はじめに

BRS(ブルンストロームステージ)とFMA(Fugl-Meyer Assessment)は、脳卒中片麻痺の運動機能を評価する代表的な2つのスケールです。

「BRSとFMAって、どちらも麻痺の評価なのに何が違うの?どう使い分ければいいかわからない」——新人PTからよく聞かれる疑問です。

脳卒中リハビリの現場では、患者さんの回復状況を客観的に把握するために、さまざまな評価指標が使われています。その中でも特によく使われるのが、この2つの指標です。

「どちらも麻痺の評価じゃないの?」と思っている新人PTの方も多いのではないでしょうか。確かに両方とも脳卒中後の運動麻痺を評価するツールですが、目的・構造・使い方には明確な違いがあります。

この記事では、BRSとFMAそれぞれの特徴を整理し、臨床での使い分けのポイントを、13年の臨床経験を交えてわかりやすく解説します。

BRS(ブルンストロームステージ)とは

BRS(Brunnstrom Recovery Stage)は、スウェーデンの理学療法士シーグネ・ブルンストロームが1970年に提唱した、脳卒中片麻痺の回復過程を6段階で表す評価法です(Brunnstrom 1970)。

評価部位

上肢・手指・下肢の3部位を、それぞれ独立したステージで評価します。

各ステージの概要(上肢の例)

  • ステージ1:弛緩性麻痺。随意運動なし
  • ステージ2:連合反応・共同運動が出現
  • ステージ3:共同運動パターンで随意運動可能
  • ステージ4:一部の分離運動が可能
  • ステージ5:より難しい分離運動が可能
  • ステージ6:協調性・速度がほぼ正常

BRSの利点

  • 短時間で評価可能(5〜10分)
  • 特別な道具不要
  • カルテへの簡潔な記録に向く
  • 多職種への情報共有(医師・看護師)が容易

BRSの限界

  • 順序尺度のため変化量を定量化できない
  • 6段階と粗いため、ステージ内の細かい改善を捉えにくい
  • 天井効果(ステージ6で改善が見えなくなる)

臨床で長く愛用されている指標ですが、「数値で経過を追いたい」場面ではFMAなどの定量評価が補完的に必要になります。

Fugl-Meyer Assessment(FMA)とは

FMA(Fugl-Meyer Assessment)は、1975年にスウェーデンのFugl-Meyerらによって開発された、脳卒中後の機能回復を多角的・定量的に評価するツールです(Fugl-Meyer 1975)。

評価領域

FMAは5領域で構成されています。

領域項目数最大点
上肢運動機能(FMA-UE)33項目66点
下肢運動機能(FMA-LE)17項目34点
感覚機能12項目24点
バランス7項目14点
関節可動域・疼痛各44項目各44点

FMA-UEの特徴

臨床で最も頻繁に使われるのは「上肢運動機能(FMA-UE)」です。各動作を0(できない)・1(部分的にできる)・2(完全にできる)の3段階で採点し、66点満点で細かい変化を定量化できます。

FMA-UEのMCID(臨床的に意味のある最小変化量)

慢性期脳卒中患者では、FMA-UEのMCIDは5.25点と報告されています(Page 2012)。つまり、5点以上の改善があれば「臨床的に意味のある変化」と判断できます。

FMAの利点

  • 比率尺度で変化量を定量化できる
  • 細かいレベルの改善を捉えられる
  • 研究・論文の根拠となる
  • 介入効果の検証に有効

FMAの限界

  • 全項目を評価すると30〜60分かかる
  • 採点者の習熟が必要(Sullivan 2011の訓練手順が参考)
  • 急性期の重症患者には負担が大きい

BRSとFMAの比較

両者の特徴を表で比較します。

比較軸BRSFMA
評価形式ステージ1〜6の順序尺度0〜2点×項目数の比率尺度
評価対象上肢・手指・下肢上肢・下肢・感覚・バランス・関節
項目数各部位1段階評価上肢33・下肢17項目(運動領域)
点数範囲1〜6上肢0-66点・下肢0-34点
所要時間5〜10分30〜60分(運動領域のみ20分程度)
変化の検出粗い(6段階)細かい(66点満点で1点ごと)
MCID報告例少ないFMA-UE 5.25点(Page 2012)
天井効果あり(ステージ6)比較的小さい
採点者の習熟短時間で習得可能訓練と経験が必要
主な用途日常スクリーニング・情報共有介入効果検証・研究

表からわかること

  • BRSは「速く」「粗く」→ 日常臨床向き
  • FMAは「ゆっくり」「細かく」→ 研究・要所評価向き
  • 両者は補完関係にあり、対立するものではない

臨床での使い分けポイント

評価ツールは「いつ使うか」「何を見たいか」で選ぶことが重要です。時期別の使い分けを整理しました。

急性期(発症〜2週間程度)

  • メイン:BRS
  • 目的:刻一刻と変化する麻痺の状態を素早く把握
  • 患者さんの全身状態が不安定な時期。長時間の評価は負担になるため、BRSで日々の変化を追います
  • 入院時にFMAを実施しておくと、その後の経過比較に役立ちます

回復期(2週間〜6か月)

  • メイン:BRS(日常)+FMA(節目)
  • 目的:回復過程の細かい変化を捉え、介入効果を検証
  • 毎日のリハビリ記録はBRS、入院時・退院前・カンファレンス前にFMAを実施します
  • 同じBRSステージが続いている時期こそ、FMAで「見えない改善」を捉えるチャンスです

生活期(6か月以降)

  • メイン:FMA(年1〜2回)+BRS(日常)
  • 目的:長期的な維持・改善・悪化を定量的にモニタリング
  • 通院リハや訪問リハでは、FMAを定期的に実施することで「現状維持できているか」「再発の兆候はないか」を確認できます

患者・家族への説明での使い分け

  • 「全体の回復段階」を伝えるときはBRS(〇〇ステージから△△ステージへ)
  • 「細かい改善」を伝えるときはFMA(〇〇点上がりました)
  • 両者を組み合わせることで、患者さんのモチベーション維持にもつながります

ほーりーの臨床メモ

私の場合、学校で習った運動麻痺の評価はBRSで、FMAは臨床で働き始めてから使い始めました。初めのころは2つの違いがわからずに使い分けができませんでした。「運動麻痺を評価してください」と先輩に言われてもどちらを選ぶべきか迷っていました。

今は場面によって使い分けています。日々の変化を短時間で追うにはBRS、研究や詳細な機能評価・入退時の記録にはFMAという感覚です。FMAは項目数が多く時間がかかるため、急性期の忙しい現場では患者さんの疲労にも配慮しながら実施する必要がありますね。

13年の臨床で気づいたのは、評価指標は「数値を出すツール」ではなく「観察の解像度を上げるツール」だということ。BRSステージ3のまま3か月続いている患者さんでも、FMAで見れば「手指の項目だけ2点上がっている」という変化が見える。その小さな変化が、患者さんへの声かけの材料になり、ご家族への希望のメッセージになります。

評価ツールを「記録のため」だけでなく「変化を伝えるため」「介入を考えるため」に使う視点は、リハビリのモチベーション維持にも大きく役立っています。

まとめ

BRSとFMAは、目的と使い方が異なる補完的な評価ツールです。本記事の要点を整理します。

  • BRSは6段階の順序尺度で、「素早く・シンプルに」回復段階を把握するツール(5〜10分)
  • FMAは66点満点の比率尺度で、「細かく・定量的に」機能変化を捉えるツール(30〜60分)
  • FMA-UEのMCIDは5.25点(Page 2012)。臨床的に意味のある変化の目安として活用できます
  • 時期別使い分け:急性期はBRS中心、回復期は両者併用、生活期はFMA定期評価が実践的
  • 両者は対立せず補完関係。BRSで大枠を、FMAで細部を捉える視点が新人PTには重要

新人PTのうちは「なんとなく使っている」ことも多いかもしれません。しかし、評価ツールの特性と使い分けを理解することで、患者さんの変化をより正確に把握し、より質の高いリハビリにつなげることができます。

ぜひ日々の臨床で、意識的に使い分けてみてください。

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免責事項

本記事の内容は、筆者個人の経験・知識および参考文献に基づく情報提供を目的としており、個別の医療・リハビリテーションに関するアドバイスではありません。症状や治療方針については、必ず担当の医師・理学療法士などの専門家にご相談ください。本記事の情報を利用したことによって生じたいかなる損害についても、筆者は責任を負いかねます。

参考文献

  1. Brunnstrom S. Movement Therapy in Hemiplegia: A Neurophysiological Approach. Harper & Row; 1970.
  2. Fugl-Meyer AR, et al. The post-stroke hemiplegic patient. Scand J Rehabil Med. 1975;7(1):13-31.
  3. Sullivan KJ, et al. Fugl-Meyer assessment of sensorimotor function after stroke: standardized training procedure for clinical practice and clinical trials. Stroke. 2011;42(2):427-432.
  4. Page SJ, et al. Clinically important differences for the upper-extremity Fugl-Meyer Scale in people with minimal to moderate impairment due to chronic stroke. Phys Ther. 2012;92(6):791-798.
  5. See J, et al. A standardized approach to the Fugl-Meyer assessment and its implications for clinical trials. Neurorehabil Neural Repair. 2013;27(8):732-741.
  6. 脳卒中治療ガイドライン2021. 日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会. 協和企画; 2021.
  7. 日本リハビリテーション医学会(監). リハビリテーション医学・医療コアテキスト. 医学書院; 2018.
  8. 中村隆一, 齋藤宏, 長崎浩. 基礎運動学 第6版補訂. 医歯薬出版; 2012.
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ほーりー
脳卒中認定理学療法士/臨床13年目/総合病院勤務(回復期・地域包括・緩和ケア病棟)で累計500例以上の脳卒中患者のリハビリを担当。院内では新人PT教育・勉強会講師を継続。日本神経理学療法学会所属。新人PT・若手PTと患者様・ご家族に「現場の知見」をわかりやすく発信しています。