記憶障害とは?【種類・評価・PTとしての関わり方を新人セラピストが知っておくべきこと】

脳卒中リハビリの現場で、こんな経験はありませんか?
「昨日訓練した内容を覚えていない」「同じことを何度も聞いてくる」「病棟でのルールがなかなか身につかない」――これらはすべて記憶障害のサインかもしれません。
記憶障害は失語症・注意障害・半側空間無視と並ぶ、脳卒中後の代表的な高次脳機能障害のひとつです。リハビリの効果に直接影響するにもかかわらず、「もの忘れが多い人」として見過ごされてしまうことも少なくありません。
この記事では、新人PTが臨床で最低限知っておくべき記憶障害の種類・評価・リハビリのアプローチ・PTとしての関わり方をわかりやすく解説します。
記憶障害とは?
記憶障害とは、脳卒中などの脳損傷により「記憶機能」が低下した状態のことです。
記憶機能とは、情報を覚え(符号化)、保持し(貯蔵)、必要なときに思い出す(検索)という一連のプロセスのことです。この機能が障害されると、新しいことが覚えられない・過去のことが思い出せないなどの症状が現れ、リハビリの習得や日常生活全般に深刻な影響を及ぼします。
記憶の種類
記憶障害を理解するには、まず記憶の分類を知ることが重要です。
時間軸による分類
| 種類 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 短期記憶(作業記憶) | 数秒〜数分間保持される記憶 | 電話番号を聞いてすぐかける |
| 長期記憶 | 長期間保持される記憶 | 自分の名前・過去の経験 |
内容による分類(長期記憶)
① 陳述記憶(言葉で説明できる記憶)
- エピソード記憶:個人的な体験の記憶(「昨日の訓練内容」「朝食のメニュー」)
- 意味記憶:一般的な知識・概念の記憶(「東京は日本の首都」「リンゴは果物」)
② 非陳述記憶(言葉で説明しにくい記憶)
- 手続き記憶:体で覚えた技能の記憶(自転車の乗り方・歩き方)
- プライミング:以前の刺激が後の反応に影響する記憶
臨床ポイント:脳卒中後の記憶障害ではエピソード記憶が最も障害されやすい一方、手続き記憶は比較的保たれやすいという特徴があります。これはリハビリ設計に大きく関わります。
脳卒中後の記憶障害の特徴
| 損傷部位 | 主な症状 |
|---|---|
| 海馬(後大脳動脈領域) | 新しい記憶の形成障害(健忘) |
| 視床 | 記憶の符号化・検索の障害 |
| 前頭葉 | 作業記憶の低下・記憶の方略が使えない |
| 乳頭体 | コルサコフ症候群様の健忘 |
- 前向性健忘:受傷後の新しい出来事が覚えられない(最も多い)
- 逆向性健忘:受傷前の記憶が失われる
- 注意障害との合併:注意が維持できないと記憶の符号化も障害される
- 病識の低下:自分の記憶障害に気づかないことがある
評価方法
1. RBMT(リバーミード行動記憶検査)
日常生活場面を想定した生態学的妥当性の高い記憶検査です。
- 名前の記憶・物の場所・約束の記憶など12項目
- 日常生活での記憶機能を直接反映するため、リハビリ計画の立案に有用
- 新人PTでも実施しやすいのが特徴
2. WMS-R(ウェクスラー記憶検査)
記憶機能を多角的に評価できる総合的な検査バッテリーです。
- 言語性記憶・視覚性記憶・注意/集中・遅延再生などを評価
- 記憶指標(MQ)を算出できる
- 実施に時間がかかるため、主にSTや心理士が実施
3. 三宅式記銘力検査
言語性記憶を簡便に評価できる検査です。有関係対語と無関係対語で構成され、短時間で実施できスクリーニングとして有用です。
4. MMSE・HDS-R
「3つの言葉の記憶」「遅延再生」などの記憶項目を含み、スクリーニングとして広く活用されています。
5. 行動観察
- 訓練内容を次の日に覚えているか
- 病棟のルールが身についているか
- 同じ質問を繰り返すか
- 持ち物の管理ができているか
注意:記憶検査は注意機能の影響を受けます。注意障害が疑われる場合は、注意機能の評価も並行して行いましょう。
リハビリテーションのアプローチ
① 内的補助法(頭の中で使う方略)
- 視覚イメージ法:覚えたい内容を具体的なイメージと結びつける
- チャンキング:情報をまとまりに分けて覚える
- 反復練習:繰り返し声に出して確認する
② 外的補助法(道具を使う方略)
| ツール | 活用例 |
|---|---|
| 手帳・メモ帳 | 当日の訓練内容・予定を記録 |
| スマートフォン | アラーム・カレンダー・録音機能 |
| ホワイトボード | 病室に今日の予定・注意事項を掲示 |
| チェックリスト | ADLの手順を書き出して確認 |
③ エラーレス学習(Errorless Learning)
間違いを経験させずに正しい方法だけを繰り返し練習する手法です。記憶障害がある場合、エラーの記憶が残って正しい方法を上書きできないことがあるため、最初から正解を提示して繰り返します。移乗動作・歩行手順など、安全に関わる動作の習得に特に有効です。
④ 手続き記憶を活用した訓練
エピソード記憶が障害されていても、手続き記憶は比較的保たれやすいという特性を活用します。
- 動作の手順を「体で覚える」よう繰り返し練習する
- 言語的な説明より、実際の動作を繰り返す方が定着しやすい
- スペーシング効果(間隔を空けた反復練習)を活用する
⑤ 環境調整
- 物の定位置を決める(探す負担をなくす)
- 毎日同じルーティンで行動する(手続き記憶を活用)
- 視覚的な手がかりを増やす(色分け・ラベル貼り)
PTとしての関わり方のポイント
| 場面 | 工夫 |
|---|---|
| 訓練の説明 | 短く・シンプルに・繰り返し確認する |
| 動作習得 | エラーレス学習・手続き記憶を活用する |
| 訓練の記録 | メモ帳に訓練内容を書いてもらい持ち帰る |
| 進捗確認 | 「前回どこまでやりましたか?」ではなく「これをやります」と伝える |
病識の低下への対応
記憶障害では自分の障害に気づかない(病識の低下)ことがあります。否定せず、安全確保を優先したアプローチを心がけましょう。
注意障害・失語症との関係
- 注意障害との合併:注意が維持できないと情報の符号化が障害され、記憶障害に見えることがある。まず注意機能の評価が必要
- 失語症との合併:言語性記憶の評価が難しくなるため、非言語性の記憶検査を活用する
各障害の詳細については以下の記事もご参照ください。
- 注意障害とは?【種類・評価・PTとしての関わり方】
- 失語症とは?【種類・評価・PTとしての関わり方】
- 半側空間無視とは?【種類・評価・PTとしての関わり方】
- 遂行機能障害とは?【種類・評価・PTとしての関わり方】
- 高次脳機能障害の評価でおさえておきたい基本
まとめ
- 記憶は短期・長期(エピソード・意味・手続き)に分類される
- 脳卒中後はエピソード記憶が障害されやすく、手続き記憶は比較的保たれやすい
- 評価はRBMT・WMS-R・行動観察を組み合わせる
- リハビリはエラーレス学習・外的補助法・手続き記憶の活用が基本
- 訓練では繰り返し・シンプルな指示・メモの活用を心がける
- 病識の低下に注意し、チームで情報共有する
記憶障害は「本人のやる気の問題」ではありません。障害の特性を正しく理解し、適切な代償手段と環境調整を組み合わせることが、患者さんの回復と安全な日常生活につながります。
免責事項
本記事は記憶障害に関する一般的な情報提供を目的としており、特定の患者さんへの医療アドバイスを意図するものではありません。実際のリハビリ計画は、担当医・リハビリチームと連携のうえ、個々の患者さんの状態に応じて判断してください。
参考文献
- Wilson BA, Cockburn J, Baddeley A. The Rivermead Behavioural Memory Test. Thames Valley Test Company; 1985.
- Wechsler D. WMS-R: Wechsler Memory Scale-Revised. The Psychological Corporation; 1987.
- 石合純夫. 高次脳機能障害学 第3版. 医歯薬出版; 2022.
- 日本リハビリテーション医学会. 脳卒中治療ガイドライン2021. 協和企画; 2021.
- Clare L, Wilson BA, Carter G, Roth I, Hodges JR. Relearning face-name associations in early Alzheimer’s disease. Neuropsychology. 2002;16(4):538-547.
- 橋本圭司. 高次脳機能障害のリハビリがわかる本. 講談社; 2010.
















