「なぜ触れるだけで痛いのか」を解き明かす——脳卒中後中枢性疼痛(CPSP)の病態・評価・リハビリへの活かし方

「シーツが触れるだけで激痛が走る」「冷たい風が当たると皮膚が焼けるように痛い」「安静にしているのに電気が流れるような痛みがずっと続いている」——脳卒中のリハビリ現場で、こうした訴えをする患者さんに出会ったことはないでしょうか。
一見「大げさでは?」と思いたくなるような痛みの訴えでも、それが脳卒中後中枢性疼痛(Central Post-Stroke Pain:CPSP)であれば、患者さんにとっては紛れもない現実です。CPSPは脳卒中患者の約8〜35%に生じるとされ、特に視床・脳幹を損傷した場合は発症率がさらに高くなります。適切に認識・対処されなければ、リハビリへの参加意欲を著しく損ない、うつ・不眠・QOL低下の連鎖を引き起こす重大な問題です。
この記事では、CPSPの病態メカニズムから評価ツール・薬物療法の概要・非薬物療法の最新エビデンスまでを体系的に整理します。「あの患者さんの痛みはなぜ普通と違うのか」という臨床の疑問に答えながら、リハビリの現場で即使える知識をお伝えします。
この記事でわかること
- 脳卒中後中枢性疼痛(CPSP)の定義・発症頻度・発症時期と、その臨床的重要性
- 「触れるだけで痛い(アロディニア)」が生じるメカニズム——中枢性感作・抑制系障害・神経炎症の3つの視点から解説
- 自発痛・アロディニア・痛覚過敏・感覚異常の違いと、臨床で役立つ鑑別ポイント
- DN4・painDETECTを使ったスクリーニングと感覚検査の進め方
- ガイドラインに基づく薬物療法の概要(PTとして知っておくべき基本知識)
- TENS・鏡療法・rTMSなど非薬物療法の最新エビデンスとリハビリへの具体的な活かし方
CPSPとは何か——定義と概念整理
CPSPは脳卒中によって生じた中枢神経系の障害を直接の原因とする神経障害性疼痛(neuropathic pain)です。Klit・Finnerup・Jensenらによる定義(Lancet Neurol, 2009)では、以下の3条件を満たすものとされています。
- 脳卒中後に発症した疼痛または感覚不快感(dysesthesia)であること
- 脳卒中による感覚変化を伴う部位と一致すること
- 他の原因(末梢性・筋骨格性・心因性)では説明できないこと
神経障害性疼痛の中でも、CPSPは中枢神経系(脳・脊髄)の損傷に起因するものに分類されます。末梢神経の障害による疼痛(糖尿病性神経障害・帯状疱疹後神経痛など)とは、病態メカニズムや治療戦略が根本的に異なります。神経障害性疼痛の診断・分類に関する国際的な枠組み(Treede et al., Neurology, 2008)でも、この中枢性・末梢性の区別は重要視されています。
発症頻度と発症時期
発症頻度には報告によって大きな幅(8〜35%)があります。これは診断基準の違い・観察期間の差・研究対象集団の損傷部位の偏りなどが影響しています。Liampasらのシステマティックレビュー(Adv Ther, 2020)では、全脳卒中患者における有病率の中央値を約11%としており、特に視床損傷後のCPSP発症率は25〜45%に達すると報告されています。
発症時期は脳卒中後1〜6ヶ月以内が最多ですが、急性期(発症直後)から数年後まで幅広く報告されています。急性期は感覚障害・運動障害・意識障害が前景に出るため疼痛が見落とされやすく、回復期に感覚が部分的に戻り始めたタイミングで「なぜか激しく痛い」という形で顕在化するパターンが典型的です。
なぜ「普通の感覚が痛みに変わる」のか——病態メカニズム
CPSPの病態は単一のメカニズムで説明できるものではなく、複数の要素が複雑に絡み合っています。現在の理解を「①感覚伝導路の破綻」「②中枢性感作」「③下行性疼痛抑制系の機能不全」「④グリア細胞の活性化と神経炎症」の4つの視点から整理します。
① 感覚伝導路の破綻
通常、痛みの信号は脊髄後角→脊髄視床路→視床(VPL核・板内核)→大脳皮質(一次体性感覚野・島皮質・前帯状回)という経路で処理されます。CPSPではこの感覚伝導路のどこかに損傷が生じます。
重要なのは「経路が完全に切断されるのではなく、部分的に残存することで異常な信号が生成される」点です。完全離断では逆に疼痛は生じにくく、部分的な障害(いわゆる「脱抑制」状態)で神経が異常発火を持続することがCPSPの本質です。最も関与が大きいのは脊髄視床路および視床VPL核(後腹側外側核)の障害で、ここが損傷されると正常な感覚フィルタリング機能が失われます。
② 中枢性感作(central sensitization)
中枢性感作とは、中枢神経系の痛み処理回路が過剰に興奮しやすい状態になることです(Woolf, Pain, 2011)。正常であれば痛みとして処理されない刺激(軽い触覚・温覚)が、感作された神経回路では痛みとして処理されてしまいます。これがアロディニアや痛覚過敏の神経生理学的基盤です。
中枢性感作には以下のメカニズムが関与します:
- NMDA受容体の過活動:グルタミン酸系神経伝達の亢進により、後角および上位中枢の興奮性が持続的に上昇する
- シナプス効率の長期増強(LTP):疼痛回路のシナプスが強化され、わずかな入力でも痛みが生じる閾値が下がる
- 受容野の拡大:本来は痛覚に関与しない領域のニューロンが痛み処理に動員される
③ 下行性疼痛抑制系の機能不全
正常な痛みの調節には下行性疼痛抑制系が働いています。中脳水道周囲灰白質(PAG)→延髄大縫線核→脊髄後角というルートで、セロトニン・ノルアドレナリンを介した鎮痛機構が働いています。脳卒中によってこの系が障害されると、痛みのブレーキが効かなくなり、末梢からの入力が無制限に痛みとして処理されます。
三環系抗うつ薬(TCA)やSNRIが神経障害性疼痛に有効なのは、セロトニン・ノルアドレナリンの再取り込みを阻害することでこの抑制系を補強するためです。この理解は薬物療法の選択根拠を患者さんに説明する際にも役立ちます。
④ グリア細胞の活性化と神経炎症
脳卒中後、損傷を受けた領域周囲ではミクログリア・アストロサイトが活性化し、炎症性サイトカイン(IL-1β・TNF-α・IL-6)の産生が増加します。これらの炎症性物質は痛み処理ニューロンの興奮性をさらに高め、中枢性感作を促進・維持します。この「神経炎症」は脳卒中後の急性期から始まり、慢性化するケースでは数ヶ月〜数年にわたって持続することが示唆されており、CPSPの難治性に深く関わっています。
CPSPの症状の特徴——「普通の痛み」とは何が違うのか
CPSPの症状は多彩で、同じ患者でも複数の痛みが混在することが多いです。まず全体像を表で整理し、それぞれの臨床的な特徴を解説します。
| 症状 | 定義 | 患者の訴えの例 |
|---|---|---|
| 自発痛(spontaneous pain) | 外部刺激なしに生じる痛み | 「ずっと灼けるような痛みがある」「電気が流れる感じ」 |
| アロディニア(allodynia) | 通常は痛みを生じない刺激で痛みが生じる | 「シーツが触れるだけで激痛」「冷たい風が皮膚に当たると焼ける」 |
| 痛覚過敏(hyperalgesia) | 通常の痛み刺激に対して過剰な痛みが生じる | 「軽く押しただけで激痛が走る」 |
| 感覚異常(dysesthesia) | 感覚の質的な変化・不快感 | 「皮膚がじりじりする」「ピリピリして不快」 |
自発痛の特徴
CPSPの自発痛には灼熱感(burning)・しめつけ感(squeezing)・刺すような痛み(lancinating)・電撃痛(electric shock-like)などが挙げられます。「ずっと痛みが続いている」「波状に激痛が来る」など、持続性と発作性が混在することもあります。
一般的な「組織損傷による痛み」(侵害受容性疼痛)とは異なり、NSAIDsなどの一般的な鎮痛薬が効きにくいという特徴があります。「ロキソニンを飲んでも全然効かない」という訴えは、CPSPを疑う重要なサインのひとつです。
アロディニアの特徴
アロディニアはCPSPの中でも特に患者のQOLを著しく損なう症状です。冷覚アロディニア(cold allodynia)——冷たい刺激が強い痛みとして感じられる——はCPSPに特徴的で、頻度が高いとされています(Klit et al., 2009)。
衣服の接触・シーツ・温度変化・気流などが痛みのトリガーになるため、着替え・清拭・ベッドメイキングなどのリハビリ場面で突然疼痛が増悪することがあります。リハビリスタッフがこのメカニズムを知らないと「なぜ今痛がるのか」が理解できず、適切な対応が遅れます。
情動・睡眠への影響
CPSPはしばしばうつ・不安・睡眠障害を合併します。慢性疼痛→不眠→意欲低下→リハビリ参加困難→廃用進行という悪循環が生じやすく、「痛みの管理」だけでなく心理社会的なアプローチも欠かせません。Finnerup(N Engl J Med, 2022)は神経障害性疼痛の総説の中で、この情動的側面へのアプローチが長期予後を左右すると指摘しています。
どの損傷部位でCPSPが起きやすいか
CPSPは脳卒中による感覚伝導路の損傷から生じるため、感覚路に関与する部位の損傷で発症リスクが高まります。
| 損傷部位 | CPSPの発生頻度の目安 | 臨床的特徴 |
|---|---|---|
| 視床(特にVPL核・板内核) | 最多(25〜45%) | 典型的な「視床痛」。感覚障害との合併が多い。冷覚アロディニア顕著 |
| 延髄外側(Wallenberg症候群) | 比較的高頻度 | 顔面・体幹のアロディニア。冷覚アロディニアが特徴的 |
| 橋・中脳 | 中等度 | 脊髄視床路の障害による四肢の疼痛 |
| 島皮質・前帯状回 | 比較的低頻度 | 痛みの情動的側面(苦痛感・不快感)の増強が主体のことも |
| 放線冠・内包(後脚) | 中等度 | 皮質下の感覚路障害による。感覚障害と痛みが合併 |
視床痛(thalamic pain)はCPSPの代表例です。視床VPL核は体性感覚・痛覚・温度覚の主要中継核であり、ここが損傷されると感覚情報の異常処理が生じます。「感覚が戻ってきたと思ったら今度は激しい痛みが出た」というケースは、視床損傷後のCPSP発症として理解できます。
なお、Wallenberg症候群(延髄外側梗塞)では顔面の温度痛覚消失(同側)と体幹・四肢の温度痛覚消失(対側)という交差性感覚障害が生じますが、回復過程でCPSPが出現することがあり、特に冷覚アロディニアが強くなりやすいことが知られています。
他の痛みとの鑑別
CPSPの診断で重要なのは、他の原因による疼痛を系統的に除外することです。
| 疾患・状態 | 特徴・鑑別ポイント |
|---|---|
| 痙縮による痛み | 筋の過剰収縮・強直に伴う筋骨格性疼痛。関節可動域制限・筋緊張亢進と一致する部位。ストレッチで再現される |
| 肩手症候群(CRPS type I) | 非麻痺側との比較で皮膚色・温度・浮腫の変化が顕著。交感神経系の関与が大きい |
| 肩関節周囲炎・亜脱臼 | 上肢特異的。受動的な関節運動で疼痛が再現される |
| 末梢神経障害性疼痛 | 糖尿病合併例など。分布は末梢神経に一致(手袋・靴下型)。深部腱反射の変化あり |
| 心因性疼痛 | 解剖学的な感覚変化の分布と痛みの分布が一致しない。精神科的評価が有用 |
「脳卒中と同側に痛みがある」「感覚変化の範囲と痛みの範囲が解剖学的に一致しない」「NSAIDsで十分に緩和される」場合は、他の原因を再考する必要があります。
評価のポイント
スクリーニングツール
CPSPのスクリーニングには、神経障害性疼痛を同定するために開発されたツールが有用です。
DN4(Douleur Neuropathique 4 questions)
4項目のインタビューと身体所見から構成される10点満点のツールで、4点以上で神経障害性疼痛の可能性が高いとされます(感度80%・特異度92%)。質問が簡潔でPTも日常臨床で活用しやすいという利点があります。
painDETECT(ペインデテクト)
7つの症状質問と痛みパターンの自己記入式問診票で、19点以上で神経障害性疼痛の可能性が高いとされます(感度85%・特異度80%)。患者が自己記入できるため外来での運用に向いています。
いずれのツールも「神経障害性疼痛の可能性を示すスクリーニングツール」であり、CPSPの確定診断には神経学的評価・他疾患の除外が必要です。
感覚検査(アロディニアの確認)
臨床で行える感覚検査のポイントを整理します。必ず非麻痺側と比較しながら行い、感覚の「消失」だけでなく「質的変化(温覚が痛覚として感じられるなど)」に注目することが重要です。
- 触覚アロディニアの確認:綿や柔らかい刷毛で皮膚に軽く触れ「痛いか不快か」を確認。正常ならくすぐったい・柔らかいと感じるはずの刺激が痛みとして報告されたら陽性
- 冷覚アロディニアの確認:冷たいチューブや金属製のツールを皮膚に軽く当てる。通常の冷感として感じるはずの刺激が強い痛みとして報告されたら陽性(CPSPに特徴的)
- 温度覚の確認:温冷チューブを用いた識別課題(温かい・冷たいを区別できるか)
- 痛覚閾値の確認:先が鈍いピンなどで軽く刺激し、痛みの感じ方の左右差を確認
痛みの性状・強度の把握
- NRS(Numerical Rating Scale)0〜10:痛みの強度の簡便な評価。安静時・動作時・最悪時をそれぞれ確認する
- MPQ(McGill Pain Questionnaire):痛みの質(感覚的・情動的・評価的側面)を多角的に評価。CPSPに特徴的な「灼熱感・電撃痛」が選択されやすい
- 増悪因子・緩和因子の確認:寒冷・接触・運動・気分状態・時間帯など
QOL・睡眠・うつの評価
CPSPは慢性疼痛として扱うため、痛みの強度だけでなくQOL・睡眠・抑うつの評価も必要です。
- PHQ-9(患者健康質問票):抑うつのスクリーニング(9点以上で要注意)
- PSQI(Pittsburgh Sleep Quality Index):睡眠の質の評価
- SF-36 / EQ-5D:包括的QOL評価
薬物療法——PTとして知っておくべき概要
CPSPの薬物療法はPTが処方・変更するものではありませんが、どのような薬が使われているか・なぜその薬が使われるかを理解することは、リハビリの計画立案に直接役立ちます。Finnerupらのシステマティックレビュー(Lancet Neurol, 2015)および日本脳卒中治療ガイドライン2021に基づいて整理します。
| 薬剤 | 種類 | 作用機序 | 推奨度・注意点 |
|---|---|---|---|
| アミトリプチリン | 三環系抗うつ薬(TCA) | セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害→下行性抑制系強化 | 第一選択。眠気・起立性低血圧→転倒リスクに注意 |
| ラモトリギン | 抗てんかん薬 | Naチャネル遮断・グルタミン酸放出抑制→中枢興奮性の低下 | CPSPへの有効性がRCTで示されている。皮疹の観察が必要 |
| プレガバリン/ガバペンチン | 抗てんかん薬 | α2-δ Caチャネルサブユニット結合→興奮性神経伝達抑制 | 有効性あり。めまい・ふらつき→歩行・移乗訓練時に注意 |
| フルボキサミン(SSRI) | 抗うつ薬 | セロトニン再取り込み阻害 | 補助的に使用。単独での鎮痛効果はTCAより劣る |
PTとして特に注意すべき副作用:
- TCA(アミトリプチリン):眠気・口渇・起立性低血圧→転倒リスクが増加。特に起き上がり・立ち上がり訓練時に血圧変動を確認する
- プレガバリン/ガバペンチン:めまい・ふらつき・眠気→歩行・移乗訓練時に転倒に注意。服薬後の時間帯を意識する
- ラモトリギン:皮疹(まれに重篤なStevens-Johnson症候群)→皮膚変化の観察をリハビリ中にも意識する
リハビリへの活かし方
TENS(経皮的電気神経刺激)
TENSは非薬物療法の中で最も多くのエビデンスが蓄積されているアプローチの一つです。末梢からの感覚入力を操作することで中枢性感作を抑制し、痛みの閾値を上げる効果が示されています。
適用上の最重要注意点:
アロディニアがある部位への直接適用は逆効果になる可能性があります。電極を疼痛部位の近傍(近位・同神経支配領域)に貼付し、直接刺激を避けることが基本です。
- 高頻度TENS(80〜150Hz):門制御理論(gate control)に基づきAβ線維を刺激して痛みの伝達をブロックする。即効性が期待できる
- 低頻度TENS(2〜10Hz):エンドルフィン系を介した鎮痛効果が期待される。持続時間が長い傾向
- まず短時間(20〜30分)から開始し、痛みの変化を確認しながら調整する
- TENS中・終了直後のNRS変化だけでなく、翌日以降の疼痛強度の変化(遅延効果)も確認する
鏡療法(mirror therapy)
鏡療法は非麻痺側の動きを鏡で視覚的に「麻痺側が動いている」ように見せることで、感覚・運動野の再組織化を促すアプローチです。CRPS(複合性局所疼痛症候群)でのエビデンスが先行していますが、CPSPへの応用も試みられています。
- 視覚フィードバックが感覚野・前頭頭頂ネットワークに入力を与え、「誤った感覚処理」を修正する可能性がある
- 鏡によって生成される「動きのある肢のイメージ」が下行性抑制系を活性化する
- 重度の半側空間無視がある場合は効果が得られにくい
- 1日15〜30分、数週間の継続が推奨されており、短期の試みで効果を判断しないことが重要
rTMS(繰り返し経頭蓋磁気刺激)——最新動向
rTMSは磁気パルスにより脳の特定部位を非侵襲的に刺激する手法です。Lefaucheurらのエビデンスに基づくrTMSガイドライン(Clin Neurophysiol, 2020)では、一次運動野(M1)への高頻度rTMS(10Hz)が中枢性神経障害性疼痛に対して推奨レベルBのエビデンスを持つことが示されています。CPSPを含む中枢性疼痛に対して、複数のRCTで鎮痛効果が報告されています。
- rTMS後にリハビリを行うことで相乗効果が期待される(脳の可塑性が高まった状態での練習効果の増大)
- 禁忌(ペースメーカー・頭蓋内金属・てんかん既往)を把握し、チームで情報共有する
- 患者・家族から「rTMSを勧められたがどうか」と聞かれた際に適切に説明できる
運動療法の注意点
CPSPが活発な時期の運動療法は、疼痛増悪のリスクとリハビリの効果を慎重にバランスさせる必要があります。
- 疼痛増悪を招く課題・動作は避け、「痛みの中で頑張る」を強いない
- 運動量・強度を痛みの状態に合わせて柔軟に調整する(疼痛が比較的軽い時間帯にスケジュールする)
- 温熱や軽いストレッチで筋緊張を和らげてから開始することで疼痛閾値を上げる
- 「動くと痛みが少し減る」という体験を少しずつ積み重ね、運動への恐怖感(kinesiophobia)を軽減する
疼痛教育(pain neuroscience education:PNE)
「なぜ痛みが生じているのかを患者・家族に正しく説明すること」は、それ自体が治療的介入になります。「脳が痛みを作り出している」というメカニズムを患者が理解することで:
- 「なぜNSAIDsが効かないのか」が納得できる
- 痛みがあっても少しずつ動けるという自己効力感が生まれる
- 不安・恐怖感の低減→下行性抑制系の活性化という間接的な鎮痛効果が期待される
説明の際は「脳が過敏になっている」「神経のセンサーが誤作動している」などわかりやすい言葉を使い、「努力が足りないわけではない」「大げさなわけではない」ことを明確に伝えることが大切です。
ほーりーの臨床メモ
CPSPの患者さんを初めて担当したとき、「こんなに痛みを訴えている。風が吹いただけで痛みが出て苦しい」と辛そうな患者さんに対し戸惑った記憶があります。損傷の大きさと痛みの強さが比例しないのがCPSPの不思議なところです。
臨床で特に印象的なのは、感覚が「回復し始めた頃に痛みが出てくる」パターンです。急性期は感覚が完全に消えていた患者さんが、回復期に感覚が戻り始めたタイミングで「なぜか激しく痛い」と訴えることがあります。感覚伝導路が部分的に再接続される過程で異常な信号が生成されるためと考えられており、このパターンを知っておくだけで「CPSP発症のタイミングかもしれない」と気づけます。
私がまず行うのは、「その痛みは本物で、あなたのせいではない」と伝えることです。患者さんの中には「頑張りが足りないから痛みがあるのかも」「周りに大げさだと思われているかも」と感じている方が少なくありません。疼痛教育と信頼関係の構築が、その後のリハビリ全体の土台になると実感しています。
TENSを適用する際は、必ずアロディニアの有無を先に確認することを徹底しています。アロディニアがある部位に無造作に電極を貼ってしまうと、かえって痛みを増悪させてしまうことがあります。「まず軽く触れてみていいですか?」の一言が、この確認の入口になります。
まとめ
CPSPは「脳が作り出す痛み」です。感覚伝導路の部分的な障害→中枢性感作→抑制系の機能不全→神経炎症という複合的なメカニズムが絡み合い、通常の鎮痛薬が効きにくい独特の痛みを作り出します。臨床で覚えておきたいポイントを整理します。
- CPSPを疑うサイン:灼熱感・電撃痛・冷覚アロディニア・NSAIDs無効・感覚変化と痛みの範囲が解剖学的に一致する
- 評価の優先順位:DN4などでスクリーニング→感覚検査でアロディニアの有無と分布を確認→QOL・うつ・睡眠も評価
- 薬物療法との連携:TCAやプレガバリンの副作用(眠気・ふらつき)を把握し、転倒リスクを意識してリハビリに臨む
- 非薬物療法の選択:TENSはアロディニアの有無を確認してから適用・鏡療法は継続的な実施が必要・rTMSは最新の選択肢として知っておく
- 疼痛教育を最初に:「この痛みのメカニズム」を患者・家族が理解することがリハビリの土台になる
「痛みがある=動けない」ではなく、「痛みを理解した上で、痛みと共にどう回復していくか」を一緒に考えることが、CPSP患者さんへの最善の関わり方です。
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免責事項
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症状や治療については必ず担当医・専門家にご相談ください。
参考文献
- Klit H, Finnerup NB, Jensen TS. Central post-stroke pain: clinical characteristics, pathophysiology, and management. Lancet Neurol. 2009;8(9):857-868.
- Finnerup NB, Attal N, Haroutounian S, et al. Pharmacotherapy for neuropathic pain in adults: a systematic review and meta-analysis. Lancet Neurol. 2015;14(2):162-173.
- Finnerup NB. Neuropathic pain. N Engl J Med. 2022;387(3):245-258.
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- Treede RD, Jensen TS, Campbell JN, et al. Neuropathic pain: redefinition and a grading system for clinical and research purposes. Neurology. 2008;70(18):1630-1635.
- Liampas A, Velidakis N, Georgiou T, et al. Prevalence and Management Challenges in Central Post-Stroke Pain: A Systematic Review and Meta-Analysis. Adv Ther. 2020;37(7):3048-3067.
- Lefaucheur JP, Aleman A, Baeken C, et al. Evidence-based guidelines on the therapeutic use of repetitive transcranial magnetic stimulation (rTMS): An update (2014-2018). Clin Neurophysiol. 2020;131(2):474-528.
- 日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会. 脳卒中治療ガイドライン2021. 協和企画, 2021.
















