Uncategorized

脳卒中リハビリの「基本のき」【新人PT・患者さん両方向け入門記事】


はじめてこのブログに来てくださった方も、以前から読んでくださっている方も、ありがとうございます。北陸の総合病院で働く理学療法士の「ほーりー」です。

今回は、**脳卒中リハビリの「基本のき」**と題して、脳卒中について知っておいてほしい基礎知識をまとめました。

「脳卒中ってそもそも何?」「どんな後遺症が残るの?」「リハビリをしたらどこまで回復するの?」——そんな疑問を持っている方、全員に読んでほしい記事です。

患者さんやご家族の方はもちろん、脳卒中患者さんを初めて担当することになった新人理学療法士の方にも、ぜひ参考にしていただけると嬉しいです。


1. 脳卒中とは何か——種類と原因を整理しよう

「脳卒中」という言葉はよく聞くと思いますが、実は一つの病気の名前ではありません。脳の血管に問題が起こることで発症する病気の総称です。大きく分けると3種類あります。

① 脳梗塞(のうこうそく)

脳の血管が詰まることで、その先に血液が届かなくなり、脳の細胞が死んでしまう病気です。脳卒中の中でも最も多く、全体の約7〜8割を占めるとされています。

原因としては、動脈硬化によって血管が細くなって詰まるケース(アテローム血栓性脳梗塞)、心臓でできた血の塊が脳の血管に飛んで詰まるケース(心原性脳塞栓症)、細い血管が詰まるケース(ラクナ梗塞)などがあります。

② 脳出血(のうしゅっけつ)

脳の中の血管が破れて出血する病気です。出血した血液が脳を圧迫することで、周囲の神経が障害されます。高血圧が主な原因であることが多く、日本人に比較的多い病型です。

③ くも膜下出血(くもまくかしゅっけつ)

脳の表面を覆う「くも膜」と脳の間の空間(くも膜下腔)に出血が起こる病気です。多くは脳動脈瘤(血管のコブ)が破裂することで起こります。「突然、これまで経験したことのないような激しい頭痛」が典型的な症状で、緊急性の高い病態です。


2. 脳卒中の後遺症——どんな症状が残るのか

脳卒中では、ダメージを受けた脳の部位によってさまざまな後遺症が残ることがあります。代表的なものを解説します。

運動麻痺(うんどうまひ)

脳卒中後の後遺症として最もイメージしやすいのが、この運動麻痺ではないでしょうか。脳卒中では体の片側(左か右)に麻痺が残ることが多く、これを「片麻痺(かたまひ)」と呼びます。

脳と体は反対側でつながっているため、右脳に障害が起きれば左半身に、左脳に障害が起きれば右半身に麻痺が現れます。麻痺の程度は、まったく動かない状態から少し動かしにくい程度まで、ダメージの大きさや部位によって大きく異なります。

感覚障害(かんかくしょうがい)

麻痺のある側の手足に、しびれや感覚の鈍さが出ることがあります。「触られている感覚がわかりにくい」「熱さ・冷たさを感じにくい」「どこを触られているかわからない」といった症状です。

感覚障害は目に見えにくい症状のため、周囲に伝わりにくいことも多いですが、日常生活や歩行の安全性に大きく影響します。

失語症(しつごしょう)

主に左脳に障害が起きた場合に、言葉に関する機能が障害される症状です。「話すことが難しくなる」「言葉は理解できるが思うように出てこない」「聞いて理解することが難しくなる」など、その現れ方はさまざまです。

よく誤解されますが、失語症は知能が低下したわけではありません。言葉を扱う機能に障害が起きているのであって、その方の人格や理解力とは別の話です。コミュニケーションに時間がかかるだけで、ゆっくりと向き合えば十分に意思疎通できることも多いです。

高次脳機能障害(こうじのうきのうしょうがい)

記憶・注意・判断力など、目に見えにくい脳の働きに障害が残る状態を「高次脳機能障害」と呼びます。具体的には次のような症状があります。

  • 注意障害:集中が続かない、気が散りやすい
  • 記憶障害:新しいことを覚えられない、さっき言ったことを忘れる
  • 半側空間無視:片側(多くは左側)の空間への注意が向かなくなる
  • 遂行機能障害:物事を計画・順序立てて行うことが難しくなる

これらの症状はリハビリや介護の現場で非常に重要ですが、外見からはわかりにくいため、「怠けている」「性格が変わった」と誤解されてしまうことも少なくありません。


3. 回復の見通し——「プラトー」って何?

リハビリをがんばる中で、患者さんやご家族がもっとも気になることの一つが「どこまで回復するのか」という点ではないでしょうか。

脳卒中後の回復には「時期」がある

脳卒中後の機能回復は、一般的に発症から数週間〜数ヶ月の間が最も回復しやすい時期とされています。これは「神経可塑性(しんけいかそせい)」という脳の性質によるものです。

神経可塑性とは、脳がダメージを受けた後に、周囲の神経が新しいネットワークを作り直して機能を補おうとする働きのことです。この働きが活発な時期に集中的にリハビリを行うことが、回復を最大限に引き出すうえで非常に重要です。

「プラトー」とは何か

リハビリを続けていると、ある時期から「なかなか良くならない」と感じる時期が訪れることがあります。これをリハビリの世界では**「プラトー(高原状態)」**と呼びます。

プラトーとは、回復のスピードが落ちて、機能が一定の水準で安定した状態のことです。かつては「プラトーに達したらそれ以上の回復は見込めない」と考えられていた時期もありましたが、現在ではそうした考え方は大きく変わりつつあります。

「発症1年以上経っても回復できる」という研究がある

以前は、脳卒中後の回復における「神経可塑性が高まる特別な時期(クリティカルウィンドウ)」は発症後3〜6ヶ月以内に限られるとされており、慢性期になるとリハビリの効果は限定的だという考えが主流でした。しかしこれを覆す研究が2019年に発表されています。

Ballester et al.(2019年、Journal of Neurophysiology掲載)は、上肢に片麻痺を持つ219名の脳卒中患者を対象に、発症からの時期と機能回復の関係を詳しく分析しました。その結果、発症から12ヶ月を超えた慢性期・後期慢性期においても、リハビリによる有意な上肢機能の改善が確認されたのです。さらにこの研究では、治療への反応性(回復のしやすさ)が発症後1年半ごろまでゆるやかなグラデーションとして持続していることも明らかになりました。

つまり「1年経ったからもう回復しない」という考え方は、科学的には根拠が薄くなってきているのです。この論文の著者たちは、慢性期の患者にもリハビリを継続して提供することの重要性を強調し、現行のリハビリガイドラインの見直しを訴えています。

患者さん・ご家族へ——「あきらめない」根拠がある

「もうこれ以上よくならないと言われた」「プラトーだから仕方ない」と落ち込んでいる方に伝えたいのは、科学はあきらめない根拠を示し続けているということです。

退院後も継続的に体を動かすこと、生活の中で麻痺のある手足を使う機会を作ること、言葉を使う機会を失わないこと——これらはプラトー後の回復を支える大切な要素です。

新人PTへ——プラトーを「終わり」にしない関わり方を

新人のころは「これ以上よくならないのかな」と感じたとき、どう関わっていいか迷うことがあると思います。機能の回復だけが目標ではなく、その人が「その人らしく生きること」を支えるという視点を持つことが、長く臨床に携わる中でとても大切になってきます。


まとめ

今回の記事では、脳卒中リハビリの基本として以下の3点をお伝えしました。

  • 脳卒中は「脳梗塞・脳出血・くも膜下出血」の総称であり、種類によって原因や経過が異なる
  • 後遺症は多岐にわたり、運動麻痺・感覚障害・失語症・高次脳機能障害などが代表的
  • 回復には時期があり、プラトーを迎えても可能性はゼロではない——生活の中での継続的な取り組みが重要

次回以降は、各後遺症への具体的なリハビリアプローチや、自宅でできるホームエクササイズについても発信していく予定です。ぜひまた遊びに来てください。


北陸の総合病院勤務・臨床13年目・脳卒中認定理学療法士 ほーりー


参考文献

Ballester BR, Maier M, Duff A, Cameirão M, Bermúdez S, Duarte E, Cuxart A, Rodríguez S, San Segundo Mozo RM, Verschure PFMJ. A critical time window for recovery extends beyond one-year post-stroke. J Neurophysiol 122: 350–357, 2019. doi:10.1152/jn.00762.2018

CTAサンプル

これはCTAサンプルです。
内容を編集するか削除してください。