脳卒中リハビリで使われる「物理療法」とは?種類・特徴・選び方を整理する

この記事でわかること
- 物理療法(ぶつりりょうほう)とは何か、リハビリのどこで役割を果たすのか
- 主な物理療法の種類(温熱・寒冷・電気・超音波・機械的刺激)の概要
- 脳卒中リハビリで特によく使われる物理療法とその目的
- 「どの療法を選ぶか」を考えるための基本的な視点
はじめに
「先生、ホットパックって本当に意味があるんですか?なんか電気かけてもらっただけで終わる患者さんを見てると、何のためにやってるのか自信を持って説明できなくて……」
担当患者さんを持つようになったばかりの頃、こんな疑問を抱いたことはありませんか。物理療法は理学療法士の国家試験科目にも出てきますが、実際の臨床でどんな根拠をもって使うのか、説明できる自信がない方も多いかもしれません。
脳卒中リハビリにおいても、物理療法は運動療法と組み合わせることで痙縮(けいしゅく)の軽減・拘縮(こうしゅく)の予防・疼痛(とうつう)管理など、さまざまな目的で活用されています。
1. 物理療法とは何か
物理療法とは、熱・電気・光・音・力学的刺激などの物理的エネルギーを生体に加えることで、症状の改善や機能回復を図る治療法の総称です。
薬物療法・手術療法と並ぶ治療手段のひとつで、理学療法士が日常的に使用する技術です。
ただし、物理療法は「運動療法の代わり」にはなりません。多くの場合、運動療法や動作練習の前後に組み合わせることで、その効果を引き出したり練習の質を高めたりするための補助手段として使われます。「とりあえずホットパック」から「目的があるから温める」への転換が、臨床の質を上げる第一歩です。
2. 主な物理療法の種類
物理療法は、使用するエネルギーの種類によって以下のように分類されます。
① 温熱療法(おんねつりょうほう)
熱エネルギーを加えることで、組織の粘弾性低下・血流増加・筋スパズム(筋の持続的収縮)の緩和などを図ります。
代表的な手段:
- ホットパック:最も一般的な表在性温熱。皮膚・皮下組織の加温
- 超音波療法(温熱モード):深部組織(筋・腱・関節包)の加温が可能
- 渦流浴(かりゅうよく):水流による温熱と物理的刺激の組み合わせ
- パラフィン浴(ぱらふぃんよく):手・足先などに均一な温熱を加える
② 寒冷療法(かんれいりょうほう)
組織を冷却することで、代謝低下・局所麻酔様効果・筋緊張の一時的な抑制などを図ります。
代表的な手段:
- アイスパック(ice pack):最もシンプルな局所冷却
- アイスマッサージ:皮膚面に直接氷を当てながらの冷却マッサージ
- 寒冷水浴
③ 電気療法(でんきりょうほう)
電気エネルギーを生体に加えることで、神経・筋への刺激・疼痛管理・血流改善などを図ります。
代表的な手段:
- TENS(経皮的電気神経刺激):主に疼痛管理
- 干渉波療法(かんしょうはりょうほう):深部への電気刺激(疼痛・血流)
- FES/NMES(機能的電気刺激/神経筋電気刺激):運動の補助・筋収縮の誘発
FESとNMESについては別記事「電気刺激療法の基礎」で詳しく解説しています。
④ 超音波療法(ちょうおんぱりょうほう)
超音波の温熱効果と機械的効果(組織の微細振動)によって、深部組織の柔軟性改善・痙縮の緩和・炎症後の組織修復促進などを図ります。深達度が高いのが最大の特徴です。
⑤ 機械的刺激療法
振動・牽引(けんいん)などの力学的刺激を使います。
- 振動刺激療法(バイブレーション):Ia(いちエー)求心性神経を介した筋緊張の調節
- 牽引療法:関節間距離を広げ、神経根への圧迫を軽減
⑥ 光線療法(こうせんりょうほう)
赤外線・低出力レーザーなどを生体に当て、血流改善・疼痛緩和・組織修復促進などを図ります。脳卒中では肩痛・創傷治癒などへの応用があります。
3. 脳卒中リハビリでよく使われる物理療法
脳卒中の後遺症として特に問題になるのは、痙縮・拘縮・疼痛・廃用性筋萎縮(はいようせいきんいしゅく)です。物理療法はこれらに対して次のような目的で使われます。
| 目的 | 主な物理療法 |
|---|---|
| 痙縮の一時的緩和 | 寒冷療法・超音波療法・振動刺激療法 |
| 拘縮予防・改善 | 温熱療法(深部)・超音波療法 |
| 疼痛管理(肩痛・中枢性疼痛) | TENS・超音波療法・光線療法 |
| 筋収縮の誘発・維持 | FES・NMES |
| 神経可塑性(しんけいかそせい)への影響 | rTMS・tDCS・振動刺激 |
4. 物理療法を選ぶときの視点
「何のために使うのか」を明確にする
「とりあえずホットパック」では、運動療法との相乗効果が得られません。「今日の目標は痙縮を緩めてから関節可動域練習をすること」のように目的を明確にしてから選択します。
「どのタイミングで使うのか」を考える
- 運動療法の前:組織の柔軟性を高め、可動域練習の効果を上げる(例:温熱療法)
- 運動療法の後:炎症・疼痛の管理(例:寒冷療法)
- 単独で継続使用:電気刺激による筋収縮維持(例:FES)
深達度(しんたつど)を意識する
温めたい・刺激したい組織が皮膚直下なのか、深部(関節包・筋腱移行部)なのかで選択が変わります。
| 深達度の目安 | 適した物理療法 |
|---|---|
| 表在(皮膚〜皮下組織) | ホットパック・アイスパック・赤外線 |
| 中程度(筋腹) | 干渉波・TENS |
| 深部(関節包・腱・骨膜) | 超音波療法(1MHz帯)・マイクロ波 |
感覚障害への配慮を忘れない
物理療法の多くは感覚障害のある部位への使用に注意が必要です。脳卒中では麻痺側に感覚障害が生じることが多く、熱傷や皮膚損傷のリスクへの配慮が欠かせません。患者さんの「熱くない」という返答だけを信じるのは危険です。
ほーりーの臨床メモ
脳卒中リハビリに関わってきて、物理療法での失敗の多くは「なんとなく使い続けること」です。「この患者さんはいつもホットパックから始める」という習慣が固定化すると、本当に必要な介入が何かを考えなくなります。
物理療法は「運動療法のための準備」として使うと、臨床の質が一段上がります。「今日は痙縮を緩めてから手関節の可動域練習をしたい→だからアイスパックを選ぶ」「深部の拘縮を柔らかくしてから足関節ストレッチをしたい→だから超音波を選ぶ」という思考の流れが自然に身につくと、患者さんへの説明も格段に明確になります。
また、感覚障害のある麻痺側への物理療法は「患者さんが『熱くない』と言っても安心しない」という習慣が大切です。視覚的な皮膚確認を必ずルーティンに組み込むこと——これが新人のうちから身につけてほしいポイントです。
まとめ
- 物理療法とは、熱・電気・音・光・力学的刺激を使って症状改善・機能回復を図る治療法の総称です
- 脳卒中リハビリでは、痙縮・拘縮・疼痛・廃用に対して運動療法と組み合わせて使われます
- 「何のために」「どのタイミングで」「どの深達度を狙って」使うかを明確にすることが選択の出発点です
- 感覚障害のある麻痺側への使用は、患者さんの反応だけに頼らない慎重な観察が必要です
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免責事項
本記事の内容は、筆者個人の経験・知識および参考文献に基づく情報提供を目的としており、個別の医療・リハビリテーションに関するアドバイスではありません。物理療法の実施については、担当の医師・理学療法士など専門家にご相談ください。本記事の情報を利用したことによって生じたいかなる損害についても、筆者は責任を負いかねます。
参考文献
- 日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会. 脳卒中治療ガイドライン2021. 協和企画; 2021.
- 奈良勲, 鎌倉矩子(監修). 標準理学療法学 専門分野 物理療法学 第3版. 医学書院; 2018.
- Robertson V, Ward A, Low J, Reed A. Electrotherapy Explained: Principles and Practice. 4th ed. Butterworth-Heinemann; 2006.
- Kluding PM, et al. The use of physical agents to modulate tissue healing. Phys Ther. 2015;95(10):1353-1354.
- Langhorne P, et al. Motor recovery after stroke: a systematic review. Lancet Neurol. 2009;8(8):741-754.
- 日本理学療法士協会. 脳卒中理学療法診療ガイドライン第2版. 2021.
















