝ってあげてください、とご家族にお伝えしています。
まとめ
- 多系統萎縮症(MSA)は、小脳・大脳基底核・自律神経など複数の場所が障害される進行性の病気(指定難病17)
- 症状の組み合わせで「小脳症状が主・パーキンソン症状が主・自律神経症状が主」の3タイプに分けられるが、重なり合い変化する
- 特に「立ちくらみ(起立性低血圧)」は転倒に直結するため要注意
- パーキンソン病より進行が速く、薬(L-ドパ)が効きにくいことが多い
- MSA専用のリハビリ研究は少ないが、失調・パーキンソン症状・自律神経への知見を応用できる
- リハビリの目的は「安全に、できることを保つ」こと
情報の少ない病気だからこそ、正しく知り、一つずつ対処していくことが力になります。不安なことは一人で抱えず、主治医やリハビリ担当、地域の支援とつながっていきましょう。
❓ よくある質問(FAQ)
Q. 多系統萎縮症はパーキンソン病と同じですか?
A. 似た症状も出ますが、別の病気です。MSAは自律神経症状が早期から強く、進行が速く、パーキンソン病の薬が効きにくい傾向があります。見分けには専門的な診察が必要です。
Q. リハビリに意味はありますか?
A. あります。病気そのものを治すことはできませんが、関節が固まるのを防ぎ、バランスや生活動作を保ち、転倒を防ぐうえでリハビリは重要な役割を果たします。
Q. 立ちくらみがつらいのですが、どうすればいいですか?
A. いきなり立たず段階的に姿勢を変える、足首を動かしてから起きる、水分・塩分に気をつける、などが基本です。弾性ストッキングやお薬が有効なこともあるので、主治医に相談してください。
Q. 進行が速いと聞いて不安です。
A. 進行には個人差があります。大切なのは「今できていることを保つ」関わりを続けることです。医療・リハビリ・介護の支援とつながることで、できることは必ずあります。
関連記事
▶ 運動失調のメカニズムとリハビリへの活かし方(MSA-Cの小脳症状の理解に)
免責事項
本記事は、多系統萎縮症とそのリハビリテーションに関する一般的な情報提供を目的としています。診断・治療方針・お薬・運動内容については、必ず主治医やリハビリ担当者にご相談ください。症状には個人差があり、本記事の内容がすべての方に当てはまるものではありません。
参考文献
- 難病情報センター. 多系統萎縮症(指定難病17). https://www.nanbyou.or.jp/
- Goh YY, et al. Multiple system atrophy. Pract Neurol. 2023;23(3):208-221.
- Matsugi A, et al. Effects of physiotherapy on degenerative cerebellar ataxia: a systematic review and meta-analysis. Front Neurol. 2024;15:1491142.
- Barbuto S, Lee S, Stein J, et al. Home Training for Cerebellar Ataxias: A Randomized Clinical Trial. JAMA Neurol. 2025;82(11):1162-1170.
- Winser S, et al. Therapeutic exercise for cerebellar ataxia: a systematic review with meta-analysis. Physiother Theory Pract. 2023;39(6):1097-1109.
- Wieling W, et al. Diagnosis and treatment of orthostatic hypotension. Lancet Neurol. 2022;21(8):735-746.
- Raccagni C, et al. Gait and postural disorders in parkinsonism: a clinical approach. J Neurol. 2020;267(11):3169-3176.















