脳卒中後の再発予防で知っておきたいこと【危険因子の管理と生活習慣の改善】

はじめに
「先生、脳卒中は再発するんですか?また倒れたらどうしよう……」——退院後の患者さんやご家族から、こんな不安の声をよく耳にします。
脳卒中は、一度発症するとその後も再発しやすい病気です。残念ながら、リハビリを頑張って機能が回復しても、再発によって再び大きなダメージを受けてしまうケースは少なくありません。
研究によると、脳卒中を発症した方の約10〜15%が1年以内に再発し、5年以内では約30〜40%に再発が起こると報告されています。そして再発した場合、最初の発症よりも後遺症が重くなることが多いといわれています。
だからこそ、「再発予防」はリハビリと同じくらい—いえ、それ以上に重要なテーマです。
この記事では、脳卒中後の患者さんとご家族に向けて、再発につながるリスク因子、日常生活でできる予防策、そして「もしかして再発?」と気づくための前兆サインについて、わかりやすく解説します。
脳卒中はなぜ再発しやすいのか
脳卒中の多くは、脳の血管が詰まる「脳梗塞」や、脳の血管が破れる「脳出血」によって起こります。
一度発症しても、発症の原因となった体の状態——動脈硬化(血管の老化・硬化)、高血圧、不整脈など——はそのままです。原因が取り除かれていなければ、同じことが繰り返される可能性があります。
リハビリで体の機能を回復させることと、再発を防ぐために体の状態を整えること、この両輪が揃って初めて「本当の回復」といえます。
再発につながる主なリスク因子
再発予防の第一歩は、自分にどんなリスクがあるかを知ることです。代表的なリスク因子を確認しておきましょう。
高血圧
再発予防において、最も重要なリスク因子が高血圧です。血圧が高い状態が続くと、血管壁が傷つきやすくなり、動脈硬化が進みます。収縮期血圧(上の血圧)を10mmHg下げるだけで、脳卒中の再発リスクが20〜30%低下するというデータもあります。
脳卒中治療ガイドライン2021では、脳梗塞・TIAの再発予防において血圧を130/80mmHg未満に管理することが推奨されています。
糖尿病
血糖値が高い状態が続くと、細い血管が傷みやすくなります。また、動脈硬化の進行を加速させるため、脳卒中の再発リスクを高めます。食事管理・運動・薬物療法による血糖コントロールが重要です。
脂質異常症(高コレステロール・中性脂肪)
LDLコレステロール(いわゆる「悪玉コレステロール」)が高いと、血管壁にプラーク(脂肪の塊)が蓄積し、動脈硬化を引き起こします。特に脳梗塞の方は、スタチン系薬剤によるコレステロール管理が再発予防に有効です。
心房細動(しんぼうさいどう)
心房細動とは、心臓が不規則に震えるように動く不整脈の一種です。心臓の中で血液がよどみ、血栓(血の塊)ができやすくなります。その血栓が脳に飛んでいくと「心原性脳塞栓症(しんげんせいのうそくせんしょう)」という重篤な脳梗塞を起こします。
心房細動がある方は、抗凝固薬(血液が固まりにくくする薬)の服用が再発予防に非常に重要です。
喫煙
タバコは血管を収縮させ、血液を固まりやすくし、動脈硬化を進行させます。喫煙者は非喫煙者と比べて脳卒中のリスクが約2倍高いといわれており、禁煙は最も効果的な再発予防策のひとつです。
過度の飲酒
少量のアルコールは必ずしも悪いわけではありませんが、過度の飲酒は血圧を上昇させ、不整脈を引き起こしやすくします。脳卒中後は、主治医の指示に従いながら飲酒量を見直すことが大切です。
日常生活でできる再発予防
リスク因子を知ったうえで、日常生活でどんなことができるかを整理します。「完璧にやらなければ」と考えすぎず、できることから少しずつ取り組むことが長続きのコツです。
血圧を毎日測る習慣をつける
家庭血圧計で毎日同じ時間に測定し、記録しましょう。朝(起床後1時間以内、排尿後、服薬前)と夜(就寝前)の2回が推奨されています。血圧手帳をつけておくと、定期受診のときに主治医と情報を共有しやすくなります。
塩分を控えた食事
高血圧の最大の原因のひとつが塩分の過剰摂取です。日本人は平均的に塩分を摂りすぎる傾向があります。脳卒中の既往がある方の目標は1日6g未満(日本高血圧学会の推奨)です。醤油・味噌・漬け物・加工食品の使用量を意識的に減らすだけでも効果があります。
適度な運動を続ける
運動は血圧を下げ、血糖値を安定させ、血栓ができにくい体づくりに役立ちます。麻痺が残っている場合でも、担当の理学療法士や作業療法士と相談しながら、自分にできる運動を続けることが大切です。ウォーキングや自転車こぎなど、有酸素運動を週3〜5回、1回30分程度を目安に行うと効果的です。
禁煙する
禁煙は再発リスクを大きく下げる、最も効果の高い行動変容のひとつです。「自分の意志だけでやめるのは難しい」という方は、禁煙外来の受診をおすすめします。保険適用で禁煙治療を受けられる場合があります。
薬を自己判断でやめない
抗凝固薬・抗血小板薬・降圧薬・スタチン系薬剤などは、「調子がいいから」「副作用が気になるから」という理由で自己判断でやめると、再発リスクが一気に高まります。薬に関して気になることがあれば、必ず主治医や薬剤師に相談してください。
これは要注意!再発の前兆サイン
脳卒中には、本格的な発作が起こる前に「前兆」が現れることがあります。特に注意が必要なのが**TIA(一過性脳虚血発作)**です。
TIAとは、脳の血流が一時的に滞ることで、脳卒中と同じような症状が短時間(多くは数分〜1時間以内)現れたあと、自然に消えてしまう状態のことです。「症状が消えたから大丈夫」と放置してしまいがちですが、TIAを発症した方の約10〜15%が2日以内に脳梗塞を起こすといわれており、非常に危険なサインです。
F・A・S・Tで覚える再発のサイン
脳卒中の症状は、次のFASTという合言葉で覚えておくと便利です。
| 頭文字 | 意味 | 具体的な症状 |
|---|---|---|
| F(Face) | 顔 | 顔の片側が下がっている、ゆがんでいる |
| A(Arms) | 腕 | 片腕が上がらない・力が入らない |
| S(Speech) | 言葉 | ろれつが回らない・言葉が出ない・意味が理解できない |
| T(Time) | 時間 | 上記の症状が出たら、すぐに救急車を呼ぶ |
その他に気をつけたい症状
- 突然の激しい頭痛(「今まで経験したことがない頭痛」)
- 片方の目が突然見えなくなる・視野が欠ける
- 突然のめまい・ふらつき・バランスの悪化
- 片側の手足や顔のしびれ・感覚の異常
これらの症状がひとつでも現れたら、「一時的なもの」「気のせいかも」と判断せず、すぐに救急車を呼んでください。脳卒中は発症から治療開始までの時間が予後を大きく左右します。
ほーりーの臨床メモ
退院前になり再発予防の話を患者さん・家族にするとき、「また脳卒中になったらどうなるか」というリスクを正直に伝えることと、「でも予防できることがたくさんある」という希望を伝えることのバランスが難しいと感じます。
薬の服薬管理は一番の再発予防だが、退院後に自己判断でやめてしまう患者さんが一定数いる。入院中から「なぜこの薬が必要か」を理解してもらう関わりが重要で、これはPTにも担える役割だと思っている。
血圧管理・禁煙・適度な運動は三大予防策だが、生活習慣の変更は言葉で言うほど簡単ではありません。患者さんが変えられることから小さく始め、継続できる形を一緒に考えることをその方とのかかわりの中で模索していきたいですね。
よくある質問(FAQ)
Q1. 再発予防の中で「最優先」は何ですか?
血圧管理が最優先です。脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2025〕でも、高血圧は再発の最大の単一リスク因子と位置付けられています。家庭血圧で目標値(収縮期130mmHg未満)をモニタリングし、生活習慣+薬物療法で管理することが土台になります。
Q2. 服薬は一生続けないといけないですか?
多くの場合「はい」です。抗血小板薬・抗凝固薬は再発予防効果が継続服用で発揮されるため、自己判断での中止は再発リスクを大きく上げます。副作用が気になる時は必ず主治医に相談し、勝手にやめないことが鉄則です。
Q3. 食事制限は厳しくしないとダメですか?
極端な制限より「持続できる現実的な調整」が大切です。塩分は1日6g未満、脂質は飽和脂肪酸を減らし不飽和脂肪酸へ、青魚・野菜・全粒穀物を増やす——という方向性です。「ゼロにする」より「減らす・置き換える」発想で続けられる工夫を。
Q4. 再発の前兆を見つけたら、どうすればいいですか?
FAST(Face/Arm/Speech/Time)のいずれかに該当する症状が出たら、迷わず救急車を呼んでください。発症から4.5時間以内なら血栓溶解療法(rt-PA)、6〜24時間以内なら血栓回収療法が選択肢になります。「一時的な症状(TIA)」も将来の脳卒中の警告サインです。
まとめ
- 再発リスクは「1年で約10%・5年で30-40%」。初回より重症化しやすく、予防が極めて重要
- 主要リスク因子は6つ:高血圧・心房細動・糖尿病・脂質異常・喫煙・不整脈。複数併存で相乗的にリスク上昇
- 予防の5本柱:①血圧管理、②服薬継続、③食事改善(塩分・脂質)、④運動継続、⑤水分管理
- 前兆サインFASTを家族と共有。一時的な症状(TIA)でも放置せず必ず受診
- 専門記事で各テーマを深掘り:血圧/食事/服薬/転倒予防/歩行/脱水/心房細動/運転再開
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免責事項
本記事の内容は、筆者個人の経験・見解および公表されている文献・ガイドラインに基づくものであり、医療アドバイスではありません。症状や治療・服薬については、必ず担当の医師・専門家にご相談ください。
参考文献
- 日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会. 脳卒中治療ガイドライン2021. 協和企画; 2021.
- Lawes CM, et al. Blood pressure and stroke: an overview of published reviews. Stroke. 2004;35(3):776-785.
- PROGRESS Collaborative Group. Randomised trial of a perindopril-based blood-pressure-lowering regimen among 6105 individuals with previous stroke or transient ischaemic attack. Lancet. 2001;358(9287):1033-1041.
- Johnston SC, et al. Short-term prognosis after emergency department diagnosis of TIA. JAMA. 2000;284(22):2901-2906.
- 日本高血圧学会. 高血圧治療ガイドライン2019. ライフサイエンス出版; 2019.


















