この記事でわかること

  • ① 半側空間無視(USN:Unilateral Spatial Neglect)
  • ② 失語症(Aphasia)
  • ③ 注意障害(Attention Disorder)
  • 評価ツール早見表

「歩行訓練はできているのに、患者さんの言動が何かおかしい気がする。高次脳機能障害を疑っているけど、どうやって評価すればいいかわからない」——そんなときに使える評価の基本をまとめました。

脳卒中リハビリでは、運動麻痺だけでなく「高次脳機能障害」への理解と対応も非常に重要です。高次脳機能障害とは、脳損傷によって記憶・注意・言語・認知などの高度な脳の働きに障害が生じた状態を指します。

なかでも臨床でよく遭遇するのが、半側空間無視・失語症・注意障害の3つです。これらは見た目にわかりにくく、「なんとなく様子がおかしい」と感じても原因を特定しにくいことがあります。

この記事では、新人PTが最初に知っておきたいこの3つの障害の特徴と評価ツールを、わかりやすく整理して解説します。

① 半側空間無視(USN:Unilateral Spatial Neglect)

どんな状態?

半側空間無視とは、脳損傷によって片側(多くは左側)の空間や刺激に気づきにくくなる状態です。視野が欠けているわけではなく、「見えているのに注意が向かない」のが特徴です。

例えば、食事で左半分のおかずを食べ残す、廊下を歩くと左側の壁にぶつかる、文字を読む際に左側の文字を飛ばすといった行動が見られます。

主な評価ツール

  • BIT行動性無視検査(Behavioural Inattention Test):最も包括的な評価で、通常版と行動版がある。所要時間は30〜40分程度。
  • 線分二等分テスト:線を「真ん中」で二分させる。無視があると中心が患側と反対方向にずれる。
  • 星印抹消試験・文字抹消試験:ランダムに配置された図形や文字の中から特定のものに印をつけてもらう。左側の見落とし数が指標になる。

臨床でのポイント

無視があると転倒リスクが高まり、ADLへの影響も大きいため、早期からの評価と環境調整が重要です。PT・OTで連携して対応することが多い障害です。

② 失語症(Aphasia)

どんな状態?

失語症は、脳の言語野(ブローカ野・ウェルニッケ野など)が損傷されることで、話す・聞く・読む・書くといった言語機能に障害が生じた状態です。知的機能の問題ではなく、「言語を使うための機能」が障害されています。

失語症にはいくつかの種類があり、「話せるが理解できない(ウェルニッケ失語)」「理解できるが話せない(ブローカ失語)」など、症状のパターンが異なります。

主な評価ツール

  • WAB失語症検査(Western Aphasia Battery):失語指数(AQ)を算出でき、失語のタイプ分類にも使われる国際的な標準検査。
  • 標準失語症検査(SLTA):国内で広く使われる検査。26項目で言語機能を網羅的に評価する。
  • SALA失語症検査:語彙・音韻・文法など言語処理の詳細な分析に使われる。

臨床でのポイント

失語症の評価と訓練は主に言語聴覚士(ST)が担いますが、PTも日々のリハビリ中にコミュニケーションをとる必要があります。患者さんの理解力・表出力のレベルをSTから情報共有してもらい、ジェスチャーや絵カードを活用するなど、適切な関わり方を工夫しましょう。

③ 注意障害(Attention Disorder)

どんな状態?

注意障害は「集中が続かない」「ぼーっとしている」「2つのことが同時にできない」など、注意機能全般に問題が生じた状態です。脳卒中後に非常に多く見られる障害で、見過ごされやすいですが、ADLやリハビリ効果に大きく影響します。

注意機能は大きく4つに分類されます:

  • 持続的注意:一定時間、注意を維持する力
  • 選択的注意:必要な情報に絞って注意を向ける力
  • 転換的注意:注意を別の対象にスムーズに切り替える力
  • 分割的注意:複数のことに同時に注意を向ける力

主な評価ツール

  • 標準注意検査法(CAT):注意機能を包括的に評価できる国内標準検査。所要時間は40〜60分程度。
  • Trail Making Test(TMT):数字・文字を順番につないでいくテスト。処理速度・注意の転換を評価できる。
  • かなひろいテスト:文章の中から指定した文字を探す簡便なテスト。10分以内で実施可能。

臨床でのポイント

注意障害があると、リハビリ中に指示が入りにくかったり、同じミスを繰り返したりすることがあります。「やる気がない」と誤解されやすいため、障害として認識し、環境整備(静かな環境での訓練)や課題の難易度調整で対応することが大切です。

評価ツール早見表

障害の種類代表的な評価ツール特徴・目安時間臨床での活用ポイント
半側空間無視BIT行動性無視検査線分二等分テスト抹消試験(星印・文字)BITは包括的で30〜40分。線分・抹消は数分で実施可能左右の非対称性や左側の見落としを数値化
失語症WAB失語症検査標準失語症検査(SLTA)SALA失語症検査STが主担当。PTも結果を読んでコミュニケーションに活かす指示理解の程度を把握してリハビリの指示方法を調整
注意障害標準注意検査法(CAT)Trail Making Test(TMT)かなひろいテストCATは包括的で40〜60分。TMT・かなひろいは短時間で実施可能注意の種類(持続・選択・分割)を分けて把握する

ほーりーの臨床メモ

高次脳機能障害の評価は、「数値」だけでなく「生活場面での困り感」と照らし合わせることが大切だと実感しています。たとえば半側空間無視は、病室では目立たなくても、廊下を歩いたときや食事場面で初めて気づくことがあります。評価室だけでなく、実際の生活場面を観察することを習慣にするようになってから、見落としが減りました。自分の場合はお昼休みに患者さんの食事場面は確認するようにしています。

失語症のある患者さんとのコミュニケーションで最初に困ったのは、「理解できているのかどうかわからない」という場面でした。表情や頷きに注目しながら、Yes/Noで答えられるシンプルな質問を使うよう意識しています。けどやはり頼りになるのはSTさんですね。

注意障害については、「集中力がない」と表面的に捉えてしまうと介入の方向性がずれます。どの種類の注意が低下しているのかを丁寧に見極めることで、環境調整や課題の難易度設定が格段にしやすくなります。高次脳機能障害の評価は奥が深いですが、「生活への影響」を軸に考えることが、臨床判断の土台になると感じています。


まとめ

高次脳機能障害は「見えにくい障害」だからこそ、正しく評価して言語化することがとても大切です。今回紹介した3つの障害のポイントをまとめます:

  • 半側空間無視:見えているのに気づかない。BITや抹消試験で早期評価を
  • 失語症:言語機能の障害。STと連携し、コミュニケーション方法を工夫する
  • 注意障害:集中・切り替え・分割などの注意機能の低下。CATやTMTで種類を把握する

最初はどの評価をいつ使えばいいか迷うこともあると思いますが、「この患者さんの困っていることは何か?」という視点から評価ツールを選ぶ習慣をつけることが、臨床力アップの第一歩です。


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免責事項

本記事の内容は、筆者個人の経験・知識および参考文献に基づく情報提供を目的としており、個別の医療・リハビリテーションに関するアドバイスではありません。症状や治療方針については、必ず担当の医師・理学療法士などの専門家にご相談ください。本記事の情報を利用したことによって生じたいかなる損害についても、筆者は責任を負いかねます。

参考文献

  1. 脳卒中治療ガイドライン2021. 日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会. 協和企画; 2021.
  2. Folstein MF, et al. “Mini-mental state”: A practical method for grading the cognitive state of patients for the clinician. J Psychiatr Res. 1975;12(3):189-198.
  3. 加藤伸司 他. 改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)の作成. 老年精神医学雑誌. 1991;2(11):1339-1347.
  4. 日本高次脳機能障害学会(編). 高次脳機能障害学 第2版. 医歯薬出版; 2016.
  5. 日本リハビリテーション医学会(監). リハビリテーション医学・医療コアテキスト. 医学書院; 2018.
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ほーりー
脳卒中認定理学療法士・臨床13年目。総合病院勤務(回復期・地域包括・緩和ケア病棟)。姿勢・動作分析、装具療法、患者指導を専門とし、新人PT・若手PTと患者家族に脳卒中リハビリをわかりやすく発信しています。