脳卒中後の食事管理——再発を防ぐ食習慣と塩分・脂質のコントロール

この記事でわかること
- 脳卒中の再発と食事がどう関係しているのか
- 塩分・脂質・血糖の管理で意識すべきポイント
- 日常の食事でできる具体的な工夫と目標値
- 抗凝固薬(ワーファリン)服用中の食べ物の注意点
- 無理なく続けるための考え方
はじめに
「退院したら食事に気をつけてください」と言われたけれど、何をどう変えればいいのか、正直よくわからない——。
そんなご家族や患者さんの声をよく聞きます。この記事では、脳卒中の再発を防ぐために食事面で押さえておきたいことを、実践的な目線で整理します。
1. 食事が再発リスクに直結する理由
脳卒中は一度発症すると、再発しやすい病気です。脳梗塞の場合、5年以内の再発率は約20〜30%とされており、再発予防は退院後の生活で最も優先すべき課題のひとつです。
食事と再発の関係でとくに重要なのは、以下の3つです。
- 高血圧:再発に最も関係するリスク因子。塩分のとりすぎが血圧を上げる
- 脂質異常症(高コレステロール):動脈硬化を進める。脂っこい食事や甘いものの過剰摂取が原因になる
- 糖尿病・血糖管理:血糖が高い状態が続くと血管がダメージを受ける
「薬を飲んでいれば食事は関係ない」と思われがちですが、薬の効果を最大に発揮させるためにも食事管理は欠かせません。
2. 塩分管理——最優先で取り組むポイント
目標:1日6g未満
日本高血圧学会のガイドラインでは、高血圧のある方の塩分摂取量の目標は1日6g未満とされています(日本人の平均は約10g)。
「6g未満」というのは、小さじ1杯分の食塩に相当します。かなり少なく感じるかもしれませんが、工夫次第で無理なく近づけることができます。
実践的な塩分を減らすコツ
- 汁物は1日1杯まで:みそ汁・スープは塩分が高い。具だくさんにして量を減らす
- だし・酸味・香りを活用:かつおだし・昆布だしをしっかりとると、少ない塩分でも美味しく感じる。レモンやすだちの酸味、しそ・生姜の香りも有効
- しょうゆは「かける」より「つける」:食卓でかけるのではなく、少量を皿に出してつけ食べにする
- 加工食品・外食に注意:ハム・ウインナー・漬け物・ラーメン・丼ものは塩分が高め。頻度を減らす
- 減塩食品を上手く活用:減塩しょうゆ・減塩みそは塩分が通常の半分程度。積極的に使う
3. 脂質管理——動脈硬化を進めないために
避けたい脂質・食習慣
- 飽和脂肪酸を多く含む食品を減らす:バター・ラード・牛肉の脂身・ベーコン・チーズなど
- トランス脂肪酸を避ける:マーガリン・ショートニングを多く含むケーキ・スナック菓子
- 揚げ物・炒め物の頻度を下げる:週2〜3回程度に抑えるのが目安
積極的にとりたい食品
- 青魚(サバ・イワシ・サンマ):EPA・DHA(オメガ3系脂肪酸)が豊富で中性脂肪を下げる効果がある。週2〜3回を目標に
- 野菜・海藻・きのこ類:食物繊維がコレステロールの吸収を抑える
- 大豆製品(豆腐・納豆・豆乳):良質なたんぱく質と大豆サポニンで血管を守る
4. 血糖管理——甘いものと白い炭水化物に注意
糖尿病を合併している方、または血糖が高めの方は以下を意識してください。
- 甘い飲み物(ジュース・清涼飲料水)を控える:液体の糖質は吸収が速く血糖を急上昇させる
- 白米・白いパン・麺類のとりすぎに注意:精製された炭水化物は血糖を上げやすい。玄米・全粒粉パンに変えるのも一手
- 食べる順番を意識する:野菜→肉・魚→ご飯の順で食べると血糖の急上昇が緩やかになる(ベジファースト)
- 食後の軽い運動:食後15〜30分の軽いウォーキングで血糖上昇を抑える効果がある
5. ワーファリン服用中の方へ——納豆・青汁に注意
脳梗塞(とくに心房細動が原因の場合)の再発予防でワーファリン(ワルファリン)を服用している方は、特定の食品との相互作用に注意が必要です。
避けるべき食品
- 納豆:腸内細菌がビタミンKを産生し、ワーファリンの効果を大幅に弱める。絶対に食べないこと
- 青汁・クロレラ・栄養補助食品(ビタミンKを多く含むもの):同様にワーファリンの効果を弱める
- セイヨウオトギリソウ(セントジョーンズワート)含有サプリ:薬の代謝を速めて効果を下げる
注意が必要な食品(過剰摂取を避ける)
ほうれん草・小松菜・ブロッコリー・春菊などの緑葉野菜はビタミンKを多く含む。量を急に大幅に変えないことが大切(禁止ではなく一定量を毎日食べ続けることが重要)
DOAC(イグザレルト・エリキュース・プラザキサなど)を服用中の方はワーファリンほどの食事制限はありませんが、グレープフルーツの摂取には注意が必要な薬剤もあるため、担当医・薬剤師に確認してください。
6. 食事管理を無理なく続けるために
「全部完璧にやらなければ」と考えすぎると、かえってストレスになって続かなくなります。
まず1つだけ変えることから始めましょう。
- 今週は「汁物を1日1杯にする」だけ
- 来月は「青魚を週2回食べる」を追加する
小さな変化を積み重ねる方が、長期的には確実に効果が出ます。また、管理栄養士による栄養指導(外来でも受けられる病院があります)を活用するのもよい選択です。
ほーりーの臨床メモ
退院後に食事管理で最も多く聞いてきた悩みは「何を食べていいかわからなくて、結局何も変えられていない」というものです。
退院時の栄養指導で栄養士さんから「塩分を減らしてください」と言われても、具体的に何をどう変えるかイメージできないと行動につながりません。私がよくお伝えするのは「まず調味料の置き場所を変える」という小さな一歩です。食卓にしょうゆを置かないだけで、自然にかける量が減ります。
また、食事管理を「患者さん一人の課題」にしないことが大切です。一緒に住むご家族の食事も同時に変わることで、患者さんへの負担感が減り、長続きします。「家族全員の健康のために食事を見直す」という視点で取り組むと、患者さんも孤立感を感じにくくなります。
まとめ
- 脳卒中の再発予防において、高血圧・脂質異常・血糖管理が食事と深く関係しています
- 塩分は1日6g未満を目標に。汁物・加工食品・外食での塩分を意識することが現実的な第一歩です
- 青魚・野菜・大豆製品を積極的にとり、動脈硬化を進める飽和脂肪酸・甘いものを控えましょう
- ワーファリン服用中の方は納豆・青汁を必ず避けてください
- 完璧を目指さず、「1つずつ変える」という姿勢で長期的に続けることが最も大切です
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免責事項
本記事の内容は、筆者個人の経験・知識および参考文献に基づく情報提供を目的としており、個別の医療・栄養に関するアドバイスではありません。食事療法の実施については、担当の医師・管理栄養士など専門家にご相談ください。本記事の情報を利用したことによって生じたいかなる損害についても、筆者は責任を負いかねます。
参考文献
- 日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会. 脳卒中治療ガイドライン2021. 協和企画; 2021.
- 日本高血圧学会. 高血圧治療ガイドライン2019. ライフサイエンス出版; 2019.
- 日本動脈硬化学会. 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版. 日本動脈硬化学会; 2022.
- Piepoli MF, et al. 2016 European Guidelines on cardiovascular disease prevention in clinical practice. Eur Heart J. 2016;37(29):2315-2381.
- Kernan WN, et al. Guidelines for the Prevention of Stroke in Patients With Stroke and Transient Ischemic Attack. Stroke. 2014;45(7):2160-2236.
- 日本糖尿病学会. 糖尿病診療ガイドライン2019. 南江堂; 2019.
















