この記事でわかること

  • 温熱療法(ホットパック・超音波など)の生理学的効果と脳卒中での使いどころ
  • 寒冷療法(アイシング)の生理学的効果と脳卒中における活用法
  • 痙縮(けいしゅく)に対して温熱と寒冷のどちらが有効か
  • 炎症の有無・深達度・感覚障害という3つの判断軸
  • 実際の臨床で注意すべきポイント

はじめに

「痙縮の患者さんにホットパックとアイシング、どっちが正解なんですか?」

実習中や就職直後にこの質問を指導者に投げかけ、明確な答えをもらえなかった経験はありませんか。「どちらも効く」「患者さんによる」という答えは間違いではないのですが、なぜそうなのかを理解していないと、臨床で選択に自信が持てません。

この記事では、温熱療法と寒冷療法それぞれの生理学的根拠と、脳卒中リハビリにおける具体的な使い分けを整理します。

1. 温熱療法の生理学的効果

組織温度が上がると何が起こるのか

皮膚・皮下組織・筋腱などの温度が上昇すると、以下の変化が生じます。

① 血管拡張と血流増加

局所の血管が拡張し、血流が増加します。これにより酸素・栄養素の供給が促進され、代謝産物の除去が進みます。

② コラーゲン線維の粘弾性低下

腱・関節包・筋膜(きんまく)などのコラーゲン組織は、温度が上がると伸張性が高まります。拘縮(こうしゅく)のある関節への可動域練習前に温熱を加えることで、組織が「伸びやすい状態」を作れます。

③ 神経伝導速度の変化

温熱は感覚神経・運動神経の伝導速度を上げる効果があります。軽度の疼痛緩和効果もあります。

④ 筋スパズムの緩和

筋スパズム(痛みや緊張による持続的な筋収縮)が緩和されやすくなります。ただしこれは痙縮(中枢性の筋緊張亢進)とは異なるメカニズムです。

主な温熱療法の種類と特徴

手段深達度特徴
ホットパック浅い(皮膚〜皮下)最も手軽。感覚障害部位は熱傷に注意
超音波療法(連続)深い(3〜5cm)腱・関節包に直接届く
パラフィン浴浅い(手・足先)細部に均一な温熱。手指拘縮に有用
渦流浴(かりゅうよく)中程度水流刺激との組み合わせ

2. 寒冷療法の生理学的効果

組織温度が下がると何が起こるのか

① 血管収縮と代謝抑制

初期の冷却では血管が収縮し、局所の代謝が低下します。急性外傷・術後炎症の急性期では、浮腫(ふしゅ)の抑制に有効とされます。

ただし長時間冷却すると反射性の血管拡張(hunting reaction)が起こるため、「冷やし続ければいいわけではない」という理解が必要です。

② 神経伝導速度の低下と疼痛閾値の上昇

冷却により感覚神経・運動神経の伝導速度が低下します。これが局所麻酔様の疼痛緩和効果をもたらします。

③ 筋紡錘(きんぼうすい)の感受性低下

筋紡錘の Ia(いちエー)求心性神経の感受性が低下し、γ(ガンマ)運動ニューロンの活動が抑制されます。これが痙縮への寒冷療法が使われる理由のひとつです。

④ 代謝産物・炎症メディエーターの除去遅延

過度な冷却は代謝を過剰に抑制するため、慢性期への長期的な使用には適しません。


3. 痙縮に対して温熱か寒冷か

これが最も悩まれるポイントです。結論から言えば、どちらも痙縮の一時的な緩和に使えますが、メカニズムが異なり、使いどころも違います。

寒冷療法が痙縮に使われる根拠

  • 筋紡錘感受性の低下 → Ia求心性神経の興奮性抑制 → α(アルファ)運動ニューロン活動の低下
  • これにより痙縮筋の筋緊張が一時的に抑制される
  • 効果の持続は20〜30分程度が多く、その後の可動域練習との組み合わせが前提

Lee らによる研究(2015年)では、脳卒中後の痙縮筋に対するアイスパック冷却後に関節可動域の一時的な改善が確認されており、臨床での使用を支持する結果が得られています。

温熱療法が拘縮予防・組織柔軟性向上に使われる根拠

  • コラーゲン線維の伸張性向上(温度依存的)
  • 関節包・筋腱移行部の柔軟性改善
  • 特に慢性的な拘縮への可動域練習前の前処理として有用

ただし、温熱は痙縮そのものへの抑制効果は寒冷ほど明確ではなく、むしろ組織の物理的な柔軟性を高めることで間接的に可動域を改善するアプローチです。

整理すると

目的推奨される療法
痙縮の一時的な筋緊張抑制寒冷療法(アイスパック・アイスマッサージ)
拘縮組織の柔軟性向上(可動域練習前)温熱療法(ホットパック・超音波連続)
急性炎症・浮腫の抑制寒冷療法
慢性疼痛・筋スパズムの緩和温熱療法

4. 使い分けの3つの判断軸

① 炎症の有無・ステージ

  • 急性炎症期(発赤・腫脹・熱感・疼痛あり):寒冷を選択
  • 亜急性〜慢性期(炎症は落ち着いているが可動域制限・拘縮が残る):温熱を選択

脳卒中後の肩痛では、腱板の炎症が活動期にあるのか慢性化しているのかを評価してから選ぶことが重要です。

② 深達度が必要かどうか

  • 表在性の筋・皮膚下組織が対象 → ホットパック・アイスパックで十分
  • 深部の関節包・腱・筋腱移行部が対象 → 超音波療法(温熱モード)を検討

③ 感覚障害の程度

麻痺側(まひがわ)の感覚障害は、温熱療法・寒冷療法のどちらにも熱傷・凍傷リスクをもたらします。

  • 表在感覚(触覚・温覚・冷覚)の評価を先に行う
  • 感覚障害が重度な場合は、患者さんの「痛くない」という反応だけを信じず、定期的に皮膚を視覚で確認する
  • ホットパック使用時はタオルを重ねて温度を下げ、照射時間を短くする(15〜20分以内)

5. よく使われる組み合わせパターン

パターン①:寒冷→可動域練習

  1. 痙縮筋群にアイスパック(10〜15分)
  2. 筋緊張が低下したところで関節可動域練習・ストレッチ
  3. 機能的な運動練習へ

例:手関節屈筋の痙縮が強い患者さんに、アイスパック後に手関節背屈の可動域練習を行う

パターン②:温熱→可動域練習→寒冷

  1. ホットパックまたは超音波療法(10〜15分)
  2. 組織が柔らかい間に可動域練習
  3. 運動後の炎症・疼痛予防にアイスパック(10〜15分)

例:足関節拘縮のある患者さんに、ホットパック後の可動域練習→終了後アイシング


ほーりーの臨床メモ

「痙縮にはホットパックとアイシングどっちですか?」という質問は、毎年新人PTから受ける定番の疑問です。私の答えは「痙縮の緩和が主目的ならアイシング、拘縮組織を伸ばしやすくしたいなら温熱」と整理するのが実用的だということです。

臨床で特に重要なのが「痙縮」と「拘縮」を区別することです。関節が固いのは痙縮のせいなのか、それとも組織が器質的に硬くなった拘縮なのか——両方が混在していることも多く、どちらが主因かによってアプローチが変わります。急性期・回復期初期では痙縮成分が大きいことが多くアイシングが有効で、慢性期になると拘縮成分が大きくなるため温熱が使いやすくなる傾向があります。

麻痺側の感覚障害への配慮は徹底してください。「熱くない・冷たくない」という患者さんの言葉を信じて重篤な熱傷・凍傷を起こした事例は報告されています。ホットパックはタオル2〜3枚重ね・15分以内、アイスパックは薄いタオル越しに当てることを基本にして、5分おきに皮膚確認を行う習慣が大切です。


まとめ

  • 温熱療法は組織の柔軟性向上・血流改善・筋スパズム緩和に有効で、拘縮への可動域練習前の前処理として適しています
  • 寒冷療法は筋紡錘感受性の低下を通じて痙縮の一時的な筋緊張抑制に働きます
  • 急性炎症期は寒冷、亜急性〜慢性期の組織柔軟性向上には温熱、と炎症ステージで使い分けます
  • 感覚障害のある麻痺側では、熱傷・凍傷リスクを常に意識し、皮膚の視覚確認を欠かさないことが大切です

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免責事項

本記事の内容は、筆者個人の経験・知識および参考文献に基づく情報提供を目的としており、個別の医療・リハビリテーションに関するアドバイスではありません。物理療法の実施については、担当の医師・理学療法士など専門家にご相談ください。本記事の情報を利用したことによって生じたいかなる損害についても、筆者は責任を負いかねます。


参考文献

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  6. 奈良勲, 鎌倉矩子(監修). 標準理学療法学 専門分野 物理療法学 第3版. 医学書院; 2018.
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ほーりー
脳卒中認定理学療法士/臨床13年目/総合病院勤務(回復期・地域包括・緩和ケア病棟)で累計500例以上の脳卒中患者のリハビリを担当。院内では新人PT教育・勉強会講師を継続。日本神経理学療法学会所属。新人PT・若手PTと患者様・ご家族に「現場の知見」をわかりやすく発信しています。