はじめに

脳卒中後の片麻痺患者さんの歩行を見ていて、「なんか変な歩き方だな」とは感じるけれど、「どこが問題で、なぜそうなっているのか」をうまく言語化できない——新人理学療法士(PT)の方の多くがそう感じているのではないでしょうか。

歩行分析は、脳卒中リハビリの中でも特に難しいスキルのひとつです。しかし、歩行周期の基礎と「異常が起きる理由」を理解しておくと、見え方がガラリと変わります。

この記事では、正常歩行の仕組みを押さえたうえで、片麻痺患者さんに典型的な異常歩行パターンを「なぜそうなるのか」という視点から解説します。

正常歩行の歩行周期を理解する

歩行周期とは

歩行周期(gait cycle)とは、一方の足が地面に接地してから、同じ足が再び接地するまでの一連の動作を指します。Perry & Burnfield(2010)の定義によれば、歩行周期は大きく 立脚期(stance phase)遊脚期(swing phase) に分かれます。

  • 立脚期:足が地面に接触している時間。歩行周期全体の約60%を占めます。
  • 遊脚期:足が地面を離れて前方に振り出される時間。約40%を占めます。

立脚期の細かい相(phase)

相の名称タイミング主な機能
初期接地(Initial Contact)踵が接地する瞬間衝撃吸収の準備
荷重応答期(Loading Response)全足底が接地するまで衝撃吸収・安定化
立脚中期(Mid Stance)反対側の足が離地〜体重が前方に移動単脚支持・重心の引き上げ
立脚後期(Terminal Stance)踵が離地〜反対側接地まで推進力の生成
前遊脚期(Pre-Swing)反対側の接地〜麻痺側の離地まで遊脚の準備

遊脚期の細かい相

相の名称タイミング主な機能
遊脚初期(Initial Swing)離地直後膝屈曲による足のクリアランス
遊脚中期(Mid Swing)足が体の真下を通過足のクリアランス維持
遊脚後期(Terminal Swing)接地直前次の接地への準備

この各相において「どの関節が・どの方向に・どの程度動くべきか」を頭に入れておくことが、異常歩行の観察・分析の基礎となります。


片麻痺歩行でよく見られる異常パターンとその原因

脳卒中後の片麻痺では、錐体路(皮質脊髄路)の損傷によって随意的な運動制御が障害され、さまざまな異常歩行パターンが生じます。Knutsson & Richards(1979)は26名の片麻痺患者の筋電図と関節運動を分析し、異常な歩行制御パターンを3タイプに分類しました。以下では、臨床でよく遭遇する代表的な異常パターンを解説します。


1. 内反尖足

見た目: 遊脚期に足首が底屈・内反し、足先が内側を向いたまま振り出される。初期接地が踵でなくつま先や足の外側で行われる。

なぜ起きるのか:

脳卒中によって大脳皮質〜脊髄間の抑制が失われると、下腿三頭筋(腓腹筋・ヒラメ筋)の過緊張(痙縮)が生じます。また、前脛骨筋の随意的な活動が低下し、背屈が困難になります。

さらに、後脛骨筋・長腓骨筋・短腓骨筋のアンバランスが内反を引き起こします。後脛骨筋の過活動が内反方向への力を生み、一方で腓骨筋の活動が不十分なため外反方向への拮抗ができなくなるのです。

観察ポイント:

  • 初期接地:踵接地ができているか
  • 遊脚中期:足先のクリアランスは十分か
  • 体重移動:接地後に円滑に足底全体に荷重移行できるか

2. 膝過伸展

見た目: 立脚期に膝が後方に反り返る(過伸展する)。特に立脚中期から後期にかけて顕著。

なぜ起きるのか:

膝過伸展の原因は複数あり、単一の問題ではありません。

  • 大腿四頭筋の過緊張:立脚期に膝が屈曲する代わりに過伸展方向に力が働く
  • ハムストリングスの弱化:膝の屈曲制御が不十分なため、膝が後方に押し込まれる
  • 尖足による代償:尖足によって前方重心移動が制限されると、身体の重心線が膝関節の前方を通りにくくなり、重心を前方に移すために膝を過伸展させて安定を得ようとする

Olney & Richards(1996)は、片麻痺歩行において膝関節の伸展モーメントが過剰になりやすいことを示し、これが膝過伸展の重要な力学的背景であると述べています。

観察ポイント:

  • 荷重応答期〜立脚中期:膝が軽度屈曲(約15〜20°)できているか、それとも一気に伸展(過伸展)してしまうか
  • 尖足の有無:尖足が膝過伸展を引き起こしている「運動連鎖」ではないか

3. 体幹の麻痺側への側屈

見た目: 麻痺側の立脚期に、体幹が麻痺側に大きく傾く(側屈する)。

なぜ起きるのか:

正常歩行では、立脚期に中殿筋が収縮し、骨盤の反対側の落下(トレンデレンブルク現象)を防ぎます。しかし片麻痺では:

  • 中殿筋の弱化・活動低下:骨盤を水平に保てない
  • 代償としての体幹側屈:骨盤の落下を体幹を麻痺側に傾けることで防ごうとする(代償性トレンデレンブルク)

これは一見「体幹の問題」に見えますが、本質は 股関節外転筋(中殿筋)の機能不全 です。この代償動作を「体幹が弱い」と誤認してアプローチすると、本質的な問題を見逃してしまいます。

観察ポイント:

  • 麻痺側立脚期に骨盤が水平を保てるか
  • 非麻痺側骨盤が下がっていないか(トレンデレンブルク徴候)
  • 体幹の側屈が意図的(代償)なのか、不随意的なのか

4. 分回し歩行

見た目: 遊脚期に麻痺側の足を外側に弧を描くように振り出す。

なぜ起きるのか:

通常、遊脚期には膝が屈曲して足先が地面からクリアランスを保ちます。しかし片麻痺では:

  • 膝関節屈曲筋(ハムストリングス)の随意収縮低下:遊脚初期の膝屈曲が不十分
  • 尖足による足先のクリアランス不足:足先が下を向いたまま振り出せない
  • 代償としての分回し:下肢を外方に弧を描くように振り出すことで、足先が地面に引っかかるのを防ぐ

つまり分回し歩行は「膝屈曲不足+足クリアランス不足」に対する 代償動作 であり、分回しそのものが問題の本質ではありません。

観察ポイント:

  • 遊脚初期:麻痺側の膝が十分に屈曲しているか(正常では約60°)
  • 足のクリアランス:地面に引っかかりそうになっていないか
  • 骨盤の引き上げを伴っていないか

動作観察の実践——何を・どこから・どの相で見るか

観察する位置

観察方向確認できること
矢状面(横から)関節の屈伸角度、重心の前後移動、膝過伸展、体幹の前後傾
前額面(正面・背面から)体幹側屈、骨盤の側方傾斜、足部の接地パターン(内外反)

横(矢状面)から見るのが最もわかりやすく、まずはここから観察を始めるとよいでしょう。

各相でのチェックリスト

立脚期:

  • 初期接地:踵から着いているか、足部の向きは?
  • 荷重応答期:膝が軽度屈曲しているか(衝撃吸収できているか)
  • 立脚中期:体幹が麻痺側に過剰に傾いていないか、膝の過伸展は?
  • 立脚後期:踵離地が起きているか、推進力は得られているか

遊脚期:

  • 遊脚初期:膝屈曲は十分か、足先のクリアランスは?
  • 遊脚中期:分回しや骨盤の引き上げが生じていないか
  • 遊脚後期:次の接地に向けて膝が伸展し、足が準備できているか

代償動作と本質的問題の見分け方

片麻痺歩行の動作分析で最も重要なのが、「代償動作(compensatory movement)」と「本質的な問題(primary impairment)」を区別することです。

観察された動作一見「問題」に見える実際の本質的問題
分回し歩行外側への振り出し膝屈曲不足・尖足
体幹麻痺側への側屈体幹筋の弱化中殿筋(股外転筋)の機能不全
骨盤の引き上げ骨盤・体幹の過活動遊脚期の膝屈曲・背屈不足
非麻痺側の大股歩行非麻痺側の過活動麻痺側の立脚期の短縮

代償動作を「悪いもの」として安易に修正しないことが大切です。 代償動作は、患者さんが転倒を防いで歩くための工夫です。本質的な問題点(筋力低下・痙縮・感覚障害など)にアプローチしながら、代償動作が不要になる状態を目指していくことが、段階的なリハビリの考え方です。


ほーりーの臨床メモ

歩行分析は「全体の流れ」を見てから「問題のある相」に焦点を当てるという手順を大切にしています。最初からどこかを細かく見ようとすると、全体の動きの文脈を見逃してしまう可能性があるからです。

分回し歩行を「分回しが問題だ」と判断して分回しをやめさせようとすると、足が引っかかって転倒リスクが上がることがあります。観察された動作が「代償なのか本質的問題なのか」を常に問いながら見ることが、介入の方向性を決めるうえで大切だと感じます。

歩行観察は最初に横(矢状面)から見ることを勧めている。関節の屈伸角度、重心の移動方向、膝の過伸展など、最も情報量が多い方向だからです。慣れてきたら正面・背面を組み合わせて立体的に把握する練習を重ねていくといいと思います。私は新人の頃患者さんの了承を得て歩行動画を撮影させていただきその動画を見ながら先輩に歩行観察・分析を指導していただいていましたが、とてもいい経験だったと今でもありがたく感じています。


まとめ

片麻痺の歩き方には必ず理由がある。歩行周期を理解し、どの相で何が起きているかを読み解く視点が、新人PTを脱・初心者にします。本記事の要点を整理します。

  • 歩行周期の基本:立脚期(60%)と遊脚期(40%)。各相に固有の筋活動と関節運動がある
  • 4大異常パターン:①内反尖足 ②膝過伸展(Back knee) ③体幹側屈(Duchenne) ④分回し歩行(Circumduction)
  • 観察の順序:全体像→骨盤→下肢遠位→上肢の流れ。最初は1相に絞って観察する
  • 代償か本質か:代償は「他関節で補う」、本質は「その関節の筋活動異常」。両者を見分けるには麻痺側下肢への荷重評価が鍵
  • 新人PTの3ステップ:①正常歩行を頭にインストール ②異常パターンを暗記 ③1相観察を反復

歩行分析は「センスの問題」ではなく「順序の問題」。観察の順序を持てば、誰でも見えるようになります。

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よくある質問(FAQ)

Q1:歩行観察はどこから見始めればよいですか?

結論:「全体像→骨盤→足部→上肢」の順序がおすすめです。

最初に歩行全体のリズム・速度・対称性を捉え、次に骨盤の動き(中心)、その後に足部(下肢遠位)、最後に上肢を見ます。最初から足元ばかり見ると全体像を見失います。新人PTは1相(例:初期接地のみ)に絞って繰り返し観察すると、見える解像度が上がります。

Q2:内反尖足と膝過伸展は同時に出ることが多いですが、どちらから介入すべきですか?

結論:原則「足部から」介入します。

内反尖足→踵接地不能→膝伸展で支える→膝過伸展、という流れが多いため、足部の状態が根本原因の場合が多いです。AFO(短下肢装具)で足関節を中間位に保持すると、膝過伸展が自然に改善することもあります。ただし患者さんによって優先順位は変わるので、評価所見次第です。

Q3:分回し歩行は治すべきですか、それとも残すべきですか?

結論:目的によります。回復期は改善を目指し、生活期では実用性を優先することもあります。

回復期で麻痺改善の可能性がある場合は「股関節屈曲・膝屈曲」の動作練習で正常パターン獲得を目指します。一方、慢性期で機能改善が頭打ちの場合、分回し歩行は実用的な代償戦略として活用する判断もあります。「治す/残す」ではなく「目的に応じて選ぶ」が重要です。

Q4:歩行分析を学ぶおすすめの順序は?

結論:「正常歩行→片麻痺の代表的4パターン→1相観察」の3ステップです。

正常歩行を頭に完全インストールすることが第一歩。Periyの『歩行分析』『観察による歩行分析』などの教科書で正常パターンを学び、次に片麻痺の代表パターン(内反尖足・膝過伸展・体幹側屈・分回し歩行)を暗記。最後に臨床で「1相だけ観察」を反復すれば、自然と見える視野が広がります。

免責事項

本記事の内容は、筆者個人の経験・知識および参考文献に基づく情報提供を目的としており、個別の医療・リハビリテーションに関するアドバイスではありません。症状や治療方針については、必ず担当の医師・理学療法士などの専門家にご相談ください。本記事の情報を利用したことによって生じたいかなる損害についても、筆者は責任を負いかねます。

参考文献

  1. Perry J, Burnfield JM. Gait Analysis: Normal and Pathological Function. 2nd ed. SLACK Incorporated; 2010.
  2. Knutsson E, Richards C. Different types of disturbed motor control in gait of hemiparetic patients. Brain. 1979;102(2):405–430. doi:10.1093/brain/102.2.405
  3. Olney SJ, Richards C. Hemiparetic gait following stroke. Part I: Characteristics. Gait & Posture. 1996;4(2):136–148. doi:10.1016/0966-6362(96)01063-6
  4. 日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会.脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2023〕.協和企画;2023.
  5. 日本理学療法学会連合.理学療法ガイドライン第2版.2021.
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ほーりー
脳卒中認定理学療法士/臨床13年目/総合病院勤務(回復期・地域包括・緩和ケア病棟)で累計500例以上の脳卒中患者のリハビリを担当。院内では新人PT教育・勉強会講師を継続。日本神経理学療法学会所属。新人PT・若手PTと患者様・ご家族に「現場の知見」をわかりやすく発信しています。