超音波療法は痙縮・拘縮に効くのか?メカニズムと臨床エビデンスを整理する

はじめに
「深いところの筋腱が固くなっていて、ホットパックでは届かない気がする……」
「超音波を使ってみたいけど、パラメータをどう設定すればいいかわからない」
脳卒中後の痙縮や拘縮に対して、表在温熱(ホットパック)だけでは効果が頭打ちになる場面で超音波療法が選択肢として浮かび上がることがあります。この記事では超音波療法のメカニズムから脳卒中への応用まで、新人PTが臨床で使えるレベルに整理します。
超音波療法の基本メカニズム
超音波療法は、1MHzまたは3MHzの超音波(人の耳には聞こえない高周波音波)を専用の照射ヘッドを通じて生体に当てる物理療法です。
効果は大きく2つに分けられます。
温熱効果(サーマルエフェクト)
超音波エネルギーが組織に吸収されると熱エネルギーに変換され、深部組織が加温されます。
- コラーゲン線維(こらーげんせんい)の密度が高い腱・筋腱移行部(きんけんいこうぶ)・関節包(かんせつほう)でよく吸収される
- ホットパックとは異なり深さ3〜5cmまでの組織を直接加温できる
- 組織温度が1〜4℃上昇することで、コラーゲンの伸張性向上・血流改善・筋スパズムの緩和が期待できる
- 連続モード(continuous mode)で使用するときに温熱効果が優位になる
非温熱効果(ノンサーマルエフェクト)
超音波の機械的振動による効果で、温熱とは独立して生じます。
- 空洞現象(キャビテーション):組織内の液体に微小な気泡が生じ、細胞膜(さいぼうまく)の透過性が変化する
- 音響流(アコースティックストリーミング):組織内液の微細な流れが促進され、物質輸送が高まる
- 慢性炎症の沈静化・組織修復の促進に関わるとされる
- パルスモード(pulsed mode)で使用する場合は、温熱よりも非温熱効果が相対的に優位になる
基本パラメータの見方
超音波療法を使う際に設定するパラメータは主に以下の4つです。
| パラメータ | 内容 | 選択の目安 |
|---|---|---|
| 周波数(MHz) | 深達度に影響 | 1MHz→深部(3〜5cm)/3MHz→表在(1〜2cm) |
| 強度(W/cm²) | エネルギー量 | 0.5〜1.5 W/cm²が臨床では一般的 |
| モード | 連続 vs パルス | 連続→温熱効果メイン/パルス→非温熱効果メイン |
| 照射時間 | 治療時間 | 有効照射面積(ERA)×1〜2分が目安 |
ポイント: 急性期・炎症が疑われる場合はパルスモード(低強度)から始め、慢性的な拘縮改善を目的とする場合は連続モードで加温を狙います。
脳卒中後の痙縮への応用
なぜ痙縮に超音波が使われるのか
痙縮が持続すると、筋腹・筋腱移行部・腱板周辺にコラーゲンの過剰沈着が生じ、組織の硬化(軟部組織の器質的変化)が起こることがあります。
超音波の深部加温・非温熱効果はこうした組織変化に対して:
- コラーゲン線維の伸張性を一時的に高める(温熱効果)
- 組織の柔軟性を改善し、その後のストレッチ・可動域練習の効果を引き出す
という形で作用するとされています。
臨床エビデンスの現状
超音波療法と脳卒中後痙縮に関する研究は2010年代以降に増加しています。
Ansariらは脳卒中後の手関節屈筋の痙縮(Modified Ashworth Scale評価)に対して、超音波療法と持続伸張の組み合わせが有意な改善をもたらしたと報告しています(Ansari et al., 2006)。
また複数の研究で、超音波療法はボツリヌス毒素注射の前処置として軟部組織の伸張性を高め、注射効果を引き出す可能性が示唆されています。
2021年に発表されたシステマティックレビューでは、「超音波単独での痙縮改善のエビデンスは中等度」にとどまり、運動療法・ストレッチとの組み合わせが推奨されるとしています(Jiang et al., 2021)。
臨床的解釈:
超音波療法単独で痙縮を「治す」のではなく、その後の可動域練習や伸張訓練の効果を引き出す前処理として使うのが現実的かつ有効です。
脳卒中後の拘縮への応用
痙縮が長期化すると、筋・腱・関節包のコラーゲン線維の短縮・癒着が固定化した拘縮に移行します。
拘縮に対して超音波療法が有用とされる根拠:
- 深部加温によるコラーゲン粘弾性の一時的な低下(伸びやすい状態を作る)
- 加温直後に伸張操作(ストレッチ)を行うことで、より大きな可動域改善が期待できる
臨床の流れ(拘縮への応用例):
- 超音波療法(1MHz・1.0〜1.5 W/cm²・連続モード・5〜10分)
- 加温した直後に関節可動域練習・ストレッチを実施
- 温熱効果が残っている間(10〜20分以内)に機能的な運動練習へ
脳卒中後の肩痛(PSSP)への応用
脳卒中後肩痛(Post-Stroke Shoulder Pain:PSSP)は、亜脱臼(あだっきゅう)・腱板損傷(けんばんそんしょう)・痙縮性疼痛・関節拘縮など複数の要因が絡み合う複雑な症候です。
超音波療法は以下の点で肩痛管理に使われます:
- 腱板周囲の深部炎症抑制(パルスモード・低強度)
- 腱板・関節包の柔軟性改善(連続モード・温熱)
- 運動前の疼痛軽減による練習アクセスの向上
使用上の注意と禁忌
脳卒中患者さんに特に関係する注意点を整理します。
感覚障害への配慮(最重要)
麻痺側(まひがわ)には感覚障害が生じていることが多く、患者さんが「熱くない・痛くない」と言っても、それだけを信じるのは危険です。強度・時間を控えめに設定し、皮膚の状態を目視で確認しながら進めます。
主な禁忌:
- 照射部位・近傍への金属埋入(人工関節・骨固定器具など)
- 悪性腫瘍のある部位
- 深部静脈血栓(DVT)のある部位
- 妊娠中の腰腹部・骨端線(成長期)への照射
- ペースメーカー装着者(胸部・頸部への照射)
表在温熱との使い分けも押さえておきましょう。ホットパックのような表在温熱は深達度が1cm以下にとどまり、深層の筋や関節包までは届きません。超音波療法が選ばれるのは、まさにこの「深部に熱を届けたい」場面です。逆に、皮膚の血流を上げて表層の柔軟性を出したいだけならホットパックで十分なこともあります。詳しくはホットパックとアイシング、どう使い分ける?——温熱療法と寒冷療法の基本で整理しています。
ほーりーの臨床メモ
超音波療法を使い始めた頃、私が最初に悩んだのは「パラメータをどう決めるか」でした。先輩に聞いても「だいたい1.0W/cm²で10分」という経験則しか返ってこないことが多く、なぜそのパラメータなのかが理解できていませんでした。
今は「深部の組織(腱板・関節包)を温めて柔らかくしたい→1MHz・連続モード・1.0〜1.5W/cm²」「急性炎症の可能性がある→パルスモード・低強度から様子見」という判断軸が身についています。大切なのは照射後すぐにストレッチや可動域練習を行うことで、超音波を当てて満足して終わりにしないことです。温熱効果が残っている10〜20分の間が最もアプローチの効果が出やすい時間帯です。
脳卒中後肩痛(PSSP)への使用では、腱板周囲の炎症が落ち着いているかどうかを先に評価してから選択します。安静時痛・夜間痛が強い急性期にはパルスモードで様子を見つつ、慢性期の拘縮には連続モードで積極的に加温するという使い分けが臨床では実用的です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 1MHzと3MHzはどう使い分けますか?
1MHzは深部(3〜5cm)まで届きやすく、大筋群や深層筋に効果的。3MHzは浅部(1〜2cm)に集中するため、肩関節周囲・小筋・腱に向きます。脳卒中後の肩痛では3MHz、上肢・下肢の深部筋拘縮には1MHzを選ぶことが多いです。
Q2. 連続モードとパルスモードの違いは?
連続モードは温熱効果が主で組織温度上昇により伸展性が改善、パルスモードは非温熱効果(音響流・空洞化)が主で組織修復促進効果があります。痙縮・拘縮の伸展性改善には連続モード、急性炎症期は非温熱のパルスモードが標準的です。
Q3. 超音波療法は脳卒中リハで保険算定できますか?
「脳血管疾患等リハビリテーション料」の実施時間内で運動療法と組み合わせて実施した場合は算定可能。単独実施では「消炎鎮痛等処置(35点)」での算定となります。実施記録(時間・部位・パラメータ)の整備が大切です。
Q4. 感覚障害のある麻痺側で気をつけることは?
患者さんが熱感を訴えなくても組織は加熱されているため、必ず触察と皮膚観察を組み合わせます。出力を1.0W/cm²以下に抑える・常に振動子を動かす(静置禁止)・施術前後に皮膚チェックを徹底することが安全管理のポイントです。
まとめ
- 超音波療法は温熱効果(連続モード)と非温熱効果(パルスモード)を目的に応じて使い分ける深部温熱療法
- 1MHz=深部、3MHz=浅部の使い分けが基本。脳卒中後の肩痛は3MHz、深部拘縮は1MHzが標準
- 痙縮・拘縮への効果は「伸展性の一時的改善」。直後の運動療法・ストレッチと組み合わせて効果を定着させる
- PSSP(脳卒中後肩痛)への応用:腱炎・筋緊張性の痛みに対して薬物・他物理療法と組み合わせる補助療法として有効
- 禁忌:金属インプラント直上・腫瘍・成長期骨端線・出血傾向・感覚障害高度部位。実施前のリスクチェック必須
関連記事
▶ 脳卒中リハビリで使われる「物理療法」とは?種類・特徴・選び方を整理する
▶ ホットパックとアイシング、どう使い分ける?脳卒中リハの温熱・寒冷療法
▶ 電気刺激療法FES・NMES・TENSの違い|脳卒中リハビリでの使い分け
▶ “動かすたびに激痛”の正体——脳卒中後の肩の痛み(PSSP)のメカニズム
▶ ボツリヌス治療×装具療法|脳卒中痙縮の相乗効果と臨床応用
▶ 低周波療法・干渉波療法とは?脳卒中リハビリでの疼痛管理と筋機能への応用
免責事項
本記事の内容は、筆者個人の経験・知識および参考文献に基づく情報提供を目的としており、個別の医療・リハビリテーションに関するアドバイスではありません。物理療法の実施については、担当の医師・理学療法士など専門家にご相談ください。本記事の情報を利用したことによって生じたいかなる損害についても、筆者は責任を負いかねます。
参考文献
- 日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会. 脳卒中治療ガイドライン2021. 協和企画; 2021.
- Ansari NN, et al. Therapeutic ultrasound in the treatment of wrist flexor spasticity in chronic hemiplegic patients. Physiother Theory Pract. 2006;22(6):287-293.
- Jiang C, et al. Effects of ultrasound therapy on post-stroke spasticity: a systematic review and meta-analysis. Clin Rehabil. 2021;35(12):1640-1652.
- Picelli A, et al. Efficacy of therapeutic ultrasound and transcutaneous electrical nerve stimulation compared with botulinum toxin type A in the treatment of spastic equinus in adults with chronic stroke: a pilot randomized controlled trial. Top Stroke Rehabil. 2014;21 Suppl 1:S8-16. PMID: 24722047.
- Robertson V, Ward A, Low J, Reed A. Electrotherapy Explained: Principles and Practice. 4th ed. Butterworth-Heinemann; 2006.
- 奈良勲, 鎌倉矩子(監修). 標準理学療法学 専門分野 物理療法学 第3版. 医学書院; 2018.


















