脳卒中後遺症の痙縮(けいしゅく)とは?原因と対処法をわかりやすく解説

この記事でわかること
- 痙縮(けいしゅく)がなぜ起こるのか、そのメカニズム
- 患者さん・ご家族が知っておきたい主な症状と日常生活への影響
- PTによる評価方法と治療・対処法の選択肢
- 自宅でできるセルフケアのポイント
はじめに
「退院してから、手足がどんどん固くなってきた」 「リハビリしているのに、腕や足がつっぱって動かしにくい」
脳卒中の後遺症として、こうした「つっぱり」「こわばり」に悩まれている患者さんやご家族は少なくありません。
この症状の正体が、痙縮(けいしゅく)です。
痙縮は脳卒中後の後遺症のなかでも、日常生活に大きな影響を与えやすいものの、十分に理解されていないことも多い症状です。
この記事では、痙縮とは何か、なぜ起こるのか、そしてどのような対処法があるのかを、患者さんやご家族にもわかりやすく、また理学療法士の視点からも整理してお伝えします。
1. 痙縮(けいしゅく)とは何か
痙縮(けいしゅく)とは、脳や脊髄(せきずい)が損傷を受けることで、筋肉が過剰に緊張し続ける状態のことです。
わかりやすくいうと、「脳からの命令が正常に伝わらなくなり、筋肉が勝手に緊張したままになってしまう状態」です。
健康な状態では、脳が「力を抜いていい」というブレーキの信号を筋肉に送り続けています。ところが脳卒中によって脳が損傷を受けると、このブレーキが利かなくなり、筋肉がずっと緊張したままになってしまうのです。
痙縮は麻痺とは違う?
脳卒中後の後遺症として有名なのは「麻痺(まひ)」ですが、痙縮はこれとは異なります。
- 麻痺:筋肉に力が入らない(動かせない)状態
- 痙縮:筋肉が過剰に緊張して、固まってしまった状態
麻痺がありながら、同時に痙縮も起こる場合が多く、「動かないうえに固い」という状態になることがあります。脳卒中後の患者さんの約25〜40%に痙縮がみられるとされています(Lundström et al., 2008)。
2. 痙縮はなぜ起こるのか:原因とメカニズム
脳と筋肉のコントロール
私たちの筋肉は、脳と脊髄からの神経信号によって細かくコントロールされています。筋肉を動かす「アクセル(興奮性)」の信号と、筋肉を緩める「ブレーキ(抑制性)」の信号のバランスによって、滑らかな動きが生まれます。
脳卒中で何が起こるか
脳卒中によって脳が損傷されると、脊髄(せきずい)への下降性抑制、つまり「筋肉を緩めなさい」という脳からのブレーキ信号が届きにくくなります。
その結果、脊髄にある「伸張反射(しんちょうはんしゃ)」という仕組みが過剰に活性化され、筋肉が少し引っ張られるだけで強く収縮(緊張)してしまう状態になります。これが痙縮のメカニズムです。
痙縮が出やすい時期
痙縮は脳卒中の直後から現れることは少なく、通常は発症から数週間〜数ヶ月後に徐々に現れてきます。回復期リハビリテーション病院に入院している時期や、自宅退院後に症状が目立ってくることも珍しくありません。
3. 痙縮の主な症状と日常生活への影響
症状が出やすい部位
上肢(腕・手)と下肢(脚)では、典型的な姿勢パターンが異なります。
上肢(腕・手)の典型的な痙縮パターン
- 肩が内側に回って体に引き寄せられる
- 肘が曲がったまま伸びにくい
- 手首や指が曲がったまま固まる(握りこぶしのような状態)
下肢(脚)の典型的な痙縮パターン
- 膝が曲がったまま伸びにくい
- 足首が内側に曲がって、つま先立ちのような状態になる(尖足:せんそく)
- ふくらはぎや太ももがつっぱる
日常生活への影響
痙縮が日常生活に与える影響は多岐にわたります。
身体的な影響
- 衣服の着脱が難しくなる(袖が通しにくい、靴下が履かせにくいなど)
- 入浴・清拭(せいしき)の介助がしにくくなる
- 歩行が不安定になる、歩きにくくなる
- 痛みや不快感が生じる
- 関節が固まる「拘縮(こうしゅく)」に進行するリスクがある
精神的・社会的な影響
- 見た目の変化による自己イメージの低下
- 介護をしているご家族の負担が増える
- 社会参加や外出の意欲が下がる
特に「拘縮(こうしゅく)」に進行してしまうと、関節が固まってしまい、リハビリでも改善が難しくなります。痙縮の段階での早期対処が重要です。
4. 痙縮の評価方法(PTのための視点も含む)
Modified Ashworth Scale(MAS:修正アシュワーススケール)
痙縮の程度を評価するために最もよく使われる指標がMAS(Modified Ashworth Scale)です。関節を他動的(介助で動かす)に動かしたときの抵抗感を0〜4の段階で評価します。
| スコア | 内容 |
|---|---|
| 0 | 筋緊張の増加なし |
| 1 | わずかな緊張の増加(引っかかり感) |
| 1+ | 1よりやや強い引っかかり感(可動域の1/2未満) |
| 2 | 可動域全体で筋緊張の増加があるが、動かしやすい |
| 3 | 顕著な筋緊張の増加で、他動運動が難しい |
| 4 | 患部が屈曲または伸展位のまま固まった状態(拘縮) |
MASは新人PTが最初に覚えておきたい評価指標のひとつです。スコア1〜2の段階で早期に介入することが重要とされています。
5. 痙縮の対処法・治療法
痙縮の治療は、患者さんの症状・目標・生活状況に合わせて複数の方法を組み合わせるのが基本です。
① リハビリテーション(運動療法・理学療法)
痙縮に対するリハビリテーションの基本は、筋肉の正常な動きを促し、過剰な緊張をコントロールすることです。
- ストレッチ(関節可動域訓練):固まりやすい関節をゆっくり動かし、筋肉の柔軟性を保ちます
- 神経発達的アプローチ:痙縮のある筋肉の過剰な緊張を抑えながら、正常な動きを引き出す技術
- 装具療法:足首の尖足に対するAFO(短下肢装具)など、関節を適切な位置に保つことで痙縮のコントロールを助けます
② ボツリヌス療法(ボトックス注射)
ボツリヌス毒素(BoNT:Botulinum Neurotoxin)を痙縮している筋肉に直接注射する治療法です。日本では「ボトックス®」という商品名でよく知られています。
ボツリヌス毒素は、筋肉を過剰に緊張させる神経信号の伝達を一時的にブロックし、筋肉の緊張を和らげます。
ボツリヌス療法の特徴
- 効果は注射後2〜4週間で現れ、3〜6ヶ月程度持続します(効果が薄れたら再注射が可能)
- 注射する筋肉を選択できるため、局所的に効果を発揮できます
- 全身的な副作用が少ない
- 2024年の系統的レビューでは、早期介入(発症2〜12週以内)によるボツリヌス療法の有効性も示されています(Andringa et al., 2024)
注意点:ボツリヌス療法だけで完結するのではなく、注射後にリハビリを集中的に行うことで、より高い効果が期待できます。
③ 薬物療法(内服薬)
全身の痙縮に対しては、内服薬による治療が選択されることがあります。
代表的な薬としてバクロフェン(筋弛緩薬)やチザニジンなどがありますが、眠気・脱力感などの副作用に注意が必要です。担当の医師と相談しながら使用することが大切です。
④ 髄腔内バクロフェン療法(ITB療法)
重度の全身性痙縮に対しては、脊髄の周囲(くも膜下腔)に直接バクロフェンを投与するポンプを体内に埋め込むITB(Intrathecal Baclofen)療法が行われることがあります。
内服薬の100分の1以下の量で効果が得られるため副作用が少ない半面、専門施設での対応が必要です。脳卒中治療ガイドラインでも、重度痙縮に対して推奨されています(日本脳卒中学会, 2021)。
⑤ 物理療法
- 温熱療法:血流を促進し、筋肉の柔軟性を一時的に高めます
- 電気刺激療法(FES:機能的電気刺激):筋肉に電気刺激を与えて収縮させ、正常な運動パターンを促します
- 体外衝撃波療法(ESWT):ボツリヌス療法と組み合わせることで、効果を高め・延長させるという研究報告があります(Cochrane review, 2021)
6. 日常生活でできるセルフケアとポイント
痙縮は治療者だけで管理するものではなく、患者さんご本人やご家族の日々の関わりも大切です。
ポイント① ゆっくりとしたストレッチを毎日続ける
痙縮のある関節を急に動かすと、筋緊張が逆に高まってしまうことがあります。入浴後など筋肉が温まっているタイミングで、ゆっくりと・無理のない範囲で関節を動かすストレッチが基本です。
理学療法士から指導を受けた自主練習メニューを、毎日続けることが大切です。
ポイント② 悪化させる姿勢・環境を避ける
寒さ・疲労・ストレス・便秘・膀胱の充満などは、痙縮を一時的に悪化させることがあります。生活環境を整えることも、痙縮管理のひとつです。
- 寒い環境を避け、適度に体を温める
- 疲れすぎない程度に活動を調整する
- 便秘や排尿の問題がある場合は医師や看護師に相談する
ポイント③ 装具を正しく使用する
足首の痙縮(尖足)がある場合、担当の理学療法士から装具(短下肢装具など)の使用を勧められることがあります。装具は関節を適切な位置に保ち、痙縮の進行を防ぐ効果があります。
正しい装着方法で使用し、皮膚に傷がないか確認することも忘れずに。
ポイント④ 変化に気づいたら早めに相談を
「最近、より固くなってきた」「痛みが出てきた」と感じたら、早めに担当の医師や理学療法士に相談してください。痙縮は放置すると拘縮に進行するリスクがあるため、早期の対応が重要です。
7. 理学療法士としての関わり方
新人PTが痙縮のある患者さんと関わる際に、意識してほしいポイントをまとめます。
評価を定期的に行う
MASや関節可動域(ROM)測定を定期的に実施し、痙縮の変化を記録しましょう。治療効果の確認と、悪化の早期発見につながります。
「痙縮を取り除く」のではなく「コントロールする」という視点を持つ
痙縮は完全になくすことが難しいケースも多いです。「いかに痙縮をコントロールし、日常生活を向上させるか」という視点が大切です。
たとえば、ある程度の筋緊張は立位保持や歩行に役立っていることもあります。痙縮をゼロにすることだけを目標にせず、患者さんの生活目標に合わせた介入を考えましょう。
医師・他職種との連携を大切に
痙縮管理はリハビリだけでは完結しません。ボツリヌス療法の適応判断は医師が行いますが、「最近、痙縮が強くなってきた」「ADLへの影響が出ている」という情報をチームで共有することが、適切な治療タイミングにつながります。
ほーりーの臨床メモ
MASによる痙縮評価は検者間信頼性が低いと言われていますが、それでも医師や看護師、OT,STといった多職種との共通言語として臨床ではよく使います。私が特に気をつけているのは、「痙縮の強さ」と「随意収縮の残存」を分けて評価することです。痙縮が強くても、そこに随意的な筋収縮があるかどうかで治療戦略は大きく変わってきます。
ボツリヌス療法を施行した患者を担当したとき、注射後の筋緊張の変化を評価することはPTとして重要な役割だと思います。「打ったから任せた」ではなく、効果が出ている時期にこそ集中的な介入が必要です。装具との組み合わせで、痙縮が緩んでいる期間に正常に近い肢位を保持することが長期的な改善につながりそうですよね。
「ボツリヌス×装具×リハビリ」の相乗効果を意識するようになってから、患者さんの変化が見えやすくなりました。
まとめ
この記事では、脳卒中後遺症の「痙縮(けいしゅく)」について、原因から対処法まで整理しました。
痙縮は「筋肉が過剰に緊張し続ける状態」であり、脳卒中後に数週間〜数ヶ月後から現れてくることが多い症状です。放置すると拘縮に進行するリスクがあるため、早期からの適切な対処が大切です。
対処法としては、リハビリテーション(ストレッチ・運動療法・装具療法)を基本としながら、必要に応じてボツリヌス療法や薬物療法を組み合わせることが有効です。日常生活でのセルフケアも、痙縮のコントロールに欠かせません。
患者さんやご家族の方は、症状の変化を感じたら担当の医師や理学療法士に早めに相談することをお勧めします。理学療法士の方は、定期的な評価と多職種連携を意識して関わっていただければと思います。
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免責事項
本記事の内容は、筆者個人の経験・知識および参考文献に基づく情報提供を目的としており、個別の医療・リハビリテーションに関するアドバイスではありません。症状や治療方針については、必ず担当の医師・理学療法士などの専門家にご相談ください。本記事の情報を利用したことによって生じたいかなる損害についても、筆者は責任を負いかねます。
参考文献
- Lundström E, Terént A, Borg J. Prevalence of disabling spasticity 1 year after first-ever stroke. Eur J Neurol. 2008;15(6):533-539.
- Andringa A, Mes C, Meskers C, Maier AB, Kwakkel G, van de Port I. The effectiveness of early interventions for post-stroke spasticity: a systematic review. Disabil Rehabil. 2025;47(4):900-911.
- Zeng H, Chen J, Hong L, et al. Comparative Effectiveness of Botulinum Toxin Injections and Extracorporeal Shockwave Therapy for Post-Stroke Spasticity: A Systematic Review and Network Meta-Analysis. EClinicalMedicine. 2021;42:101205.
- Bohannon RW, Smith MB. Interrater reliability of a modified Ashworth scale of muscle spasticity. Phys Ther. 1987;67(2):206-207.
- 日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会. 脳卒中治療ガイドライン2021. 協和企画; 2021.

















