この記事でわかること

  • 脳卒中後の肩の痛み(PSSP)の定義と有病率
  • PSSPの4つの主要原因とそれぞれのメカニズム
  • 亜脱臼・軟部組織・肩手症候群の評価方法
  • ポジショニング・FES・鏡療法など介入のエビデンス
  • 臨床で迷いやすいポイントへの実践的な回答

はじめに

「もう少し動かしますよ」と声をかけて肩を挙上した瞬間、患者さんが顔をしかめる——。

脳卒中リハビリの現場で、こんな場面を経験したことのある療法士は多いはずです。

脳卒中後の肩の痛み(Post-Stroke Shoulder Pain:PSSP)は、発症後2〜3か月以内に30〜84%の患者に生じるとされる非常に頻度の高い問題です。にもかかわらず、「なぜ痛いのか」「どこまで動かしてよいのか」「どう介入すればよいのか」が曖昧なまま対応されることが少なくありません。

痛みは上肢機能回復を妨げるだけでなく、リハビリ意欲を低下させ、ADL・QOLに長期的な悪影響を与えます。若手PTにとっては、「痛みのある患者の肩をどう扱うか」は臨床の基本スキルの一つです。

この記事では、PSSPの原因・メカニズム・評価・リハビリへの活かし方を、最新エビデンスと13年の臨床経験をもとに解説します。

脳卒中後の肩の痛み(PSSP)とは

PSSPとは、脳卒中発症後に麻痺側の肩関節周囲に生じる疼痛の総称です。単一の病態ではなく、複数の原因が単独あるいは複合的に関与する「症候群」として理解する必要があります。

有病率と発症時期

文献によって有病率は30〜84%と大きくばらつきますが、これは評価時期・評価方法・疼痛の定義が研究ごとに異なることが主な原因です。スウェーデンの大規模前向き研究(Lindgren et al., 2007)では、脳卒中後16か月の時点で約55%に肩の痛みが認められ、そのうち約40%が日常生活に支障をきたす程度であったと報告されています。

発症時期としては、弛緩性麻痺の時期(急性期〜回復期前半)に亜脱臼が生じやすく、その後の痙縮出現に伴って軟部組織の損傷や拘縮が加わります。肩手症候群は発症後1〜3か月に多く現れます。

PSSPがQOLに与える影響

肩の痛みは単なる局所症状にとどまらず、以下のような広範な影響を与えます。

  • 上肢機能訓練への参加意欲の低下
  • 睡眠障害(夜間痛)
  • 抑うつ・不安との関連
  • 在院日数の延長・退院後の回復停滞

Turner-Stokes & Jackson(2002)のレビューでは、肩の痛みが適切に管理されない場合、上肢のリハビリ全体の成果が著しく損なわれると指摘されています。

PSSPの4つの主要原因

PSSPは一言で「肩の痛み」とくくられますが、その背景には複数の異なるメカニズムが存在します。臨床では複数の原因が重複して存在することも多く、それぞれを個別に評価・対応することが重要です。

①肩関節亜脱臼(Glenohumeral Subluxation)

肩関節亜脱臼は、弛緩性麻痺によって肩関節を支持する筋(特に棘上筋・三角筋後部線維)のトーヌスが低下し、重力によって上腕骨頭が関節窩から下方にずれた状態です。

有病率は報告によって17〜81%と幅がありますが、発症直後の弛緩期にはほぼ必発と考えてよいでしょう。亜脱臼そのものが直接的な痛みの原因かどうかについては議論があり、亜脱臼があっても無症状の患者も存在します。

しかし亜脱臼が長期化すると、関節包・回旋筋腱板・肩峰下滑液包への慢性的なストレスが加わり、二次的な軟部組織損傷へと進展します。また、不用意な上肢の牽引(移乗時・更衣介助時など)は亜脱臼を悪化させ、神経血管束への損傷リスクも高めます。

②軟部組織の損傷(腱板損傷・関節包拘縮)

脳卒中後の肩関節には、腱板断裂・腱板炎・肩峰下滑液包炎・関節包拘縮(いわゆる五十肩様の拘縮)がしばしば合併します。

Lo SF et al.(2003)の関節造影研究では、片麻痺患者の疼痛例の約70%に軟部組織病変(回旋筋腱板損傷・関節包炎・滑液包炎など)が認められたと報告されています。これらの病変の多くは、不適切なポジショニングや誤ったハンドリングによって引き起こされます。

痙縮が出現すると、内旋・内転方向への持続的な短縮が生じ、外旋可動域の制限が顕在化します。この段階では、無理な外旋強制は腱板・関節包をさらに損傷させるリスクがあるため、ROM訓練の手技に特別な注意が必要です。

③肩手症候群(複合性局所疼痛症候群 CRPS type Ⅰ)

肩手症候群(Shoulder-Hand Syndrome)は、脳卒中後にみられる複合性局所疼痛症候群(CRPS type Ⅰ)の一形態です。発症後1〜3か月に多く現れ、以下の特徴的な三徴を呈します。

  • 肩の疼痛:安静時・運動時ともに生じる灼熱感を伴う痛み
  • 手・手関節の浮腫:手背を中心とした非圧痕性浮腫
  • 栄養障害性変化:皮膚色の変化(紅潮・蒼白)・皮膚の光沢・爪の変形など

病態の中心は自律神経系の異常(交感神経過活動)と、末梢・中枢の炎症性機序です。脳卒中後の自律神経調節障害・静脈還流不全・不動(immobilization)が誘因となりえます。

放置すると慢性化・萎縮期(皮膚萎縮・骨萎縮)へと進展し、不可逆的な機能障害を残します。早期発見・早期介入が極めて重要です。

④中枢性感作(Central Sensitization)

脳卒中後の肩の痛みには、上述した末梢の組織損傷だけでなく、中枢神経系の感作(Central Sensitization)が関与していることがあります。

中枢性感作とは、脊髄後角〜上位中枢における痛みの信号処理が過敏化した状態です。以下のような症状が特徴的です。

  • 組織損傷の程度と不釣り合いな強い痛み
  • アロディニア(触れただけで痛い)
  • 痛み部位が肩に限定されず広がる
  • 安静時痛・夜間痛が顕著

中枢性感作が生じている場合、末梢へのアプローチ(ROM訓練・電気刺激など)だけでは効果が不十分なことが多く、疼痛教育(Pain Neuroscience Education)や認知行動療法的なアプローチを組み合わせる必要があります。脳卒中後中枢性疼痛(CPSP)との鑑別も重要です。

PSSPの評価

PSSPの評価では、「どの原因が主体か」を鑑別することが介入の方向性を決める上で不可欠です。以下に主要な評価項目を示します。

亜脱臼の評価

触診(指幅法):もっとも簡便な方法です。肩峰と上腕骨頭の間に挿入できる指の本数(finger-breadth: FB)で重症度を表します。1FB≒1cmの亜脱臼に相当し、2FB以上では明らかな脱臼と評価されます。ただし検者間信頼性はやや低く、スクリーニングとして活用します。

X線評価:立位または坐位での肩関節正面像が標準的です。上腕骨頭と関節窩の距離(acromiohumeral distance)を測定します。健側との比較が重要で、差が10mm以上あれば臨床的に有意な亜脱臼とみなすことが多いです。

超音波評価:近年では筋骨格超音波による評価が注目されています。非侵襲的・リアルタイムで亜脱臼の程度や腱板の状態を確認できるため、介入前後の変化を追うツールとしても有用です。

関節可動域・軟部組織の評価

PSSPにおいて最も重要なROM制限は外旋(ER)と屈曲です。健側と比較して外旋制限が著明な場合、関節包後方の拘縮や腱板損傷が疑われます。

ROM測定時の注意点:

  • 測定時の代償動作(体幹側屈・肩甲骨挙上)を排除する
  • 痙縮の影響を考慮し、ゆっくりとしたストレッチ速度で実施する
  • 痛みの出現角度(疼痛弧)を記録する
  • エンドフィールの性状(硬い・やわらかい・痛みで制限)を確認する

肩手症候群の評価

肩手症候群(CRPS type Ⅰ)の診断には、2010年に改訂されたブダペスト基準(Budapest Criteria)が用いられます。以下の4カテゴリーのうち、3カテゴリー以上での症状報告と2カテゴリー以上での他覚所見が診断基準とされています。

  • 感覚異常:アロディニア・痛覚過敏の訴えと他覚所見
  • 血管運動異常:皮膚温・皮膚色の左右差の訴えと他覚所見
  • 発汗/浮腫異常:浮腫・発汗異常の訴えと他覚所見
  • 運動/栄養障害:可動域低下・運動障害・爪/皮膚/毛髪の変化の訴えと他覚所見

臨床では、手背の浮腫・皮膚の光沢・皮膚温の上昇や低下を丁寧に観察することが早期発見のカギになります。「なんとなく手がむくんでいる」を見逃さないようにしましょう。

疼痛の量的評価

VAS(Visual Analogue Scale)・NRS(Numerical Rating Scale):痛みの強さを0〜10の数値で評価します。NRSは失語症患者でも使いやすく、経時的な変化の追跡に適しています。

疼痛の質的評価:「じんじん・ずきずきする」(侵害受容性)か「灼熱感・電気が走る感じ」(神経障害性)かを問診で確認します。DN4(Douleur Neuropathique 4 Questions)は神経障害性疼痛のスクリーニングに有用で、7項目中4項目以上で神経障害性疼痛が疑われます。

疼痛の発症タイミング:「動作時だけ」「安静時も」「夜間に特に強い」という情報は、病態の鑑別に役立ちます。安静時・夜間痛が顕著な場合は、中枢性感作やCRPSの関与を疑います。

リハビリへの活かし方

PSSPの介入は「原因に合わせた多角的アプローチ」が基本です。以下に主要な介入とそのエビデンスを示します。

①ポジショニングとハンドリング

PSSPの予防・管理において、正しいポジショニングとハンドリングは最も基本的かつ重要な介入です。不適切な取り扱いが肩の痛みの直接的な引き金になることが多く、チーム全体での統一した対応が不可欠です。

臥位(仰臥位):麻痺側肩甲骨を前方へ引き出すように枕でポジショニングします。肩が後方へ落ち込む体位は亜脱臼を助長するため避けます。

臥位(側臥位・麻痺側下):麻痺側を下にして寝る場合は、肩を90度屈曲位・肘伸展位として体幹の前方に置きます。麻痺側の上に体重が乗り続ける姿勢は関節への圧迫が生じるため、時間を制限します。

坐位・車椅子:アームサポートやラップトレイを用いて上肢を支持し、重力による亜脱臼への牽引を軽減します。Griffin & Bernhardt(2006)のRCTでは、肩関節のストラッピングがリハビリ期間中の疼痛発症を有意に抑制したと報告しています。

移乗・更衣介助:麻痺側上肢を不用意に牽引することは厳禁です。移乗の際は「わきの下に手を入れて引き上げる」介助は亜脱臼を悪化させるリスクがあります。体幹から介助し、麻痺側上肢はサポートしながら保護します。

②関節可動域訓練の注意点

ROM訓練は拘縮予防・改善のために重要ですが、PSSPを有する患者では誤った実施がかえって疼痛を悪化させる可能性があります。

基本原則:

  • 肩甲骨の動きを十分に確保してから上腕骨を動かす(肩甲上腕リズムの維持)
  • 屈曲・外転時は必ず外旋を伴わせる(インピンジメント回避)
  • 痛みのない範囲で実施し、「軽い伸張感」を超えない
  • 弛緩期は特に亜脱臼に注意し、上腕骨頭を支持しながら動かす

痙縮が強い時期には、痙縮が軽減している時間帯(温熱療法後・入浴後)を選んでROM訓練を行うと、より安全かつ効果的に実施できます。

③機能的電気刺激(FES)

亜脱臼の予防・治療において最もエビデンスが蓄積されている介入のひとつがFES(Functional Electrical Stimulation)です。

主に棘上筋・三角筋後部線維への電気刺激によって筋収縮を誘発し、上腕骨頭を関節窩に引きつける力を補完します。Ada & Foongchomcheay(2002)のメタ分析では、FESが亜脱臼の予防と疼痛軽減に有効であることが示されています。

実施上のポイント:

  • 電極の貼付位置:棘上筋(肩甲棘と後外側の間)と三角筋後部(肩峰後方)が基本
  • 刺激パラメータ:20〜30Hz・パルス幅300μs前後が一般的
  • 強度は視覚的な関節整復が確認できる最小電流から開始
  • 1回20〜30分・1日2回以上が推奨されることが多い

FESは亜脱臼と疼痛の両方にアプローチできる点で特に有用ですが、感覚障害が高度な場合は刺激の強さの調整に注意が必要です。

④鏡療法(Mirror Therapy)

鏡療法は、健側の動きを鏡に映し、視覚的に麻痺側が動いているように見せることで脳の運動・感覚野を活性化させる介入です。上肢機能の改善を目的として使われることが多いですが、慢性的な疼痛(特にCRPS的な症状)に対する鎮痛効果も報告されています。

疼痛への効果のメカニズムとしては、「動いていない(使えていない)」という脳の誤認識(learned non-use)を修正し、皮質の感覚運動マップを再編成することで中枢性感作を緩和すると考えられています。

実施上のポイント:

  • 机上に縦置きした鏡の健側前に座り、麻痺側を鏡の後ろに隠す
  • 鏡に映る健側の動きに集中しながら、麻痺側も同じ動きをするよう意識する
  • 10〜30分/回・1日1〜2回を目安に実施
  • 高次脳機能障害(半側空間無視・注意障害)が強い場合は効果が限定的になりやすい

⑤肩手症候群(CRPS)への介入

肩手症候群に対しては、以下の多角的なアプローチが推奨されています。

浮腫のコントロール:手の挙上(elevation)・圧迫包帯・求心性マッサージが基本です。麻痺側の手を心臓より高い位置に保つポジショニングを日常的に行います。

自動・他動運動:手関節・手指の可動域訓練を丁寧に行い、不動による悪化を防ぎます。ただし急性期の強い炎症期には積極的な伸張は避け、浮腫管理を優先します。

薬物療法との連携:CRPSに対してはコルチコステロイドの短期投与が有効とされています。副腎皮質ステロイドの内服が疼痛・浮腫の軽減に効果的で、早期の機能回復を助けることが報告されています。薬物療法は医師との連携の下で進めます。

疼痛教育(PNE):患者・家族に「なぜ痛みが起きているのか」を神経科学の観点からわかりやすく説明することで、痛みへの恐怖・回避行動を軽減します。特に中枢性感作が関与している場合は、PNEがリハビリへの参加意欲向上に有効です。

⑥ボツリヌス毒素療法との連携

痙縮による持続的な内旋・内転方向への短縮が疼痛の主因となっている場合、ボツリヌス毒素(A型)の投与が有効です。大胸筋・肩甲下筋への注射によって筋トーヌスを一時的に低下させ、ROMを改善します。

ボツリヌス療法後の効果を最大化するには、「注射後2〜4週間のリハビリ期」をいかに有効に使うかが重要です。筋トーヌスが低下している時期に積極的にROM訓練・機能訓練を行うことで、持続的な機能改善が期待できます。


ほーりーの臨床メモ

13年間脳卒中リハビリに関わってきて、肩の痛みで一番多く見てきた失敗は「痛みの原因を特定せずに漫然とROMをやり続けること」です。

たとえば亜脱臼が主因の患者に、肩甲骨の動きを確保せずに上肢挙上のROMをかけ続けると、インピンジメントを起こして腱板を痛めます。逆に、中枢性感作が主体の患者に「頑張って動かしましょう」と積極的なROMを進めると、恐怖回避行動が強化されてかえって痛みが慢性化します。

臨床で使える鑑別の「ひとつの目安」として、私は「痛みが運動時のみか、安静時・夜間もあるか」を必ず確認します。安静時・夜間痛が強い場合はCRPSや中枢性感作を疑い、薬物療法・PNEを組み合わせるアプローチにシフトします。逆に動作時のみの痛みであれば、まず亜脱臼や軟部組織の機械的な問題を疑います。

もう一点、チーム全体への教育がPSSP管理では欠かせません。看護師・介護士が移乗・更衣時に麻痺側上肢を引っ張っていたり、車椅子でアームサポートなしのまま過ごさせていたりすることが、せっかくのリハビリ効果を消してしまう原因になります。「なぜそのポジショニングが必要か」をチームで共有することが、最も大切な介入のひとつです。


まとめ

  • PSSPは脳卒中後30〜84%に生じる頻度の高い問題で、QOL・上肢機能回復に大きく影響する
  • 原因は①亜脱臼・②軟部組織損傷・③肩手症候群(CRPS)・④中枢性感作の4つが主体であり、複合している場合が多い
  • 評価では触診・X線・ROM・疼痛の質(安静時/動作時/夜間)を組み合わせて原因を鑑別する
  • ポジショニング・ハンドリングはPSSP予防の根幹であり、チーム全体で統一した対応が必要
  • FESは亜脱臼・疼痛の両方に有効で、最もエビデンスが蓄積されている介入のひとつ
  • CRPS・中枢性感作が関与している場合は、薬物療法・PNEを組み合わせたアプローチが重要

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免責事項

本記事は脳卒中後の肩の痛みに関する一般的な情報提供を目的としており、個別の医学的診断・治療を推奨するものではありません。実際の治療・リハビリ方針については、担当の医師・療法士にご相談ください。

参考文献

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ほーりー
脳卒中認定理学療法士/臨床13年目/総合病院勤務(回復期・地域包括・緩和ケア病棟)で累計500例以上の脳卒中患者のリハビリを担当。院内では新人PT教育・勉強会講師を継続。日本神経理学療法学会所属。新人PT・若手PTと患者様・ご家族に「現場の知見」をわかりやすく発信しています。