TCT・TIS・FACTの使い分け|脳卒中の体幹評価カットオフ値と予後予測

体幹評価は目的で選びます。基本動作を短時間でみるならTCT、座位での動きや協調性を詳しくみるならTIS-V、臥位の項目も含めてみるならTIS-F、座位での課題を短時間で整理するならFACTが候補です。得点範囲とカットオフの早見表から確認できます。
次に調べたい内容:立位・歩行中のバランス評価 / 歩行速度・持久力の評価 / 歩行自立の予後予測
はじめに
「体幹機能評価、何を選べばいいかわからない…」
TCT(Trunk Control Test)、TIS-V(Verheyden版 Trunk Impairment Scale)、TIS-F(Fujiwara版 Trunk Impairment Scale)、FACT(Functional Assessment for Control of Trunk)。脳卒中患者の体幹機能を評価するツールは複数ありますが、どれを選ぶべきか、スコアをどう解釈して臨床に活かすか、悩む新人PTや若手PTは多いのではないでしょうか。
この記事では、代表的な4つの体幹機能評価ツールの特徴・採点方法・使い分けを整理します。そして2026年にArchives of Physical Medicine and Rehabilitationに掲載されたTagamiらの研究(Tagami et al., 2026)をもとに、「体幹機能の4因子モデル」という新しい視点から、各評価スコアを個別化リハビリ計画にどう活かすかを解説します。
結論早見表|TCT・TIS・FACTのカットオフ値と使い分け
お急ぎの方のために、まず結論だけを1つの表にまとめます。それぞれの数値の出典と詳しい解説は、この記事の後半で掘り下げます。
| 評価 | 得点範囲 | 主な使いどころ | 押さえておきたい数値 |
|---|---|---|---|
| TCT | 0〜100点 | 急性期〜回復期の予後予測 | 発症6週の50点以上が18週までの歩行回復と関連(Collin & Wade, 1990)。歩行自立を単独で決める基準ではない |
| TIS-V | 0〜23点 | 回復期中期以降の変化の検出 | MCID:急性期3.5点/慢性期は患者2.5点・セラピスト1.5点。亜急性期・歩行要介助例のMICは2.5点 |
| TIS-F | 0〜21点 | 急性期〜回復期(臥位からでも測れる) | MCID:急性期3点(Ishiwatariら,2023)。TIS-Vの数値と混同しない |
| FACT | 0〜20点 | 座位での体幹機能を短時間で把握 | 亜急性期の横断研究:9点でFAC 3以上を識別(見守り歩行を含む)。急性期MCIDは4点の報告あり |
迷ったときの3行の結論
- まずTCTから——4項目で最も速く測れて、歩行予後(TWISTアルゴリズム)に直結します
- 変化を追うならTIS——使用した版・病期・対象者を合わせて、MCIDやMICの報告値を参照します
- 座位で短時間に評価するならFACT——亜急性期の研究では平均約213秒。実施時間は患者さんの状態によって変わります
なお、「カットオフ」「MDC」「MCID」は別のものです。カットオフは「ある状態かどうかを分ける線」、MDC(最小可検変化量)は「測定誤差を超えたといえる変化」、MCID(最小臨床的重要差)は「臨床的に意味のある変化の目安」を指します。混同すると解釈を誤るため、時期別MDC・MCID・カットオフ早見表で病期ごとの数値を確認してください。
1. なぜ体幹機能評価が重要なのか
脳卒中後の患者さんでは、リハビリ施設に入院した脳卒中患者577名のうち、96.4%に体幹機能障害があったと報告されています(TISで評価、Kong & Ratha Krishnan, 2021)。体幹は脊柱を支え、静的・動的活動における重心移動の制御の中心となる部位であり、その障害は歩行・ADL(日常生活動作)・QOL全体に深刻な影響をもたらします。
具体的には、体幹機能の低下は歩行自立度の低下・退院先の変化と関連します。初期のTIS(Verheyden版)は発症4週時点のADL(K-MBI)や歩行能力(FAC)と相関したと報告されています(ただし6か月時点では、歩行できる群で関係が保たれませんでした。Kim et al., 2015)。体幹機能評価は退院時ADLや歩行自立を見通すためのリハビリ計画の根拠となります。
また、TCT(Trunk Control Test)は「Time to Walking Independently after Stroke(TWIST)アルゴリズム」の主要構成要素であり(Smith et al., 2017)、歩行自立までの日数予測に活用されています。
体幹機能評価は「今の状態の把握」にとどまらず、「今後の回復を予測し、適切なリハビリ目標を設定する」ための重要なツールなのです。
2. 代表的な4つの体幹機能評価ツール
現在、脳卒中リハビリの臨床でよく使われる体幹機能評価ツールは主に4つあります。それぞれの特徴を詳しく見ていきましょう。
① TCT(Trunk Control Test)
TCTは、Collin & Wade(1990)によって開発された体幹機能評価です。もともと脳卒中後の運動機能評価として開発され、現在も急性期から回復期にわたり広く使用されています。
■ 評価項目(全4項目)
- 麻痺側への寝返り(Turning to paralyzed side)
- 非麻痺側への寝返り(Turning to nonparalyzed side)
- 起き上がり動作(Getting up movements)
- 座位保持(Holding a sitting position)
■ 採点方法
各項目:0点(実施不可)・12点(代償動作あり)・25点(正常)の3段階。合計点0〜100点(高いほど良好)。
■ 臨床での特徴とポイント
評価項目が4つと少なく、ベッドサイドで短時間に実施できるのが最大のメリットです。歩行回復の予測力が高く、TWISTアルゴリズムの核心指標として機能します。急性期から回復期まで幅広く使用でき、特に「歩行自立の見通しを立てたい」場面で有用です。
一方で、評価項目が粗いため、体幹の細かな動的バランス能力や協調性は評価できません。後述する4因子モデルでは「基本動作(Factor 4)」に対応します。
② TIS-V(Trunk Impairment Scale of Verheyden)
TIS-Vは、Verheydenら(2004)によって開発された体幹機能評価スケールです。座位バランスに焦点を当てており、脳卒中領域で最も妥当性・信頼性が確立されたツールの一つです。
■ 評価項目(全17項目・3つのサブスケール)
- 静的座位バランス(Static sitting balance):3項目 最高7点
- 動的座位バランス(Dynamic sitting balance):10項目 最高10点
- 協調性(Coordination):4項目 最高6点
合計:0〜23点(高いほど良好)
■ 開始肢位と採点ルール
ベッドまたは治療台の端に座り、背もたれと肘掛けは使いません。大腿は台に接した状態で、膝関節90°、足底を床につけ、両上肢は大腿の上に置き、頭部・体幹は正中位から始めます。この開始肢位が崩れていると点数が変わってしまうため、毎回同じ条件をつくることが再現性の鍵になります。
- 各項目は3回まで試行可能。最も高い点数を採用します
- 試行の合間に修正を伝えるのは可ですが、事前の練習は認められません
- 最初の項目(静的座位保持)が0点なら、TIS合計は自動的に0点になります
- 所要時間は原著で2〜18分
■ 3つのサブスケールで実際に何を見ているか
静的座位バランス(3項目・7点)
①足底を床につけた座位の保持 → ②検者が下肢を他動的に組ませた状態での保持 → ③患者さん自身が能動的に下肢を組んだ状態での保持、と進みます。外乱を加えるのではなく支持基底面を段階的に狭くしていくことで難易度を上げるのが、この項目の設計思想です。
動的座位バランス(10項目・10点)
体幹の側屈と、片側の殿部を持ち上げる動作が中心です。麻痺側・非麻痺側の両方向を評価するため、左右差がそのまま点数に表れるのが特徴。代償を使わずに分離した動きができているかを見ます。
協調性(4項目・6点)
上部体幹(肩甲帯)を起点にした回旋と、下部体幹(骨盤帯)を起点にした回旋を、それぞれ6回行わせます。各項目は2〜4段階の順序尺度で採点します。「体幹を分離して回せるか」を直接見る唯一の項目群で、TIS-Vが他ツールと最も差別化される部分です。
■ 信頼性は極めて高い
再検査信頼性 ICC 0.96、検者間信頼性 ICC 0.99 と、いずれも非常に高い水準が報告されています。手順どおりに実施すれば検者が変わっても値がぶれにくい、という点はTIS-Vを選ぶ大きな理由になります。
■ 臨床での特徴とポイント
4つの評価ツールの中で最も網羅的に座位バランスを評価できます。特に「動的座位バランス」と「協調性(体幹と上下肢の協調した動き)」を細かく評価できる点が特徴です。
後述する4因子モデルでは「動的座位バランス(Factor 1・Factor 2)」に対応する項目を最も多く含み、回復期以降の患者さんや座位での動的バランスを詳しく評価したい場面に適しています。
③ TIS-F(Trunk Impairment Scale of Fujiwara)
TIS-Fは、Fujiwaraら(2004)によって開発された体幹機能評価スケールです。TIS-Vとは異なり、臥位(仰向け)での評価項目を含み、急性期早期の患者さんに特に適しています。
■ 評価項目(全7項目)
- 体幹垂直性の知覚(Perception of trunk verticality)
- 麻痺側・非麻痺側の体幹回旋筋力(Trunk rotation muscle strength)
- 麻痺側・非麻痺側の立ち直り反射(Righting reflex)
- 脳卒中障害評価セット:垂直性・腹筋力(Stroke impairment assessment set)
得点範囲:0〜21点(高いほど良好)
■ 臨床での特徴とポイント
臥位での評価項目を含むため、座位保持が困難な急性期早期の患者さんでも実施できます。急性期102名の研究では、発症48時間以内のTIS-Fが12点以上だと退院時の歩行自立を予測できました(AUC 0.911・感度81.4%・特異度79.7%、Ishiwatari et al., 2022)。発症直後から退院時の歩行を見通したい場面で役立ちます。後述する4因子モデルでは「静的座位(Factor 3)」に対応する項目を含みます。
④ FACT(Functional Assessment for Control of Trunk)
FACTは、奥田ら(Okuda et al., 2006)によって開発された体幹機能評価スケールです。10項目20点満点で構成され、治療指向的な体幹機能検査として設計されています。
■ 評価項目(全10項目)
- 静的座位バランス(Static sitting balance):2項目
- 動的座位バランス(Dynamic sitting balance):8項目
得点範囲:0〜20点(高いほど良好)。検査に要する時間は約5分と短く(奥田ら,2006)、臨床で使いやすいのが特徴です。
■ 開始肢位と10項目の内訳
高さ40〜45cmのベッド端に座り、足底を接地させ、膝関節90°で開始します。各項目は3回まで試行し、最良のパフォーマンスを採点します。10項目の内訳と配点は次のとおりです。
| 項目 | 内容 | 配点 |
|---|---|---|
| 1〜2 | 座位保持(上肢支持あり/なし) | 各0〜1点 |
| 3 | 体幹を回旋し反対側の足首に触れる | 0〜1点 |
| 4 | 体幹前傾+側方への重心移動 | 0点または2点 |
| 5 | 片側殿部の挙上(左右を確認) | 0・1・2点 |
| 6 | 片側大腿の挙上(左右を確認) | 0・1・2点 |
| 7 | 両側大腿の挙上 | 0点または2点 |
| 8 | 前後への殿部歩行 | 0点または3点 |
| 9 | 肩越しに提示された指の数の認識 | 0点または3点 |
| 10 | 片側の肩関節屈曲 | 0点または3点 |
項目1〜2は静的、項目3〜10は動的な体幹課題です。配点は項目によって異なるため、合計点に加えて、どの課題ができたかを記録します。詳細な実施・採点条件は原著の評価表に従ってください。
■ FACT 9点のカットオフは何を示す?
亜急性期の脳卒中患者73名を対象とした多施設横断研究(Okudaら,2023)では、FAC 3以上を識別するカットオフ値が9点でした(AUC 0.809、感度92.3%、特異度64.7%)。FAC 3は見守り・口頭指示を要する歩行を含むため、完全な歩行自立と同じ意味ではありません。平均所要時間は212.6秒でした。
これは評価時点の歩行状態との関連を調べた結果で、将来の歩行自立を保証・否定する値ではありません。9点未満でも歩行練習の対象外にはせず、9点以上でも病棟内の自立を許可する根拠にはしません。実際の介助量、注意・認知機能、環境を含めて判断します。
また、高齢脳卒中患者105名(平均80.2歳)を対象とした研究では、入院時のFACTがその後のFIM利得・FIM効率を有意に予測したと報告されています(Satoら,2021)。入棟時に測っておくと、伸びしろの見通しを立てる材料になります。
■ 臨床での特徴とポイント
脳卒中患者の歩行自立との関連が報告されており(Sato & Ogawa, 2025)、歩行訓練の見通しを立てる指標としても活用できます。後述する4因子モデルでは「静的座位(Factor 3)」および「動的座位・低難度(Factor 1)」の一部に対応します。
3. 4つの評価ツールの比較一覧
4つのツールの主な違いを以下の表にまとめます。
| 比較項目 | TCT | TIS-V | TIS-F | FACT |
|---|---|---|---|---|
| 項目数 | 4項目 | 17項目 | 7項目 | 10項目 |
| 得点範囲 | 0〜100点 | 0〜23点 | 0〜21点 | 0〜20点 |
| 評価姿勢 | 臥位・座位 | 座位 | 臥位・座位 | 座位 |
| 適した病期 | 急性期〜回復期 | 回復期(中期以降) | 急性期〜回復期 | 回復期早期以降 |
| 予後予測 | 歩行予後(TWIST) | ADL・歩行予後 | ADL予後 | 歩行自立 |
| 4因子モデルとの対応 | Factor 4(基本動作) | Factor 1・2(動的座位) | Factor 3(静的座位) | Factor 3・1(静的・動的座位) |
4. どのツールを使えばいい?場面別の選び方
「どのツールを使うべきか」は、①患者さんの病期、②何を評価・予測したいか、によって異なります。
急性期(発症から数日以内)
座位保持が困難または不安定な段階では、臥位での評価が可能なTIS-FとTCTを組み合わせるのが基本です。
- TIS-F:臥位の評価項目を含み、急性期から使える。ADL予後の大まかな見通しを立てられる
- TCT:臥位〜座位の移行動作も含む。歩行予後の早期スクリーニングに有用
回復期早期(座位が可能になった段階)
座位が安定してきたら、FACTとTCTを組み合わせてリハビリの進捗を追跡しながら、必要に応じてTIS-Vで動的バランスを細かく評価します。
- FACT:回復期早期向け。歩行自立予測と体幹機能の変化追跡に使いやすい
- TCT:TWISTアルゴリズムで歩行自立までの日数を予測するのに活用
回復期中期以降
歩行訓練が進んでいる患者さんで、体幹の動的バランスや協調性を詳しく評価したい場合はTIS-Vが最適です。
- TIS-V:17項目で座位バランスを網羅的に評価。体幹と上下肢の協調性(体幹回旋)も評価可能
- 各サブスケール(静的・動的・協調性)を個別に分析することで、介入ポイントを特定できる
★ 時期別MDC・MCID・カットオフ早見表(2026年最新)
2023〜2025年に体幹機能評価のエビデンスが大きく前進しました。病期別の精密な数値を整理します。歩行編・運動機能編と同じく、「いつの研究で・どんな患者で導かれたか」を踏まえて使い分けることが重要です。
TIS(Trunk Impairment Scale)の時期別MCID
| 病期 | MCID | 文献 |
|---|---|---|
| 急性期・TIS-F(Fujiwara版) | MCID 3点(AUC 0.71) | Ishiwatariら,2023:55名、入院7日目から退院前日、ADL改善を基準 |
| 亜急性期・TIS-V(Verheyden版)、FAC 3以下 | MIC 2.5点(95% CI: 0.5–4.0) | Yamamotoら,2025:32名、約1か月、BBS 5点以上の改善を基準 |
| 急性期・慢性期のTIS-V | 下表参照 | Monticoneら,2019:患者・セラピストの変化の評価を基準 |
TIS-Fの3点とTIS-Vの2.5点は、別の尺度・対象・基準で得られた値です。MCID・MICは臨床的な変化を解釈する目安であり、測定誤差を超えたことや個人の改善を確実に証明する値ではありません。同じ版・手順で再評価し、ADLや動作の変化も合わせて確認します。
さらに、Monticone ら(2019, Disabil Rehabil)は、TIS-V開発者の Verheyden を共著者に迎えた研究で、急性期125名・慢性期116名の脳卒中患者を対象に、最小臨床有意差(MCID)を病期別 × 評価者視点別に検証しました。
| 病期 | 患者視点MCID | セラピスト視点MCID |
|---|---|---|
| 急性期(n=125) | 3.5点 | 3.5点 |
| 慢性期(n=116) | 2.5点 | 1.5点 |
臨床的示唆:
- 急性期では、患者・セラピストどちらの視点でも3.5点の改善が「意味のある変化」と一致しています。
- 慢性期では、患者は2.5点で「変化を感じる」一方、セラピストは1.5点でも「変化を捉えている」——セラピストの方が、慢性期の小さな改善を察知している可能性があります。
- これは、リハビリ介入の効果判定や、患者へのフィードバック設計にも示唆を与えます。
TCT(Trunk Control Test)の予後予測カットオフ
- 発症6週時点のTCT:18週までの歩行回復との関係が検討されています(Collin & Wade, 1990)
- 発症6週時点 TCT ≥ 50点:同研究で18週までの歩行回復を予測。測定時点と予測先の時点を区別します
- 入院時TCT:28名の研究で在院日数の分散の52%、退院時FIMの分散の54%を説明(Duarteら,2002)
- 入院時TCT + 入院時FIM の複合変数:同研究で在院日数の分散の60%、退院時FIMの分散の66%を説明。個人の予測的中率ではありません
TCTを予後予測に使う際は、測定した病期と予測対象を原著に合わせることが大切です。合計点だけで歩行自立を判断せず、下肢機能や実際の歩行能力も組み合わせます。
さらに、体幹機能そのものが運動麻痺の回復を予測するという報告もあります。澤島ら(2022)は、重度の下肢運動麻痺をきたした被殻出血42例を対象に、回復期病棟の入棟時から退棟時までのSIAS下肢運動スコアの改善に関わる因子を検討しました。
| 因子 | 改善度との相関(rs) |
|---|---|
| SIAS体幹垂直性(座位能力) | 0.67(p<0.01) |
| 皮質脊髄路走行領域の損傷度 | −0.44(p<0.01) |
| 年齢 | −0.41(p<0.01) |
| 血腫量(mL) | 0.01(p=0.99) |
最も強く改善度と相関したのは「座れるかどうか」=SIAS体幹垂直性(rs=0.67)でした。一方で血腫量はほぼ無相関(rs=0.01)です。ステップワイズ重回帰でも体幹垂直性・皮質脊髄路の損傷度・年齢の3因子が選択され、血腫量は選ばれませんでした。
つまり「どれだけ出血したか」よりも「座れるか」のほうが、運動麻痺の回復をよく説明したということです。体幹評価は座位能力を測るだけの評価ではなく、運動予後を読むための材料にもなります。
ただしこれは重度の下肢麻痺を呈した被殻出血例に限った42例の結果です。軽症例を含めた集団では血腫量が予後に影響する可能性もあるため、そのまま一般化はできない点にご注意ください。
被殻出血の症状や評価のポイントは「被殻出血とは?症状・評価項目・リハビリの重点」にまとめています。
FACT(Functional Assessment for Control of Trunk)の信頼性・予測力
- 検者間信頼性:ICC(2,1) = 0.96(奥田ら,2006)
- 内的整合性:Cronbach’s α = 0.81
- 項目別κ係数:0.62〜1.0
- TISとの相関:r = 0.896(強い)
- SIAS体幹項目との相関:r = 0.453〜0.594
- 測定時間:約212秒(TIS の372秒より大幅に短い)
- 予後との関連:入院時FACTとFIM利得の関連はSatoら(2021)、評価時点の歩行との関連はOkudaら(2023)の横断研究。予測研究と横断研究を区別します
FACTは「ベッドサイドで5分以内に実施できる、日本生まれの体幹機能評価」として、急性期病棟で特に強みを発揮します。急性期30名を対象とした菅らの研究では、入院7日目から最終介入日までのADL改善を基準にMCID 4点が報告されています(原著)。他の病期・重症度へそのまま適用せず、対象条件を確認してください。
体幹評価のよくある誤用パターン
- ❌ TIS-V版とTIS-F版を混同:得点範囲もMCID・MICの研究も異なる。文献の引用版を必ず確認
- ❌ 急性期TIS-FのMCID 3点を他の版・病期へ流用:TIS-Vの慢性期データとは分けて扱う
- ❌ TCT 50点を「歩行可能の基準」と単独で使用:発症6週の値と18週までの歩行回復の関係であり、すべての病期に適用しない
- ❌ FACT 単独で予後判断:TCTやSIAS体幹項目と組み合わせて使うのが推奨
- ❌ 姿勢制御の質を点数で見落とす:数値の前に「どの姿勢で・どのような代償で」できているかの観察が重要
病期 × 目的で選ぶマトリクス
| 目的\病期 | 急性期 | 亜急性期 | 慢性期 |
|---|---|---|---|
| 初期重症度評価 | TCT+FACT | TIS | TIS |
| 効果判定 | TIS-F(MCID 3点) | TIS-V(MIC 2.5点:FAC 3以下) | TIS-V(MCIDは上表参照) |
| 予後予測 | TCT:予測モデルの測定時期に合わせる | FACT+TIS | — |
| 短時間スクリーニング | FACT(5分以内) | FACT | FACT |
| 動的バランス精査 | — | TIS(動的項目) | TIS(動的項目) |
📌 体幹評価は他の評価指標と組み合わせることで真価を発揮します。歩行能力との関係は「10mWT・TUG・6MWTの使い分け|時期別MDC・MCIDと転倒/予後カットオフ早見ガイド」、運動機能との関係は「FMA・SIAS・SARAの使い分け|時期別MDC・MCIDと運動機能評価の解釈ガイド」をあわせてご参照ください。
5. 体幹機能の4因子モデル(Tagamiら,2026年の最新研究)
ここからは、体幹機能評価のスコアを臨床により活かすための新しい視点を紹介します。
研究の概要
2026年、TagamiらはArchives of Physical Medicine and Rehabilitationに掲載された研究において、脳卒中早期(発症後平均1.2日)の200名の患者(脳梗塞162名・脳出血38名、平均年齢75.9歳)を対象に、TCT・TIS-V・TIS-F・FACTの4種類の評価ツール(計38項目)を同時に実施しました。
探索的因子分析(EFA)とラッシュ(Rasch)分析を組み合わせることで、これらの評価ツールの項目に共通する因子構造を明らかにしました(Tagami et al., 2026)。
4つの因子の内容
分析の結果、脳卒中後の体幹機能には4つの因子が存在することが明らかになりました。
| 因子 | 名称 | 主な対応ツール | どんな動作・能力を測るか |
|---|---|---|---|
| Factor 4(最も易しい) | 基本動作(Basic movement) | TCT | 麻痺側・非麻痺側の両肢を用いる寝返りや起き上がりなどの基本的な姿勢変換動作 |
| Factor 3 | 静的座位(Static sitting) | FACT(静的) TIS-F | 体幹アライメントの保持・骨盤前傾の促進など、静的な座位姿勢の維持に関わる能力 |
| Factor 1 | 動的座位・低難度(Dynamic sitting, less challenging) | TIS-V(動的・協調性) FACT(動的一部) | 支持基底面内での前方リーチと前方骨盤傾斜の協調など、比較的難易度が低い動的座位バランス |
| Factor 2(最も難しい) | 動的座位・高難度(Dynamic sitting, more challenging) | TIS-V(高難度動的・協調性) | 支持基底面を超えたリーチ・体幹回旋・反応的バランスなど、高度な協調性と動的制御を要する座位バランス |
体幹課題の難易度と階層構造
この4因子モデルの重要な点は、4つの因子が「難易度に基づく階層的な構造」を持つことです。ラッシュ分析で課題の難易度が検討され、以下の階層が示されています(Tagami et al., 2026)。個々の患者さんが必ずこの順番で回復することを示すものではありません。
基本動作(Factor 4)→ 静的座位(Factor 3)→ 動的座位・低難度(Factor 1)→ 動的座位・高難度(Factor 2)
この研究は1週間の追跡を含む単施設の観察研究です。課題を整理する枠組みとして参考になりますが、この順に練習すれば回復するという介入効果を検証した試験ではありません。
6. スコアの臨床的解釈と治療への活かし方
4因子モデルを踏まえると、各評価ツールのスコアを「患者さんは体幹機能回復のどの段階にいるのか」という視点で解釈できます。
評価プロファイルの読み取り方
複数の評価ツールを組み合わせることで、患者さんの「体幹機能プロファイル」を4つの因子の観点から把握できます。以下は解釈の例です。
- TCTが低い(0〜50点程度)→ Factor 4(基本動作)が未達成。寝返り・起き上がりの介助量軽減とリハビリを優先する(動作の見方は「片麻痺患者の寝返り動作分析」「片麻痺患者の起き上がり動作」で解説しています)
- TCTは良好だがFACTの静的座位スコアが低い → Factor 3(静的座位)が課題。座位アライメントの保持や骨盤前傾の練習を重点的に行う
- FACTは改善しているがTIS-V動的バランスが低い → Factor 1(動的座位・低難度)が課題。支持基底面内でのリーチや重心移動の練習を追加する
- TIS-V動的バランスは達成できているが協調性スコアが低い → Factor 2(動的座位・高難度)が課題。体幹回旋や支持基底面を超えたリーチなどの高難度練習へ進む
治療の効率化と個別化
4因子モデルは、できる課題と難しい課題を整理するための補助になります。静的座位が可能でも、低難度の動的課題ができるとは限りません。各課題の達成状況と安全性を確認したうえで、練習の難易度を調整します。
このように、複数の評価ツールを「どの因子が達成されていて、どの因子が課題か」という視点で分析することで、根拠のある個別化リハビリテーション計画の立案が可能になります。
❓ よくある質問
Q1. TISとTCT、どちらを使えばいいですか?
結論:目的が違うので、時期と用途で選びます。
TCTは4項目・数分で終わり、寝返りや起き上がりを含むためベッドサイドで動けるかどうかを素早く把握したい急性期に向いています。歩行予後の予測力が高いのも強みです。
一方TIS-Vは17項目・原著で2〜18分とやや時間がかかりますが、座位での動的バランスと協調性まで細かく追えるため、回復期以降で「どこが弱いから座位が不安定なのか」を掘り下げたい場面に適しています。
迷ったときは「スクリーニングならTCT、治療方針を立てるならTIS-V」と考えると整理しやすいです。
Q2. TIS-VとTIS-Fは何が違うのですか?
名前は同じ「TIS」でも別のツールです。ここは混同されやすいので注意してください。
TIS-V(Verheyden版)は全17項目・0〜23点で、すべて座位で評価します。TIS-F(Fujiwara版)は全7項目・0〜21点で、臥位の項目を含むのが最大の違いです。
そのため、座位保持がまだ難しい急性期早期の患者さんにはTIS-F、座位が取れるようになってからの詳細評価にはTIS-V、という使い分けになります。論文を読むときも、どちらのTISなのかを必ず確認してください。
Q3. FACT 9点で歩行自立と判断できますか?
亜急性期の横断研究で報告された9点は、FAC 3以上(見守り歩行を含む)を識別する目安です(Okudaら,2023)。
9点以上でも完全な歩行自立を意味せず、9点未満でも将来の歩行自立を否定できません。点数にかかわらず、実際の歩行介助量や安全性を評価します。
Q4. 再評価はどのくらいの間隔で行うべきですか?
明確な推奨間隔を定めたガイドラインはありませんが、実務上は週1回程度が現実的です。
大切なのは間隔そのものより、MDC(測定誤差)を超えた変化かどうかで判断することです。数日おきに測っても、誤差の範囲で上下しているだけなら意味のある変化とは言えません。本記事の早見表にある時期別のMDC・MCIDと照らし合わせてください。
Q5. 点数が変わらないとき、何を見ればいいですか?
合計点ではなくサブスケールと項目の中身を見てください。
たとえばTIS-Vで合計点が同じでも、静的座位が伸びて動的座位が落ちているケースと、その逆のケースでは意味がまったく違います。合計点は複数の能力を足し込んだ数字なので、変化が相殺されて見えなくなることがあるのです。
また、点数に表れない質的な変化(代償の減少、動作の滑らかさ、疲労の出にくさ)も観察してください。数字が動く前段階として、こうした変化が先に現れることはよくあります。
ほーりーの臨床メモ
体幹機能は「姿勢の土台」であり、上下肢の動作の質に直接影響する。しかし「体幹が弱い」という曖昧な表現で問題を片付けてしまうと、具体的な介入の立案が難しくなります。
TISなどの信頼性の高い評価ツールを使うことで、変化を数値で捉えられる。「今日の体幹はどうか」という感覚頼りから脱することが、客観的なリハビリ計画につながります。
体幹機能のどの要素(静的座位バランス・動的バランス・協調性)が低下しているかを分けて評価することで、介入の焦点が明確になります。「体幹トレーニング」と一括にせず、目的を明確にした練習を選択することを意識しています。
7. まとめ
脳卒中後の体幹機能評価について、押さえておくべき重要なポイントを整理します。
- TCT:シンプルで短時間。歩行予後予測(TWISTアルゴリズム)に特に有用。急性期〜回復期で幅広く使用できる
- TIS-V:座位バランスを網羅的に評価。動的バランスと協調性の詳細評価に優れる。回復期中期以降に特に有用
- TIS-F:臥位の評価項目を含み、急性期から使える。ADL予後の早期予測に有用
- FACT:奥田ら(2006)開発。回復期早期向けで扱いやすい。歩行自立との関連が報告されており、リハビリの進捗追跡に適する
- 4因子モデル(Tagami et al., 2026):体幹機能は「基本動作→静的座位→動的座位(低難度)→動的座位(高難度)」という課題難易度の階層を参考にできる。固定的な回復順序とみなさず、各課題を個別に確認する
まずはTCTとFACTを急性期・回復期早期の基本セットとして使いながら、評価の目的や病期に応じてTIS-VやTIS-Fを組み合わせることから始めてみましょう。そして各スコアを4因子モデルの観点で読み解くことで、より精度の高い個別化リハビリテーションの実践につなげてください。
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免責事項
本記事は、理学療法士・作業療法士等の医療専門職向けの教育・情報提供を目的としたものです。記事の内容は執筆時点の情報に基づいており、最新の研究・ガイドラインによって変更される可能性があります。個々の患者さんへの評価・介入の判断は、担当の医師・リハビリテーション専門職が患者さんの状態を直接評価したうえで行ってください。本記事の内容を直接の根拠として臨床判断を行うことはお控えください。
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