脳卒中後の遂行機能障害|種類・評価・PTのリハビリ介入を新人向けにやさしく解説

この記事でわかること
- 遂行機能障害とは何か、なぜリハビリで重要なのか
- 遂行機能の主な構成要素と分類
- 脳卒中後の遂行機能障害の特徴
- 評価方法とリハビリのアプローチ
- PTとしての関わり方のポイント
はじめに
脳卒中リハビリの現場で、こんな経験はありませんか?
「自分で訓練の段取りが組めない」「計画を立てても実行に移せない」「同じミスを繰り返しても修正できない」――これらはすべて遂行機能障害のサインかもしれません。
遂行機能障害は失語症・注意障害・記憶障害・半側空間無視と並ぶ、脳卒中後の代表的な高次脳機能障害のひとつです。一見「やる気がない」「頭を使わない」と誤解されやすいですが、実は脳の「実行系」が障害された状態です。
この記事では、新人PTが臨床で最低限知っておくべき遂行機能障害の種類・評価・リハビリのアプローチ・PTとしての関わり方をわかりやすく解説します。
遂行機能障害とは?
遂行機能障害とは、脳卒中などの脳損傷により「遂行機能(実行機能)」が低下した状態のことです。
遂行機能とは、目標を設定し、計画を立て、実行し、結果を評価・修正するという一連のプロセスを管理する高次の認知機能です。日常生活のあらゆる「段取り」に関わる機能であり、障害されると、一つひとつの動作はできても、全体を通じた行動がまとまらなくなります。
遂行機能の主な構成要素
遂行機能は以下の4つの要素から構成されます。
① 目標設定(Goal Setting)
何をするかを決め、動機づけを保つ能力です。
- 例:「退院後は自分で料理をしたい」という目標を立てる
- 障害されると:何をすべきかわからず、無目的な行動が増える
② 計画(Planning)
目標を達成するための手順を考える能力です。
- 例:料理に必要な材料・手順・時間を考える
- 障害されると:段取りが組めない、優先順位がつけられない
③ 実行(Execution)
計画に沿って行動を開始・維持する能力です。
- 例:レシピ通りに手を動かしていく
- 障害されると:行動が開始できない、途中で止まってしまう
④ 評価・修正(Evaluation)
行動の結果を確認し、必要に応じて修正する能力です。
- 例:「味が薄い→塩を足す」という判断をする
- 障害されると:同じミスを繰り返す、うまくいかなくても別の方法を試せない
臨床ポイント:遂行機能は「前頭葉」が中心的な役割を担っています。脳卒中後に前頭葉が障害された場合、遂行機能障害が生じやすくなります。
脳卒中後の遂行機能障害の特徴
| 損傷部位 | 主な症状 |
|---|---|
| 前頭前野(背外側部) | 計画・問題解決・作業記憶の障害 |
| 前帯状回 | 意欲・行動開始の障害(無動性無言など) |
| 眼窩前頭皮質 | 衝動制御・感情調整の障害 |
| 基底核・視床 | 行動の切り替え・柔軟性の障害 |
脳卒中後の遂行機能障害の主な症状:
- 開始困難:指示されるまで行動を始められない
- 保続:一度始めた行動をやめられず繰り返す
- 衝動性の亢進:考える前に行動してしまう
- 柔軟性の低下:状況に応じて方法を変えられない
- 病識の低下:自分の障害に気づいていない
- 社会的行動障害:場に合わない言動が増える
評価方法
1. BADS(遂行機能障害症候群の行動評価)
日常生活に近い場面設定での遂行機能を評価できる、生態学的妥当性の高い検査です。
| 下位検査 | 評価内容 |
|---|---|
| 規則変換カード検査 | ルールに従いながら反応を切り替える |
| 行為計画検査 | 問題解決のための計画立案 |
| 鍵探し検査 | 効率的な探索方略の立案 |
| 時間判断検査 | 時間の見積もり能力 |
| 動物園地図検査 | 計画に沿った道順を決める |
| 修正6要素検査 | 複数の課題を時間内に管理する |
- 日常生活上の困難を反映しやすく、リハビリ計画の立案に有用
- 新人PTでも実施しやすい検査のひとつ
2. TMT(Trail Making Test)
転換性注意・認知的柔軟性を評価します。
- Part A(数字順)とPart B(数字・文字交互)の遂行時間・エラーを比較
- Part BがPart Aより著しく遅い・エラーが多い場合、遂行機能の低下を示唆
3. FAB(前頭葉機能検査)
前頭葉機能を短時間で評価できるスクリーニング検査です。
- 概念化・知的柔軟性・プログラミング・干渉抑制・抑制コントロールの6項目
- 18点満点で、12点以下が前頭葉機能の低下を示唆
4. WCST(ウィスコンシンカード分類課題)
概念形成・認知的柔軟性・保続を評価する検査です。
- フィードバックに基づいてルールを変える能力を測定
- 保続エラーが多い場合、遂行機能障害を強く示唆
5. 行動観察
検査に加え、訓練場面・ADL場面での観察が非常に重要です。
- 訓練の段取りを自分で組めるか
- 手順を誤っても自己修正できるか
- 複数の課題を並行して管理できるか
- 場に合わない言動がないか
注意:遂行機能検査は環境依存性が高く、構造化された検査室では能力が発揮されても、実生活では困難が生じることがあります。検査結果だけでなく、行動観察との照合が不可欠です。
リハビリテーションのアプローチ
① 目標管理訓練(GMT:Goal Management Training)
現在の状況を止まって確認し、目標に沿って行動を修正する訓練法です。
- 「Stop(止まる)」:今やっていることを一度止める
- 「Define(目標確認)」:今の目標は何かを確認する
- 「List(手順化)」:目標達成に必要な手順をリストアップする
- 「Learn(記憶)」:手順を頭に入れる
- 「Check(確認)」:実行後に目標達成を確認する
② 問題解決訓練
日常生活上の問題を段階的に解決するスキルを練習します。
- 問題を具体的に定義する
- 解決策をいくつか考える
- 最善策を選ぶ
- 実行する
- 結果を評価する
③ エラーレス学習
遂行機能障害では、エラーを自己修正する能力が低下しているため、最初から正しい手順だけを繰り返すエラーレス学習が有効です。
- 移乗動作・起立動作など安全に関わる動作の習得に特に有用
- 一度に一手順ずつ、確実に覚えさせる
④ 外的補助法(構造化)
遂行機能の代わりに外部から構造を提供します。
| ツール | 活用例 |
|---|---|
| チェックリスト | ADLの手順を書き出して確認しながら行う |
| タイムテーブル | 1日の流れを視覚的に示す |
| アラーム・タイマー | 課題切り替えのタイミングを知らせる |
| 手順カード | 動作の手順を写真やイラストで示す |
⑤ 環境調整
遂行機能の負担を減らす環境を整えます。
- 課題を一度に一つだけ提示する(マルチタスクを避ける)
- 毎日同じルーティンで行動する
- 物の置き場を固定して迷わなくする
- 衝動性がある場合は「一呼吸置く」習慣をつける
PTとしての関わり方のポイント
訓練設計での工夫
| 場面 | 工夫 |
|---|---|
| 訓練の説明 | 一度に一手順ずつ・完了を確認してから次へ |
| 動作習得 | チェックリストを活用して手順を視覚化 |
| エラーへの対応 | エラーレス学習を基本とし、正しい方法のみ繰り返す |
| 自己修正の促し | 「今何の練習でしたっけ?」と立ち止まる機会を設ける |
他職種・家族への情報共有
遂行機能障害は日常生活全般に影響するため、チームでの情報共有が不可欠です。
- 看護師:ADL手順の統一・チェックリストの活用
- OT:日常生活課題の段階づけ・補助ツールの導入
- ST:前頭葉機能の詳細評価との連携
- 家族:「不真面目・怠けている」ではなく、「段取りが難しくなっている」という理解促進
病識の低下への対応
遂行機能障害では自分の障害に気づかない(病識の低下)ことが多く、特に対応が難しい側面です。
- 自分のエラーに気づかず、問題行動が続くことがある
- 頭ごなしに否定せず、「一緒に確認しましょう」という姿勢で関わる
- ビデオフィードバックや記録を用いて、客観的な気づきを促す試みも有効
リスク管理
遂行機能障害がある患者さんは、衝動的な行動による転倒・転落リスクが高いです。
- 「立ってはいけない」というルールが守れない場合がある
- ベッドまわりの環境整備(センサーマット・ナースコールの位置)を病棟スタッフと共有する
注意障害・記憶障害との関係
高次脳機能障害は合併することが多く、鑑別と総合的な評価が重要です。
- 注意障害との合併:持続性注意が低下すると、計画の実行・維持が難しくなり、遂行機能障害に見えることがある
- 記憶障害との合併:計画した内容を忘れてしまうと、遂行機能が低下しているように見える場合がある
- これらが合併している場合は、どの機能の低下が主因かを丁寧に評価することが重要
ほーりーの臨床メモ
遂行機能障害は「高次脳機能障害の中で最も日常生活への影響が大きい」と感じています。料理・仕事・外出など、「段取りが必要な活動」が軒並み難しくなるからです。
臨床で印象的だったのは、「簡単な作業は問題なくできるのに、複数のステップを組み合わせると崩れる」患者さんでした。検査室では正常範囲だったのに、病棟での行動観察では明らかな問題がある。日常場面での観察が評価の肝だと学ばせてもらった患者さんでした。
退院後の生活設計では、「患者さんが自分で段取りできること」と「サポートが必要なこと」を具体的に整理し、家族と共有しておくことが重要です。早期から実際の活動場面での評価を組み込むこともOT、STと協力したいですね。
まとめ
遂行機能障害について重要なポイントをまとめます。
- 遂行機能は目標設定・計画・実行・評価の4要素からなる
- 主に前頭葉が担い、脳卒中後に障害されやすい
- 評価はBADS・FAB・TMT・行動観察を組み合わせる
- リハビリは目標管理訓練・問題解決訓練・外的補助法・環境調整が基本
- 訓練では一手順ずつ・チェックリスト・エラーレス学習を活用する
- 病識の低下と衝動性による安全管理に注意し、チームで情報共有する
遂行機能障害は「頭を使わない人」「不真面目な人」ではありません。脳の「段取り機能」が障害された状態であり、正しく理解し適切なサポートを行うことが、患者さんの安全な日常生活と社会復帰につながります。
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免責事項
本記事は遂行機能障害に関する一般的な情報提供を目的としており、特定の患者さんへの医療アドバイスを意図するものではありません。実際のリハビリ計画は、担当医・リハビリチームと連携のうえ、個々の患者さんの状態に応じて判断してください。
参考文献
- Wilson BA, Alderman N, Burgess PW, Emslie H, Evans JJ. Behavioural Assessment of the Dysexecutive Syndrome (BADS). Thames Valley Test Company; 1996.
- Dubois B, Slachevsky A, Litvan I, Pillon B. The FAB: a Frontal Assessment Battery at bedside. Neurology. 2000;55(11):1621-1626.
- Levine B, Robertson IH, Clare L, et al. Rehabilitation of executive functioning: an experimental-clinical validation of Goal Management Training. J Int Neuropsychol Soc. 2000;6(3):299-312.
- 石合純夫. 高次脳機能障害学 第3版. 医歯薬出版; 2022.
- 日本リハビリテーション医学会. 脳卒中治療ガイドライン2021. 協和企画; 2021.
- 橋本圭司. 高次脳機能障害のリハビリがわかる本. 講談社; 2010.


















