はじめに

脳卒中リハビリの現場で、こんな経験はありませんか?

「訓練中にすぐ集中が途切れる」「簡単な指示を繰り返さないと伝わらない」「複数の動作を同時にこなせない」――これらはすべて注意障害のサインかもしれません。

注意障害は失語症や半側空間無視と並ぶ、脳卒中後の代表的な高次脳機能障害のひとつです。しかし「なんとなく集中力が低い」と片づけられてしまいがちで、見逃されることも少なくありません。

この記事では、新人PTが臨床で最低限知っておくべき注意障害の種類・評価・リハビリのアプローチ・PTとしての関わり方をわかりやすく解説します。



注意障害とは?

注意障害とは、脳卒中などの脳損傷により「注意機能」が低下した状態のことです。

注意機能とは、情報を選択・維持・切り替える認知機能のことで、あらゆる活動の土台となります。注意機能が低下すると、リハビリの効率が大きく落ちるだけでなく、日常生活や社会復帰にも深刻な影響を及ぼします。

注意の4つの種類

注意機能を理解するうえで最もよく用いられるのが、Sohlberg & Mateer(1987年)の階層モデルです。注意を以下の4段階に分類しています。

① 持続性注意(Sustained Attention)

一定時間、注意を持続させる能力です。

  • 例:長時間の歩行訓練中ずっと集中を保つ
  • 障害されると:訓練中にすぐぼんやりする、疲れやすい

② 選択性注意(Selective Attention)

複数の刺激の中から、必要な情報だけに注意を向ける能力です。

  • 例:騒がしい病室の中でPTの声に集中する
  • 障害されると:テレビや周囲の声が気になって訓練に集中できない

③ 転換性注意(Alternating Attention)

注意の対象を切り替える能力です。

  • 例:歩行中に「足を上げて」という指示に注意を切り替える
  • 障害されると:一つのことに固執する、作業の切り替えができない

④ 分配性注意(Divided Attention)

複数の課題に同時に注意を向ける能力(いわゆる「ながら作業」)です。

  • 例:歩きながら会話する、手を動かしながら周囲に注意を向ける
  • 障害されると:二重課題が極端に苦手になる

臨床ポイント:階層モデルでは持続性→選択性→転換性→分配性の順に複雑度が上がります。評価・訓練もこの順序で段階的に行うのが基本です。

脳卒中後の注意障害の特徴

注意障害は右半球損傷で特に多いとされていますが、左半球損傷でも生じます。また、前頭葉・頭頂葉・視床・基底核など広範な損傷でも起こり得ます。

  • 疲労の影響を受けやすい(午前より午後に悪化することが多い)
  • 意識障害が改善した後に顕在化することがある
  • 半側空間無視と合併することが多い
  • うつ・意欲低下との鑑別が必要

評価方法

1. CAT(標準注意検査法)

日本で最も標準的な注意機能の検査バッテリーです。

下位検査評価する注意
数唱(順唱・逆唱)聴覚的注意スパン
視覚性抹消課題選択性注意
聴覚性検出課題持続性注意
Symbol Digit Modalities Test処理速度・選択性注意
PASAT分配性注意

2. TMT(Trail Making Test)

転換性注意・処理速度を評価します。数字を順番に結ぶPart Aと、数字と文字を交互に結ぶPart Bがあり、Part BがPart Aより著しく遅い場合は転換性注意の低下を示唆します。

3. 数唱(Digit Span)

聴覚的な注意スパンの簡易評価として有用です。HDS-RやMMSEにも含まれており、スクリーニングとして活用できます。

4. 行動観察

検査だけでなく、訓練中・ADL場面での行動観察が重要です。

  • 指示を何回繰り返す必要があるか
  • 環境刺激で集中が途切れるか
  • 二重課題時にどちらかが崩れるか

注意:注意障害の検査は疲労の影響を受けやすいため、午前中の覚醒状態が良いときに実施するのが原則です。

リハビリテーションのアプローチ

① 直接訓練(APT:Attention Process Training)

Sohlberg & Mateerが開発した注意機能への直接的な訓練法です。持続性→選択性→転換性→分配性の順に段階的に負荷を上げていくのが特徴です。

  • 持続性注意:長時間の計算課題、聴覚的反応課題
  • 選択性注意:妨害刺激がある中での抹消課題
  • 転換性注意:TMT課題、ルール切り替え課題
  • 分配性注意:歩行しながら数を数えるなどの二重課題

② 環境調整

注意障害がある患者さんには、環境を整えることが最初のアプローチになります。

  • テレビ・ラジオを消す
  • 刺激の少ない個室・静かな空間で訓練する
  • 一度に出す指示は1つだけにする
  • 課題の難易度を下げて成功体験を積む

③ 代償戦略の指導

直接訓練で注意機能の改善が難しい場合は、代償手段を活用します。

  • メモ・チェックリストの活用
  • タイマーを使った時間管理
  • 「一つのことに集中してから次へ」という習慣づけ

PTとしての関わり方のポイント

訓練中の工夫

場面工夫
指示の出し方短く・シンプルに・一度に一つ
訓練環境刺激を最小限にする
休憩の取り方疲労前に短い休憩を入れる
フィードバック即時・具体的・肯定的に

他職種・家族への情報共有

注意障害は日常生活全般に影響するため、看護師・OT・STと情報を共有し、一貫したアプローチが重要です。また、家族へも「怠けているわけではない」と説明し、理解を促すことが大切です。

リスク管理

注意障害がある患者さんは、転倒・転落のリスクが高いです。特に歩行訓練中の二重課題(歩きながら話す等)は慎重に行いましょう。

高次脳機能障害は単独で現れることは少なく、しばしば合併します。

  • 失語症との合併:指示の理解が難しいのか、注意が維持できないのかを鑑別する必要があります
  • 半側空間無視との合併:選択性注意の障害が空間的な無視を悪化させることがあります

ほーりーの臨床メモ

注意障害は「ぼーっとしている」「集中力がない」と周囲から誤解されやすいですが、実際には選択的注意・持続的注意・分配的注意・交代的注意というそれぞれの機能が異なる問題を示していることが多いです。

リハビリ中は「疲れてくる後半に注意が崩れていないか」「二つのことを同時にしたときに一方がおろそかになっていないか」などを観察します。またリハ場面以外で日常的な動作を観察する中で注意機能の状態が掴みやすいこともあり看護師との情報共有も大切にしています。

注意障害があると転倒リスクが上がる。「歩きながら話す」だけで転びそうになる患者さんを担当したとき、「2重課題の安全管理」を意識するようになりました。機能訓練と実生活での応用を橋渡しする視点が重要だと思います。


よくある質問(FAQ)

Q1. 注意障害と「ぼーっとしてる」は同じですか?

似ていますが厳密には異なります。一般的な「ぼーっとする」は覚醒の低下ですが、注意障害は「特定の対象に意識を向け続けたり、切り替えたりする」機能の障害です。覚醒は保たれているのに注意の機能だけが落ちている、というのが特徴的なパターンです。

Q2. PTがリハ中に意識すべき声かけは?

「左を見て」「足元に注意」など視線・注意を誘導する声かけが基本。注意の持続が短い患者さんには「区切りを明確に」「1動作1指示」「視覚的合図を併用」が有効です。説明は短く、復唱を求めて理解を確認するのもコツです。

Q3. 注意障害は時間とともに改善しますか?

急性期から3-6か月で大きく改善することが多いですが、軽度の機能低下は長期に残ることもあります。Robertson et al.(1995)のAttention Process Trainingなど直接訓練のエビデンスがあり、適切な介入で改善率を上げられます。

Q4. USNと注意障害は何が違いますか?

USNは「空間内の左側に意識が向かない」空間性注意障害、注意障害は「特定の対象や課題に意識を向け続けられない」より広範な機能障害です。USNは右頭頂葉損傷、注意障害は前頭葉/前頭頭頂ネットワーク損傷で起こることが多く、併発も少なくありません。


まとめ

  • 注意は覚醒の上に成り立つ「選択・持続・転換・分配」の4機能。脳卒中後はこれらが個別に障害される
  • 易疲労性が脳卒中後の注意障害の特徴。リハ時間配分・休憩設計が大切
  • 評価はCAT/TMT/SDMTなど。日常生活場面の観察も併用
  • アプローチは「環境調整+代償戦略+直接訓練」の3本柱。OTと連携して進める
  • USN・失語症との併発が多いため、症状を切り分けながら関わる視点が大切

脳卒中後の遂行機能障害|種類・評価・PTのリハビリ介入

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免責事項

本記事は注意障害に関する一般的な情報提供を目的としており、特定の患者さんへの医療アドバイスを意図するものではありません。実際のリハビリ計画は、担当医・リハビリチームと連携のうえ、個々の患者さんの状態に応じて判断してください。


参考文献

  1. Sohlberg MM, Mateer CA. Effectiveness of an attention-training program. J Clin Exp Neuropsychol. 1987;9(2):117-130.
  2. 一般社団法人日本高次脳機能障害学会. 標準注意検査法(CAT). 新興医学出版社.
  3. 石合純夫. 高次脳機能障害学 第3版. 医歯薬出版; 2022.
  4. 日本リハビリテーション医学会. 脳卒中治療ガイドライン2021. 協和企画; 2021.
  5. 橋本圭司ほか. 注意障害のリハビリテーション. 総合リハビリテーション. 2010;38(9):849-855.
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ほーりー
脳卒中認定理学療法士/臨床13年目/総合病院勤務(回復期・地域包括・緩和ケア病棟)で累計500例以上の脳卒中患者のリハビリを担当。院内では新人PT教育・勉強会講師を継続。日本神経理学療法学会所属。新人PT・若手PTと患者様・ご家族に「現場の知見」をわかりやすく発信しています。