多発性硬化症(MS)とは?症状・再発寛解・リハビリと疲労管理|理学療法士が解説

はじめに
「多発性硬化症と診断されたけれど、運動していいの?無理したら悪化しない?」
「とにかく疲れやすくて、動くのがつらい」
「症状が出たり消えたりして、自分の体がどうなっているのか不安」
多発性硬化症(たはつせいこうかしょう、MS)の方から、こうした声をよく聞きます。
私は訪問リハビリの現場で、多発性硬化症の方のリハビリを担当しています。MSは、症状が多彩で経過も人それぞれ。特に「疲労」との付き合い方が、生活の質を大きく左右します。
この記事では、MSの症状・経過・リハビリでできることを、やさしい言葉で整理します。「運動していいのか」「疲労とどう付き合うか」という、多くの方が抱く疑問にもお答えします。
多発性硬化症(MS)とは?
結論:多発性硬化症は、脳や脊髄の神経を包む「ミエリン(髄鞘)」が壊れることで、神経の信号がうまく伝わらなくなる病気です。
神経は、電気コードのように「ミエリン」という膜で覆われています。この膜のおかげで、信号が速く正確に伝わります。MSでは、自分の免疫が誤ってこのミエリンを攻撃してしまい(自己免疫)、あちこちで信号の伝達が乱れます。
- 「多発性」=脳・脊髄の複数の場所に病変ができる
- 「硬化」=病変部が硬くなる(瘢痕化する)
- 比較的若い世代(20〜40歳代)に発症が多く、女性にやや多い
- 日本では国の指定難病に定められており、医療費助成の対象です
障害が出る場所によって症状が変わるため、人によって現れ方が大きく異なります。
「再発」と「寛解」を繰り返す経過
MSの大きな特徴は、症状が出る時期(再発)と、落ち着く時期(寛解)を繰り返すことです。
- 再発:新しい症状が出たり、症状が悪化したりする(数日〜数週間続く)
- 寛解:症状が改善し、落ち着く(完全に消えることも、一部残ることもある)
このタイプを「再発寛解型」と呼び、MSで最も多い経過です。経過が進むと、再発がなくても症状が少しずつ進む「二次進行型」に移行することもあります。
再発を減らすためのお薬(疾患修飾薬)が近年大きく進歩しており、経過は以前より良好になっています。 治療は主治医(神経内科)が中心となって進めます。
多彩な症状
障害される場所によって、症状はさまざまです。代表的なものを挙げます。
- 感覚の症状:手足のしびれ、感覚の鈍さ、ピリピリする痛み
- 視覚の症状:見えにくい、視野が欠ける、目を動かすと痛い(視神経炎)、ものが二重に見える
- 運動の症状:手足の力が入りにくい、歩きにくい、筋肉のつっぱり(痙縮)
- バランス・協調の症状:ふらつき、めまい、細かい動作のしにくさ
- 排尿・排便の症状:頻尿、尿が出にくい、便秘
- 疲労:MSで最も多く、生活への影響が大きい症状(次章でくわしく)
- 認知・気分:集中力の低下、気分の落ち込み
「症状が多発性硬化症によるものか、別の原因か」の判断は専門的です。気になる症状は主治医に相談しましょう。
MSで特に知っておきたい2つのこと
① 疲労(MS関連疲労)
MSの疲労は、「よくある疲れ」とは質が違います。十分休んでも取れない、午後に強くなる、少しの活動でどっと疲れる――こうした「MS特有の疲労」が、多くの方の生活を制限します。大切なのは、疲労を「気合い」で乗り切ろうとしないこと。エネルギーの配分(ペーシング)と、後述する適切な運動が、むしろ疲労の軽減に役立ちます。
② 熱に注意(ウートフ現象)
MSでは、体温が上がると一時的に症状が悪化することがあります。これをウートフ現象と呼びます。
- 入浴、暑い日、発熱、激しい運動などで体温が上がると、見えにくさやしびれ、疲労が強まる
- これは「病気が悪化した(再発)」のではなく、多くは体温が下がれば元に戻る一時的なもの
- 運動時は、体を冷やす工夫(涼しい環境・水分・クーリング)で予防できる
「運動で体温が上がると症状が出る」ことがあるため、MSの運動は熱対策とセットで考えるのがポイントです。
リハビリ・運動療法でできること(エビデンス)
結論:MSに対する運動療法には確かなエビデンスがあります。「運動は悪化させる」という古い考えは、今は否定されています。
かつては「MSに運動は禁物」と考えられた時代もありました。しかし現在は、適切な運動はむしろ有益であることが多くの研究で示されています。
① 運動療法全般
複数の研究を統合した解析で、運動が体力・歩行・生活の質の改善に役立つと報告されています(2024など)。リハビリのレビューでも、MSに対する運動・リハビリの有用性が支持されています。
② 疲労の軽減
意外に思われるかもしれませんが、運動はMSの疲労を軽減するという報告があります(メタ解析2020)。「疲れるから動かない」がかえって疲労を強める悪循環を、適切な運動が断ち切ります。
③ 有酸素運動・レジスタンス運動
有酸素運動もレジスタンス(筋力)運動も、身体機能や疲労の改善に有効と報告されています。「どちらか一方」より、目的に応じた組み合わせが現実的です。
④ バランス・移動能力
バランス練習・歩行練習が、移動能力やバランスの改善に役立ちます(用量反応の解析2023)。
⑤ 痙縮(筋肉のつっぱり)への対応
理学療法は、MSの痙縮の軽減にも一定の効果が示されています(メタ解析2018)。ストレッチ・ポジショニング・物理療法などを組み合わせます。
運動処方の原則:中強度を基本に、熱対策(クーリング)とペーシング(無理をしない配分)をセットにする。再発期は無理をせず、寛解期に運動を進めるのが基本です。
「疲れて動けない」とうまく付き合うコツ
MSの生活で最も大切な「疲労マネジメント」の実践ポイントです。
エネルギーの配分(ペーシング)
- 一日の中で「調子のいい時間」に、大事な活動をまとめる
- がんばりすぎる前に、こまめに休む(疲れ切ってからでは回復に時間がかかる)
- 「今日は8割で」を合言葉に
熱をためない工夫
- 運動・入浴は涼しい時間帯に、水分をとりながら
- 冷却タオルや空調を活用する
- 夏場は特に無理をしない
運動は「続けられる強度」で
- 疲労が翌日に強く残らない範囲が目安
- 短時間でも、寛解期にコツコツ続ける
- 再発期・体調不良時は休む勇気も大切
一人で抱えない
- リハビリ担当と「その人に合った運動量」を一緒に見つける
- 制度・支援(指定難病の医療費助成、介護保険など)を活用する
💭 ほーりーの臨床メモ
訪問リハでMSの方に関わって強く感じるのは、「疲労とどう付き合うかが、リハビリの成否を分ける」ということです。良かれと思って運動量を増やすと、翌日に強い疲労で寝込んでしまう。逆に、その人の「ちょうどいい量」を一緒に見つけられると、生活全体が回り始めます。
熱への配慮も、生活の場だからこそ具体的にできます。訪問の時間帯、部屋の温度、運動の合間の水分――こうした一つひとつが、その日の調子を左右します。「無理をしないことが、実は一番の近道」だと、ご本人と確認しながら進めています。
まとめ
- 多発性硬化症(MS)は、神経を覆うミエリンが免疫の攻撃で壊れ、信号伝達が乱れる病気(指定難病)
- 「再発」と「寛解」を繰り返すのが特徴。お薬(疾患修飾薬)の進歩で経過は良好に
- 症状は多彩(しびれ・見えにくさ・歩きにくさ・痙縮・疲労など)
- 「疲労」と「熱への注意(ウートフ現象)」がMS特有の重要ポイント
- 運動療法にはエビデンスがあり、疲労の軽減にも役立つ。「運動は禁物」は過去の考え
- コツは「中強度・熱対策・ペーシング」。再発期は休み、寛解期に進める
MSは、正しく付き合えば自分らしい生活を続けていける病気です。疲労を敵にせず、上手に配分しながら、できることを積み重ねていきましょう。
❓ よくある質問(FAQ)
Q. 多発性硬化症でも運動していいのですか?
A. はい。適切な運動はむしろ有益で、疲労の軽減にも役立つと報告されています。「運動は悪化させる」は古い考えです。ただし体温上昇に注意し、熱対策とペーシングをセットに、寛解期を中心に進めてください。
Q. お風呂に入ると症状が悪化します。病気が進んだのですか?
A. 多くは「ウートフ現象」という一時的なもので、体温が下がれば元に戻ります。ぬるめのお湯・短時間・涼しい環境で予防できます。ただし症状が長く続く場合は再発の可能性もあるため主治医に相談を。
Q. 疲れやすくて運動どころではありません。
A. まさにその疲労に、運動が役立つという報告があります。ポイントは「疲れ切る前に休む」「調子のいい時間にまとめる」「翌日に残らない強度」。リハビリ担当と一緒に、その人に合った量を見つけましょう。
Q. 再発した時もリハビリを続けるべきですか?
A. 再発期(急性増悪期)は無理をせず、主治医の指示に従ってください。運動を積極的に進めるのは、症状が落ち着いた寛解期が基本です。
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免責事項
本記事は、多発性硬化症とそのリハビリテーションに関する一般的な情報提供を目的としています。診断・治療方針・お薬・運動内容については、必ず主治医やリハビリ担当者にご相談ください。症状や経過には個人差があり、本記事の内容がすべての方に当てはまるものではありません。
参考文献
- 難病情報センター. 多発性硬化症/視神経脊髄炎スペクトラム障害(指定難病). https://www.nanbyou.or.jp/
- 日本神経学会(監修). 多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドライン2023. 医学書院; 2023.
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