TIS・TCT・FACT、どう使い分ける?脳卒中の体幹機能評価カットオフ早見ガイド

はじめに
「体幹機能評価、何を選べばいいかわからない…」
TCT(Trunk Control Test)、TIS-V(Verheyden版 Trunk Impairment Scale)、TIS-F(Fujiwara版 Trunk Impairment Scale)、FACT(Functional Assessment for Control of Trunk)。脳卒中患者の体幹機能を評価するツールは複数ありますが、どれを選ぶべきか、スコアをどう解釈して臨床に活かすか、悩む新人PTや若手PTは多いのではないでしょうか。
この記事では、代表的な4つの体幹機能評価ツールの特徴・採点方法・使い分けを整理します。そして2026年にArchives of Physical Medicine and Rehabilitationに掲載されたTagamiらの研究(Tagami et al., 2026)をもとに、「体幹機能の4因子モデル」という新しい視点から、各評価スコアを個別化リハビリ計画にどう活かすかを解説します。
1. なぜ体幹機能評価が重要なのか
脳卒中後の患者さんでは、座位バランスと体幹コントロールの障害が最大96.4%に及ぶと報告されています(Kong & Ratha Krishnan, 2021)。体幹は脊柱を支え、静的・動的活動における重心移動の制御の中心となる部位であり、その障害は歩行・ADL(日常生活動作)・QOL全体に深刻な影響をもたらします。
具体的には、体幹機能の低下は歩行自立度の低下・退院先の変化と関連します。TIS(Trunk Impairment Scale)のスコアは、発症後4週時点および6か月時点のADL予後を予測する指標として報告されており(Kim et al., 2015)、体幹機能評価は退院時ADLや歩行自立を見通すためのリハビリ計画の根拠となります。
また、TCT(Trunk Control Test)は「Time to Walking Independently after Stroke(TWIST)アルゴリズム」の主要構成要素であり(Smith et al., 2017)、歩行自立までの日数予測に活用されています。
体幹機能評価は「今の状態の把握」にとどまらず、「今後の回復を予測し、適切なリハビリ目標を設定する」ための重要なツールなのです。
2. 代表的な4つの体幹機能評価ツール
現在、脳卒中リハビリの臨床でよく使われる体幹機能評価ツールは主に4つあります。それぞれの特徴を詳しく見ていきましょう。
① TCT(Trunk Control Test)
TCTは、Collin & Wade(1990)によって開発された体幹機能評価です。もともと脳卒中後の運動機能評価として開発され、現在も急性期から回復期にわたり広く使用されています。
■ 評価項目(全4項目)
- 麻痺側への寝返り(Turning to paralyzed side)
- 非麻痺側への寝返り(Turning to nonparalyzed side)
- 起き上がり動作(Getting up movements)
- 座位保持(Holding a sitting position)
■ 採点方法
各項目:0点(実施不可)・12点(代償動作あり)・25点(正常)の3段階。合計点0〜100点(高いほど良好)。
■ 臨床での特徴とポイント
評価項目が4つと少なく、ベッドサイドで短時間に実施できるのが最大のメリットです。歩行回復の予測力が高く、TWISTアルゴリズムの核心指標として機能します。急性期から回復期まで幅広く使用でき、特に「歩行自立の見通しを立てたい」場面で有用です。
一方で、評価項目が粗いため、体幹の細かな動的バランス能力や協調性は評価できません。後述する4因子モデルでは「基本動作(Factor 4)」に対応します。
② TIS-V(Trunk Impairment Scale of Verheyden)
TIS-Vは、Verheydenら(2004)によって開発された体幹機能評価スケールです。座位バランスに焦点を当てており、脳卒中領域で最も妥当性・信頼性が確立されたツールの一つです。
■ 評価項目(全17項目・3つのサブスケール)
- 静的座位バランス(Static sitting balance):3項目 最高7点
- 動的座位バランス(Dynamic sitting balance):10項目 最高10点
- 協調性(Coordination):4項目 最高6点
合計:0〜23点(高いほど良好)
■ 開始肢位と採点ルール
ベッドまたは治療台の端に座り、背もたれと肘掛けは使いません。大腿は台に接した状態で、膝関節90°、足底を床につけ、両上肢は大腿の上に置き、頭部・体幹は正中位から始めます。この開始肢位が崩れていると点数が変わってしまうため、毎回同じ条件をつくることが再現性の鍵になります。
- 各項目は3回まで試行可能。最も高い点数を採用します
- 試行の合間に修正を伝えるのは可ですが、事前の練習は認められません
- 最初の項目(静的座位保持)が0点なら、TIS合計は自動的に0点になります
- 所要時間の目安は20分以内
■ 3つのサブスケールで実際に何を見ているか
静的座位バランス(3項目・7点)
①足底を床につけた座位の保持 → ②検者が下肢を他動的に組ませた状態での保持 → ③患者さん自身が能動的に下肢を組んだ状態での保持、と進みます。外乱を加えるのではなく支持基底面を段階的に狭くしていくことで難易度を上げるのが、この項目の設計思想です。
動的座位バランス(10項目・10点)
体幹の側屈と、片側の殿部を持ち上げる動作が中心です。麻痺側・非麻痺側の両方向を評価するため、左右差がそのまま点数に表れるのが特徴。代償を使わずに分離した動きができているかを見ます。
協調性(4項目・6点)
上部体幹(肩甲帯)を起点にした回旋と、下部体幹(骨盤帯)を起点にした回旋を、それぞれ6回行わせます。各項目は2〜4段階の順序尺度で採点します。「体幹を分離して回せるか」を直接見る唯一の項目群で、TIS-Vが他ツールと最も差別化される部分です。
■ 信頼性は極めて高い
再検査信頼性 ICC 0.96、検者間信頼性 ICC 0.99 と、いずれも非常に高い水準が報告されています。手順どおりに実施すれば検者が変わっても値がぶれにくい、という点はTIS-Vを選ぶ大きな理由になります。
■ 臨床での特徴とポイント
4つの評価ツールの中で最も網羅的に座位バランスを評価できます。特に「動的座位バランス」と「協調性(体幹と上下肢の協調した動き)」を細かく評価できる点が特徴です。
後述する4因子モデルでは「動的座位バランス(Factor 1・Factor 2)」に対応する項目を最も多く含み、回復期以降の患者さんや座位での動的バランスを詳しく評価したい場面に適しています。
③ TIS-F(Trunk Impairment Scale of Fujiwara)
TIS-Fは、Fujiwaraら(2004)によって開発された体幹機能評価スケールです。TIS-Vとは異なり、臥位(仰向け)での評価項目を含み、急性期早期の患者さんに特に適しています。
■ 評価項目(全7項目)
- 体幹垂直性の知覚(Perception of trunk verticality)
- 麻痺側・非麻痺側の体幹回旋筋力(Trunk rotation muscle strength)
- 麻痺側・非麻痺側の立ち直り反射(Righting reflex)
- 脳卒中障害評価セット:垂直性・腹筋力(Stroke impairment assessment set)
得点範囲:3〜20点(高いほど良好)
■ 臨床での特徴とポイント
臥位での評価項目を含むため、座位保持が困難な急性期早期の患者さんでも実施できます。ADL予後との関連が報告されており(Kim et al., 2015)、発症直後から退院時ADLを見通したい場面で特に有用です。後述する4因子モデルでは「静的座位(Factor 3)」に対応する項目を含みます。
④ FACT(Functional Assessment for Control of Trunk)
FACTは、奥田ら(Okuda et al., 2006)によって開発された体幹機能評価スケールです。10項目20点満点で構成され、治療指向的な体幹機能検査として設計されています。
■ 評価項目(全10項目)
- 静的座位バランス(Static sitting balance):2項目
- 動的座位バランス(Dynamic sitting balance):8項目
得点範囲:0〜20点(高いほど良好)。検査に要する時間は約5分と短く(奥田ら,2006)、臨床で使いやすいのが特徴です。
■ 開始肢位と10項目の内訳
高さ40〜45cmのベッド端に座り、足底を接地させ、膝関節90°で開始します。各項目は3回まで試行し、最良のパフォーマンスを採点します。10項目の内訳と配点は次のとおりです。
| 項目 | 内容 | 配点 |
|---|---|---|
| 1〜2 | 座位保持(上肢支持あり/なし) | 各0〜1点 |
| 3 | 体幹を回旋し反対側の足首に触れる | 0〜1点 |
| 4 | 体幹前傾+側方への重心移動 | 0〜2点 |
| 5 | 片側殿部の挙上 | 0〜2点 |
| 6 | 片側大腿の挙上 | 0〜2点 |
| 7 | 両側大腿の挙上 | 0〜2点 |
| 8 | 前後への殿部歩行 | 0〜3点 |
| 9 | 肩越しに提示された指の数の認識 | 0〜3点 |
| 10 | 片側の肩関節屈曲 | 0〜3点 |
前半(項目1〜3)は静的な保持、後半(項目8〜10)は重心を大きく動かす課題へと、難易度が段階的に上がる構成になっています。配点が0〜1点から0〜3点へ増えていくのも、難しい課題ほど段階を細かく見るためです。
■ 歩行自立のカットオフは9点
亜急性期の脳卒中患者を対象とした多施設研究(Okudaら,2023)で、歩行自立のカットオフ値は9点と報告されています(AUC 0.809、感度92.3%、特異度64.7%)。同研究ではTISとの相関がr=0.896と非常に高く、平均所要時間は約212.6秒(およそ3.5分)でした。
ここで大切なのは、感度92.3%に対して特異度が64.7%という数字の読み方です。9点未満なら歩行自立は考えにくい(見落としが少ない)一方で、9点以上でも自立できるとは限りません。つまりFACTは「まだ難しい」を判定するのに強く、「もう大丈夫」の判定には歩行そのものの評価を足す必要がある、ということです。
また、高齢脳卒中患者105名(平均80.2歳)を対象とした研究では、入院時のFACTがその後のFIM利得・FIM効率を有意に予測したと報告されています(Satoら,2021)。入棟時に測っておくと、伸びしろの見通しを立てる材料になります。
■ 臨床での特徴とポイント
脳卒中患者の歩行自立との関連が報告されており(Sato & Ogawa, 2025)、歩行訓練の見通しを立てる指標としても活用できます。後述する4因子モデルでは「静的座位(Factor 3)」および「動的座位・低難度(Factor 1)」の一部に対応します。
3. 4つの評価ツールの比較一覧
4つのツールの主な違いを以下の表にまとめます。
| 比較項目 | TCT | TIS-V | TIS-F | FACT |
|---|---|---|---|---|
| 項目数 | 4項目 | 17項目 | 7項目 | 10項目 |
| 得点範囲 | 0〜100点 | 0〜23点 | 3〜20点 | 0〜20点 |
| 評価姿勢 | 臥位・座位 | 座位 | 臥位・座位 | 座位 |
| 適した病期 | 急性期〜回復期 | 回復期(中期以降) | 急性期〜回復期 | 回復期早期以降 |
| 予後予測 | 歩行予後(TWIST) | ADL・歩行予後 | ADL予後 | 歩行自立 |
| 4因子モデルとの対応 | Factor 4(基本動作) | Factor 1・2(動的座位) | Factor 3(静的座位) | Factor 3・1(静的・動的座位) |
4. どのツールを使えばいい?場面別の選び方
「どのツールを使うべきか」は、①患者さんの病期、②何を評価・予測したいか、によって異なります。
急性期(発症から数日以内)
座位保持が困難または不安定な段階では、臥位での評価が可能なTIS-FとTCTを組み合わせるのが基本です。
- TIS-F:急性期専用設計で臥位評価が可能。ADL予後の大まかな見通しを立てられる
- TCT:臥位〜座位の移行動作も含む。歩行予後の早期スクリーニングに有用
回復期早期(座位が可能になった段階)
座位が安定してきたら、FACTとTCTを組み合わせてリハビリの進捗を追跡しながら、必要に応じてTIS-Vで動的バランスを細かく評価します。
- FACT:回復期早期向け。歩行自立予測と体幹機能の変化追跡に使いやすい
- TCT:TWISTアルゴリズムで歩行自立までの日数を予測するのに活用
回復期中期以降
歩行訓練が進んでいる患者さんで、体幹の動的バランスや協調性を詳しく評価したい場合はTIS-Vが最適です。
- TIS-V:17項目で座位バランスを網羅的に評価。体幹と上下肢の協調性(体幹回旋)も評価可能
- 各サブスケール(静的・動的・協調性)を個別に分析することで、介入ポイントを特定できる
★ 時期別MDC・MCID・カットオフ早見表(2026年最新)
2023〜2025年に体幹機能評価のエビデンスが大きく前進しました。病期別の精密な数値を整理します。歩行編・運動機能編と同じく、「いつの研究で・どんな患者で導かれたか」を踏まえて使い分けることが重要です。
TIS(Trunk Impairment Scale)の時期別MCID
| 病期 | MCID | 文献 |
|---|---|---|
| 急性期 | 3点(SRM 1.42、AUC 0.71) | Ishiwatari et al., 2023(Fujiwara版) |
| 亜急性期(要介助歩行患者) | 2.5点(95% CI: 0.5-4.0) | Yamamoto et al., 2025(Cureus) |
| 慢性期 | 未確立 | — |
急性期で「TISが3点改善」=「真の機能改善」と判断できます。亜急性期で要介助歩行患者の場合は2.5点でも臨床的に意味のある変化と解釈できます。TIS-V版と TIS-F版で値が異なる可能性がある点に注意してください。
さらに、Monticone ら(2019, Disabil Rehabil)は、TIS-V開発者の Verheyden を共著者に迎えた研究で、急性期125名・慢性期116名の脳卒中患者を対象に、最小臨床有意差(MCID)を病期別 × 評価者視点別に検証しました。
| 病期 | 患者視点MCID | セラピスト視点MCID |
|---|---|---|
| 急性期(n=125) | 3.5点 | 3.5点 |
| 慢性期(n=116) | 2.5点 | 1.5点 |
臨床的示唆:
- 急性期では、患者・セラピストどちらの視点でも3.5点の改善が「意味のある変化」と一致しています。
- 慢性期では、患者は2.5点で「変化を感じる」一方、セラピストは1.5点でも「変化を捉えている」——セラピストの方が、慢性期の小さな改善を察知している可能性があります。
- これは、リハビリ介入の効果判定や、患者へのフィードバック設計にも示唆を与えます。
TCT(Trunk Control Test)の予後予測カットオフ
- 急性期2週時点のTCT:3か月後の独歩獲得を予測(Collin & Wade 1990以来の長期エビデンス)
- 18週時点 TCT ≥ 50点:歩行回復と関連
- 入院時TCT:在院日数の52%、退院時FIMの54%を説明
- 入院時TCT + 入院時FIM の複合変数:在院日数60%、退院FIM 66%を説明(より高い予測精度)
TCTは「最初の2週間で測ることに最も価値がある」指標です。急性期病棟入院初期の重症度評価と退院支援計画の根拠として強力に機能します。
FACT(Functional Assessment for Control of Trunk)の信頼性・予測力
- 検者間信頼性:ICC(2,1) = 0.96(細川ら 2006)
- 内的整合性:Cronbach’s α = 0.81
- 項目別κ係数:0.62〜1.0
- TISとの相関:r = 0.896(強い)
- SIAS体幹項目との相関:r = 0.453〜0.594
- 測定時間:約212秒(TIS の372秒より大幅に短い)
- 急性期FACT:機能予後を有意に予測(Sato 2021, NRE; Sato 2023, JPTS multicenter)
FACTは「ベッドサイドで5分以内に実施できる、日本生まれの体幹機能評価」として、急性期病棟で特に強みを発揮します。脳卒中特化のMCIDはまだ確立されていませんが、信頼性と妥当性は十分に保証されています。
体幹評価のよくある誤用パターン
- ❌ TIS-V版とTIS-F版を混同:MCID値が異なる可能性。文献の引用版を必ず確認
- ❌ 急性期TIS MCID 3点を慢性期に流用:慢性期データは未確立、参考値として扱う
- ❌ TCT 50点を「歩行可能の基準」と単独で使用:18週時の予測値であり、急性期1週時点では別の解釈が必要
- ❌ FACT 単独で予後判断:TCTやSIAS体幹項目と組み合わせて使うのが推奨
- ❌ 姿勢制御の質を点数で見落とす:数値の前に「どの姿勢で・どのような代償で」できているかの観察が重要
病期 × 目的で選ぶマトリクス
| 目的\病期 | 急性期 | 亜急性期 | 慢性期 |
|---|---|---|---|
| 初期重症度評価 | TCT+FACT | TIS | TIS |
| 効果判定 | TIS(MCID 3点) | TIS(MCID 2.5点) | TIS(参考値) |
| 予後予測 | TCT(2週時)→ 3か月後独歩 | FACT+TIS | — |
| 短時間スクリーニング | FACT(5分以内) | FACT | FACT |
| 動的バランス精査 | — | TIS(動的項目) | TIS(動的項目) |
📌 体幹評価は他の評価指標と組み合わせることで真価を発揮します。歩行能力との関係は「10mWT・TUG・6MWTの使い分け|時期別MDC・MCIDと転倒/予後カットオフ早見ガイド」、運動機能との関係は「FMA・SIAS・SARAの使い分け|時期別MDC・MCIDと運動機能評価の解釈ガイド」をあわせてご参照ください。
5. 体幹機能の4因子モデル(Tagamiら,2026年の最新研究)
ここからは、体幹機能評価のスコアを臨床により活かすための新しい視点を紹介します。
研究の概要
2026年、TagamiらはArchives of Physical Medicine and Rehabilitationに掲載された研究において、脳卒中早期(発症後平均1.2日)の200名の患者(脳梗塞162名・脳出血38名、平均年齢75.9歳)を対象に、TCT・TIS-V・TIS-F・FACTの4種類の評価ツール(計38項目)を同時に実施しました。
探索的因子分析(EFA)とラッシュ(Rasch)分析を組み合わせることで、これらの評価ツールの項目に共通する因子構造を明らかにしました(Tagami et al., 2026)。
4つの因子の内容
分析の結果、脳卒中後の体幹機能には4つの因子が存在することが明らかになりました。
| 因子 | 名称 | 主な対応ツール | どんな動作・能力を測るか |
|---|---|---|---|
| Factor 4(最も易しい) | 基本動作(Basic movement) | TCT | 麻痺側・非麻痺側の両肢を用いる寝返りや起き上がりなどの基本的な姿勢変換動作 |
| Factor 3 | 静的座位(Static sitting) | FACT(静的) TIS-F | 体幹アライメントの保持・骨盤前傾の促進など、静的な座位姿勢の維持に関わる能力 |
| Factor 1 | 動的座位・低難度(Dynamic sitting, less challenging) | TIS-V(動的・協調性) FACT(動的一部) | 支持基底面内での前方リーチと前方骨盤傾斜の協調など、比較的難易度が低い動的座位バランス |
| Factor 2(最も難しい) | 動的座位・高難度(Dynamic sitting, more challenging) | TIS-V(高難度動的・協調性) | 支持基底面を超えたリーチ・体幹回旋・反応的バランスなど、高度な協調性と動的制御を要する座位バランス |
体幹機能回復の階層構造
この4因子モデルの重要な点は、4つの因子が「難易度に基づく階層的な構造」を持つことです。ラッシュ分析によってこの階層性が統計的に確認されており、体幹機能の回復は以下の順序(易→難)で進む傾向があります(Tagami et al., 2026)。
基本動作(Factor 4)→ 静的座位(Factor 3)→ 動的座位・低難度(Factor 1)→ 動的座位・高難度(Factor 2)
つまり、体幹機能は「寝返りや起き上がりなどの基本的な姿勢変換」から始まり、「静的な座位保持」→「座位での動的バランス(低難度)」→「座位での高難度の動的バランスや協調性」へと段階的に回復していくことが示されています。
6. スコアの臨床的解釈と治療への活かし方
4因子モデルを踏まえると、各評価ツールのスコアを「患者さんは体幹機能回復のどの段階にいるのか」という視点で解釈できます。
評価プロファイルの読み取り方
複数の評価ツールを組み合わせることで、患者さんの「体幹機能プロファイル」を4つの因子の観点から把握できます。以下は解釈の例です。
- TCTが低い(0〜50点程度)→ Factor 4(基本動作)が未達成。寝返り・起き上がりの介助量軽減とリハビリを優先する
- TCTは良好だがFACTの静的座位スコアが低い → Factor 3(静的座位)が課題。座位アライメントの保持や骨盤前傾の練習を重点的に行う
- FACTは改善しているがTIS-V動的バランスが低い → Factor 1(動的座位・低難度)が課題。支持基底面内でのリーチや重心移動の練習を追加する
- TIS-V動的バランスは達成できているが協調性スコアが低い → Factor 2(動的座位・高難度)が課題。体幹回旋や支持基底面を超えたリーチなどの高難度練習へ進む
治療の効率化と個別化
4因子モデルの階層構造を活かすと、効率的なリハビリ計画を立てられます。Tagamiら(2026)は、例えばFactor 3(静的座位)は達成できているがFactor 2(動的座位・高難度)が困難な患者さんの場合、Factor 1の簡単な動的バランス練習に時間をかけることなく、直接Factor 2の高難度動的バランス訓練に集中できると述べています。
このように、複数の評価ツールを「どの因子が達成されていて、どの因子が課題か」という視点で分析することで、根拠のある個別化リハビリテーション計画の立案が可能になります。
❓ よくある質問
Q1. TISとTCT、どちらを使えばいいですか?
結論:目的が違うので、時期と用途で選びます。
TCTは4項目・数分で終わり、寝返りや起き上がりを含むためベッドサイドで動けるかどうかを素早く把握したい急性期に向いています。歩行予後の予測力が高いのも強みです。
一方TIS-Vは17項目・20分程度かかりますが、座位での動的バランスと協調性まで細かく追えるため、回復期以降で「どこが弱いから座位が不安定なのか」を掘り下げたい場面に適しています。
迷ったときは「スクリーニングならTCT、治療方針を立てるならTIS-V」と考えると整理しやすいです。
Q2. TIS-VとTIS-Fは何が違うのですか?
名前は同じ「TIS」でも別のツールです。ここは混同されやすいので注意してください。
TIS-V(Verheyden版)は全17項目・0〜23点で、すべて座位で評価します。TIS-F(Fujiwara版)は全7項目・3〜20点で、臥位の項目を含むのが最大の違いです。
そのため、座位保持がまだ難しい急性期早期の患者さんにはTIS-F、座位が取れるようになってからの詳細評価にはTIS-V、という使い分けになります。論文を読むときも、どちらのTISなのかを必ず確認してください。
Q3. FACTは何点あれば歩行自立を目指せますか?
亜急性期を対象とした多施設研究では9点がカットオフとされています(Okudaら,2023)。
ただし特異度が64.7%であることを忘れないでください。9点以上イコール歩行自立ではありません。「9点未満なら歩行自立はまだ厳しい」という下限の目安として使い、9点を超えてからは歩行そのものの評価(10mWTやTUGなど)に判断の軸を移すのが実践的です。
Q4. 再評価はどのくらいの間隔で行うべきですか?
明確な推奨間隔を定めたガイドラインはありませんが、実務上は週1回程度が現実的です。
大切なのは間隔そのものより、MDC(測定誤差)を超えた変化かどうかで判断することです。数日おきに測っても、誤差の範囲で上下しているだけなら意味のある変化とは言えません。本記事の早見表にある時期別のMDC・MCIDと照らし合わせてください。
Q5. 点数が変わらないとき、何を見ればいいですか?
合計点ではなくサブスケールと項目の中身を見てください。
たとえばTIS-Vで合計点が同じでも、静的座位が伸びて動的座位が落ちているケースと、その逆のケースでは意味がまったく違います。合計点は複数の能力を足し込んだ数字なので、変化が相殺されて見えなくなることがあるのです。
また、点数に表れない質的な変化(代償の減少、動作の滑らかさ、疲労の出にくさ)も観察してください。数字が動く前段階として、こうした変化が先に現れることはよくあります。
ほーりーの臨床メモ
体幹機能は「姿勢の土台」であり、上下肢の動作の質に直接影響する。しかし「体幹が弱い」という曖昧な表現で問題を片付けてしまうと、具体的な介入の立案が難しくなります。
TISなどの信頼性の高い評価ツールを使うことで、変化を数値で捉えられる。「今日の体幹はどうか」という感覚頼りから脱することが、客観的なリハビリ計画につながります。
体幹機能のどの要素(静的座位バランス・動的バランス・協調性)が低下しているかを分けて評価することで、介入の焦点が明確になります。「体幹トレーニング」と一括にせず、目的を明確にした練習を選択することを意識しています。
7. まとめ
脳卒中後の体幹機能評価について、押さえておくべき重要なポイントを整理します。
- TCT:シンプルで短時間。歩行予後予測(TWISTアルゴリズム)に特に有用。急性期〜回復期で幅広く使用できる
- TIS-V:座位バランスを網羅的に評価。動的バランスと協調性の詳細評価に優れる。回復期中期以降に特に有用
- TIS-F:急性期専用設計で臥位での評価が可能。ADL予後の早期予測に有用
- FACT:奥田ら(2006)開発。回復期早期向けで扱いやすい。歩行自立との関連が報告されており、リハビリの進捗追跡に適する
- 4因子モデル(Tagami et al., 2026):体幹機能は「基本動作→静的座位→動的座位(低難度)→動的座位(高難度)」の階層構造で回復する。この視点でスコアを解釈することで、個別化されたリハビリ計画立案が可能になる
まずはTCTとFACTを急性期・回復期早期の基本セットとして使いながら、評価の目的や病期に応じてTIS-VやTIS-Fを組み合わせることから始めてみましょう。そして各スコアを4因子モデルの観点で読み解くことで、より精度の高い個別化リハビリテーションの実践につなげてください。
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免責事項
本記事は、理学療法士・作業療法士等の医療専門職向けの教育・情報提供を目的としたものです。記事の内容は執筆時点の情報に基づいており、最新の研究・ガイドラインによって変更される可能性があります。個々の患者さんへの評価・介入の判断は、担当の医師・リハビリテーション専門職が患者さんの状態を直接評価したうえで行ってください。本記事の内容を直接の根拠として臨床判断を行うことはお控えください。
参考文献
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