頭頂葉を損傷すると何が起きるのか——症状の読み方と評価・リハビリへの活かし方

「感覚の検査をするといつも正常なのに、着替えがうまくできない、物に手が当たらない、左側に人が来ても気づかない——片麻痺だけでは説明できない困り事が多くて、どこを評価すればいいのかわからない」——頭頂葉損傷の患者さんを担当したPTがよく感じる戸惑いです。
頭頂葉(parietal lobe)は「感覚の統合センター」であり、触覚・位置覚・空間認識・身体イメージ・動作の制御まで担う構造です。損傷されると、感覚障害に加えて「半側空間無視(はんそくくうかんむし)」「失行(しっこう)」「身体失認(しんたいしつにん)」など、目に見えにくい高次脳機能障害が生じます。この記事では、頭頂葉の解剖と機能から出発し、損傷時の症状と評価・リハビリへの活かし方を整理します。
この記事でわかること
- 頭頂葉の解剖的区分(一次体性感覚野・上頭頂小葉・下頭頂小葉)と各部位の機能
- 頭頂葉を栄養する血管(MCA・PCA)と閉塞時の症状の違い
- 頭頂葉損傷で出やすい症状(感覚障害・半側空間無視・失行・Gerstmann症候群)とその読み方
- 右半球・左半球の損傷で出やすい症状の違い
- 担当時に押さえるべき評価のポイントとリハビリへの活かし方
頭頂葉とはどこにある?何をする場所か
頭頂葉の主な機能区分
① 一次体性感覚野(S1):中心後回:対側の身体からの感覚情報(触覚・痛覚・温度覚・固有感覚)を受け取ります。損傷されると対側の感覚障害(触覚・位置覚・振動覚・2点識別覚の低下)が生じます。
② 上頭頂小葉(SPL):ブロードマン5・7野:固有感覚と視覚情報を統合し、空間内での身体の位置認識・到達運動の制御を担います。損傷されると光学性運動失調(見ている物に手が当たらない)が生じます。
③ 下頭頂小葉(IPL):縁上回・角回:左縁上回損傷では観念運動失行(道具の使い方は知っているが実際の動作がうまくできない)が、左角回損傷ではGerstmann症候群(手指失認・左右失認・失書・失算の4徴)が生じます。
④ 右頭頂葉——空間的注意の優位半球:右頭頂葉損傷では半側空間無視・病態失認・着衣失行が生じやすいです。
なぜ頭頂葉が損傷されるのか——血管支配から理解する
| 血管 | 支配領域 | 閉塞時の主な症状 |
|---|---|---|
| 中大脳動脈(MCA) | 頭頂葉外側面(S1・縁上回・角回) | 対側感覚障害・半側空間無視(右)・失行(左)・Gerstmann症候群(左) |
| 後大脳動脈(PCA) | 頭頂後頭葉内側面・楔前部 | 視空間障害・光学性運動失調・半側空間無視(右)・記憶障害 |
頭頂葉損傷の主な症状
1. 対側の感覚障害(一次体性感覚野)
- 触覚の低下・消失(表在感覚)
- 固有感覚(位置覚・運動覚)の障害:目を閉じると指の位置がわからない。バランス・歩行に大きく影響する
- 2点識別覚の障害:2か所を同時に触れても1か所としか感じない
- 立体認知覚の障害(触覚失認):目を閉じて物を触っても何かわからない
- 感覚消去(extinction):片側だけの刺激には気づくが、両側同時刺激で麻痺側への刺激が消える
2. 半側空間無視(unilateral spatial neglect:USN)
- 定義:反対側(多くは左側)の空間・刺激・身体に対して気づきが低下した状態。感覚障害や視野障害だけでは説明できない
- 日常での現れ方:食事で左半分を残す、左側の障害物にぶつかる、字を書くと右側だけに書く
- 患者自身が「気づいていない」ことが多く(病態失認を伴うことがある)、本人に自覚させることが難しい
- 左側への注意が向かないため、転倒リスクが著しく高い
3. 病態失認(anosognosia)と身体失認
右頭頂葉損傷で多く見られます。「麻痺はない」「歩ける」と訴えて実際には歩けないなど、自分の障害に気づいていない・認めない状態です。「本人が頑張らない」のではなく「脳の損傷による認識の障害」である点を家族・スタッフが理解することが重要です。
4. 観念運動失行・観念失行(左頭頂葉・縁上回)
観念運動失行:運動麻痺・感覚障害がないにもかかわらず、道具なしでの動作模倣・パントマイムが誤る(歯磨きのジェスチャーが出ないなど)。実際の道具を手にすると比較的できることが多いです。
観念失行:複数の道具を順序よく使う動作(「お茶を入れる」など)で手順が崩れる。個々の道具の使い方を間違えることもあります。
5. Gerstmann(ゲルストマン)症候群(左角回)
- 手指失認:どの指かを認識できない
- 左右失認:自分と他者の左右がわからない
- 失書:書くことの障害(読みは比較的保たれる)
- 失算:計算の障害
6. 構成失行・着衣失行(右頭頂葉が多い)
構成失行:時計描画・図形の模写・積み木の組み立てなど「空間的な構成」が障害されます。時計描画では左側の数字が右側に集まる・数字の間隔が崩れるなどの特徴が見られます。
着衣失行:衣服と身体の空間的関係がつかめず、服を裏表・前後逆に着る、袖に手を通せないなどが生じます。半側空間無視・身体図式の障害・構成失行が複合して起こります。
評価のフレームワーク——Step形式で整理する
Step 1:バイタル・安全確認
バイタルサイン・意識レベルを確認します。感覚障害・無視による転倒は急性期から起きやすいため、早期からの転倒リスク評価が必要です。
Step 2:感覚機能の評価
- 表在感覚:触覚(綿毛)・痛覚・温度覚を左右比較
- 深部感覚:位置覚(指の位置を目を閉じて答える)・運動覚・振動覚
- 複合感覚:2点識別覚・立体認知覚(目を閉じて鍵・コインなどを識別)・皮膚書字覚
- 感覚消去の確認:両側同時刺激で無視側が消える場合は陽性
Step 3:半側空間無視の評価
- 線分二等分試験:線の中点をマーク。無視側にずれる
- 抹消試験:紙上の図形をすべて消す。無視側の見落としを確認
- 模写試験:花・立方体・時計などを模写。無視側の省略・歪みを確認
- CBS(Catherine Bergego Scale):ADL場面での無視を10項目で評価
- BIT(Behavioural Inattention Test):6つの行動的サブテストで日常生活との対応を評価
Step 4:失行の評価
- 観念運動失行:「ハンマーで釘を打つように」「歯磨きをするように」などのパントマイム指示と模倣
- 観念失行:「お茶を入れてください」など複数手順の動作観察
- 着衣動作の観察:上衣・ズボン・靴下の着脱時の誤り方を記録
Step 5:Gerstmann症候群の簡易スクリーニング(左半球損傷)
- 手指失認:「右手の中指を見せてください」「私が触った指はどれですか?」
- 左右失認:「右手を上げてください」「私の左手はどちらですか?」
- 失書・失算:簡単な文字を書く・計算問題
Step 6:構成能力の評価
- 時計描画テスト(CDT):「文字盤に12時15分を描いてください」
- 図形の模写(立方体・Rey複雑図形)
リハビリへの活かし方
半側空間無視へのアプローチ
- 視覚走査訓練(visual scanning training):紙面上の文字消し・ライトスキャニングなどを通じて左方向への系統的な視線移動を練習する
- プリズム適応療法(prism adaptation):光を右方向にずらすプリズムレンズを装着してリーチング動作を行うと、適応後に左方向への注意シフトが生じる。比較的エビデンスが蓄積されている
- 肢体活性化(limb activation):無視側の上肢を視覚的に確認しながら積極的に使う訓練
- 環境整備:ベッドやリハビリ台を無視側が外向きになるよう配置し、必要物品を無視側に置いて自然に視線が向く場面をつくる
感覚障害へのアプローチ
- 感覚再教育(sensory re-education):触覚・立体認知覚の段階的な再学習。初期は視覚補助を活用し、徐々に視覚なしでの識別へ移行する
- 代償戦略の習得:固有感覚障害がある場合は視覚補助(鏡・見える位置での運動)を活用。感覚障害のある手足の保護指導(やけど・外傷への気づきが遅れるため)
- バランス訓練との統合:固有感覚の低下はバランス障害に直結するため、感覚代償を意識した立位・歩行訓練を組み合わせる
失行へのアプローチ
- エラーレス学習:誤った動作パターンが定着しないよう、最初から正しい手順で行えるよう環境設定・手がかりを提供する
- 動作の構造化・段階化:複数手順の動作を1手順ずつに分解し、各ステップを個別に習得してから統合する
- 文脈的学習:実際の環境・道具を使うことで、抽象的な指示より遂行しやすくなる。模倣より実物使用から始める
- STとの連携:失行は言語・認知機能とも関連するため、言語聴覚士との共同評価・介入を推奨
着衣失行・ADLの安全管理
- 着替えの代償方法:着順のリスト化・色テープによる前後の区別・面ファスナーの活用
- 作業療法士(OT)との連携:着衣動作はOTが専門とする領域
- 転倒予防の環境設定:半側空間無視・感覚障害は転倒リスクを著しく高めるため、急性期から環境整備(ベッド周囲・センサー設置)を行う
- 病態失認を伴う場合は直接的な危険説明より環境による安全確保を優先する
ほーりーの臨床メモ
頭頂葉損傷では「半側空間無視」「空間認知障害」「失行」が典型的だが、これらが組み合わさると日常動作全般に影響が出ます。「着られない」「靴が履けない」「料理の手順がわからない」という訴えの背景に頭頂葉機能の問題があることを見逃さないことは重要です。
着衣失行に対するアプローチでは、視覚的な手がかり(衣服に印をつける・鏡の前で行う)を組み合わせることが効果的なことが多いです。「なぜできないのか」を理解してから支援方法を設計することが、OTとの連携でも重要な視点になるはずです。
体性感覚の統合にも頭頂葉が関わるため、バランス障害が前景に立つこともあります。PTとして頭頂葉機能と姿勢制御の関係を理解しておくことで、複雑な症状への介入が整理しやすくなるかもしれません。
まとめ
頭頂葉損傷の症状は「感覚・空間認識・身体図式・動作スキーマ」の複数領域にわたります。
頭頂葉損傷で出やすい症状まとめ:
- 対側の感覚障害(触覚・固有感覚・2点識別覚・立体認知覚)
- 半側空間無視(右頭頂葉損傷が多い)——左側の空間・刺激への気づきの低下
- 病態失認・身体失認(右頭頂葉)——自分の障害に気づいていない
- 観念運動失行・観念失行(左頭頂葉・縁上回)——運動スキーマの障害
- Gerstmann症候群(左角回)——手指失認・左右失認・失書・失算の4徴
- 構成失行・着衣失行(右頭頂葉が多い)——空間的構成の障害
- 感覚消去——両側同時刺激で無視側が消える
リハビリでは「動かせない」だけでなく「感じられない・気づかない・段取れない」という見えにくい障害に目を向け、プリズム適応・感覚再教育・エラーレス学習・環境整備を組み合わせることが機能回復・安全管理につながります。
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免責事項
本記事は理学療法士による教育・情報提供を目的として執筆されています。個々の患者さんへの具体的な医療行為や訓練内容については、担当医師・理学療法士の指導のもとで判断・実施してください。本記事の内容を参考に生じたいかなる結果についても、筆者および当ブログは責任を負いません。
参考文献
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- 日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会. 脳卒中治療ガイドライン2021(改訂2023). 協和企画.
- 石合純夫. 高次脳機能障害学. 第3版. 医歯薬出版; 2022.
















