この記事でわかること

  • 脳卒中経験者が脱水になりやすい3つの理由(嚥下障害・薬剤・口渇感低下)がわかる
  • 脱水が脳卒中再発リスクを高める仕組み(血液濃縮・血栓形成)が整理できる
  • 脱水のサイン(口渇・尿色・皮膚弾力・体重)のセルフチェック方法が押さえられる
  • 季節別の予防ポイント(夏の発汗・冬の暖房)と1日の水分摂取目安がわかる
  • 家族ができる声かけ・記録・環境調整の支援方法が理解できる

はじめに

「水を飲むのが面倒になった」「トイレが近くなるから、あまり飲みたくない」——リハビリの現場でこうした声を聞くことは少なくありません。

実は脳卒中経験者にとって、脱水はとても身近で、かつ深刻なリスクです。脱水が進むと血液がドロドロになり、脳梗塞の再発リスクが高まることが知られています。また、筋力低下・転倒・意識レベルの低下といったさまざまなトラブルの引き金にもなります。

この記事では、なぜ脳卒中経験者が脱水になりやすいのかをわかりやすく解説し、春・夏・秋・冬の季節ごとに気をつけたいポイントをご紹介します。ご本人はもちろん、一緒に生活するご家族にもぜひ読んでいただきたい内容です。



なぜ脳卒中経験者は脱水になりやすいのか?

健康な方でも高齢になると脱水リスクは高まりますが、脳卒中経験者にはさらにいくつかの特有のリスク要因があります。

① のどの渇きを感じにくくなる

脳卒中によって脳の一部が障害されると、渇感(口の渇きを感じる感覚)が鈍くなることがあります。本人が「のどは渇いていない」と感じていても、実際には身体が水分を必要としている状態になっているケースがあります。

② 嚥下障害(えんげしょうがい)による飲水の困難

嚥下障害とは、食べ物や飲み物をうまく飲み込めない状態のことです。水やお茶のようなさらさらした液体は特にむせやすく、飲むこと自体が怖くなり、意識的に水分を避けてしまう方も少なくありません。

③ トイレへの不安から水分を控える

片麻痺やバランス障害があると、トイレへの移動が大変になります。「漏らしてしまうのが怖い」「夜中にトイレに行くのが億劫」という理由から、意図的に水分摂取を減らしてしまう方が非常に多くみられます。

④ 利尿作用のある薬を服用していることが多い

脳卒中後は高血圧・心不全・むくみなどの管理のために、利尿薬(尿の量を増やす薬)を服用することがあります。これにより、通常より水分が排出されやすい状態になっています。

⑤ 発汗の感覚が鈍くなることがある

麻痺側では汗の分泌が少なくなることがあり、暑さを自覚しにくい場合があります。非麻痺側だけで汗をかいているため、自分が暑い・汗をかいていると気づきにくいことがあります。


脱水が脳卒中に与える影響

脱水になると血液中の水分が減り、血液が濃くなって固まりやすくなります(血液粘度の上昇)。これが血栓を作りやすくする要因になります。

脳梗塞のなかでも、心房細動による心原性脳塞栓症や、細い血管が詰まるラクナ梗塞は、脱水が誘因のひとつと考えられています。特に夏場の脱水と脳梗塞再発には関連があることが複数の研究で示されており、脱水は再発の「引き金」になりうると考えておくことが大切です。

また脱水は、脳梗塞再発だけでなく以下のような問題も引き起こします。

  • 意識レベルの低下・ぼーっとする時間が増える
  • 筋力や集中力の低下(リハビリの効果が出にくくなる)
  • 便秘の悪化
  • 転倒リスクの上昇(低血圧・めまいが起きやすくなる)
  • UTI(尿路感染症)の発症

💡 PTからのコメント:リハビリ中に「今日は動きが鈍いな」「集中力がない」と感じる日は、水分が足りていないことが原因の一つとして疑われます。朝のリハビリ前に水分をしっかり摂ることが、パフォーマンスにも影響します。


脱水のサインをチェックしよう

脱水は少しずつ進むため、本人も周囲も気づきにくいことが特徴です。以下のサインを日頃から意識して確認しましょう。

身体のサイン

サイン詳細
尿の色が濃い・量が少ない正常な尿は薄い黄色。濃い黄色やオレンジ色になってきたら要注意
口・唇の乾燥口の中がねばねばする、唇がカサカサになる
皮膚のハリが低下手の甲の皮膚をつまんで離したとき、戻りが遅い(ツルゴール低下)
疲れやすい・ぼーっとするいつもより元気がない、反応が遅い
頭痛・めまい特に立ち上がり後に起こりやすい
便秘水分不足は便を硬くする

ご家族が「受診・水分補給の促し」として気づきたいこと

  • 「今日はあまり飲んでいないな」と気づく日が続いている
  • 午後になってからぼーっとしている時間が増えた
  • 尿の回数が極端に少ない、または色がとても濃い
  • 急に意識がはっきりしなくなった、声をかけても反応が薄い(→ 医療機関へ)

季節別・脱水予防のポイント

脱水のリスクは年間を通じてありますが、季節によって注意すべきポイントが異なります。


🌸 春(3月〜5月)

春は「気温の急な変化」と「乾燥」が重なる時期です。暖かくなってきたように感じても、実は空気は乾燥しており、呼吸だけで水分が失われています。また、春は外出機会が増え、知らず知らずのうちに身体を動かして汗をかくことも多い時期です。

ポイント: – 外出前後に必ず水分を摂る習慣をつける – 室内でもこまめに水分補給。「のどが渇いてから飲む」ではなく、時間で飲む習慣を – 春の健診・定期受診のタイミングで、水分摂取量を医師・薬剤師に確認しておく


☀️ 夏(6月〜8月)

夏は脱水リスクが最も高い季節です。高温多湿の環境では発汗量が増え、短時間で脱水が進みます。脳卒中経験者は麻痺側の発汗が少ないために暑さを自覚しにくく、熱中症と脱水が同時に進行するリスクがあります。

ポイント: – エアコンを適切に使用し、室温28℃以下を目安に保つ – 起床時・就寝前・入浴前後に必ず水分を摂る(就寝中も汗で水分が失われる) – 1日の目標水分量は一般的に1,500〜2,000mL。主治医に確認したうえで目標量を決めておく – 屋外での活動は朝夕の涼しい時間帯に。直射日光を避け、帽子・日傘を活用する – スポーツドリンクは糖分が多いため、飲み過ぎに注意。薄めて飲む方法もある

⚠️ 熱中症のサイン(すぐに対応を):大量の発汗・顔が真っ赤・ぐったりしている・意識がおかしい場合は、涼しい場所に移して冷やし、水分補給できない状態なら救急要請を。


🍂 秋(9月〜11月)

秋は油断しやすい季節です。涼しくなってきたから大丈夫と感じがちですが、9月はまだ残暑が厳しく、夏と同様の脱水リスクが続きます。また、空調の切り替えや室内外の温度差も身体に影響します。

ポイント: – 9月は引き続き夏と同じ意識で水分補給を継続する – 涼しくなると水分摂取量が自然と減るため、意識して飲む習慣を維持する – 秋は冬に向けた体調管理の時期。定期受診を欠かさず、腎機能や血液データを確認してもらう


❄️ 冬(12月〜2月)

冬は「飲みたくないから飲まない」がリスクになる季節です。寒いとのどが渇きにくく、また「トイレが増えると寒い」という心理的な抵抗から、水分摂取量が極端に減りやすい時期です。さらに暖房による室内の乾燥も加わります。

脳梗塞は冬に発症・再発が増えることが知られており、脱水による血液の粘度上昇が一因と考えられています。

ポイント: – 温かい飲み物(白湯・緑茶・ほうじ茶・コンソメスープなど)を活用して飲みやすくする – 暖房を使う部屋では加湿器を活用し、室内の乾燥を防ぐ – 朝・昼・夜の食事のタイミングに合わせて水分補給を習慣化する – 脱水と血圧は密接に関係するため、血圧手帳や家庭血圧計での管理と合わせて意識する


1日の水分摂取のめやす

一般的に成人に必要な水分量は1日あたり約1,500〜2,000mLとされていますが、腎機能の低下や心不全がある方は、水分を摂りすぎてはいけない場合もあります。必ず主治医に「1日どのくらい飲めばいいか」を確認した上で、その目安に沿って管理してください。

水分として数えられるのは、お茶・水・スープ・味噌汁・ゼリーなど。果物も水分が多く含まれています。一方、アルコールは利尿作用があるため水分補給にはなりません


ご家族ができること

「飲んだ?」と声をかける習慣をつける 食事のたびに確認するだけでも効果的です。「今日の分のお茶、ここに置いておくね」と目に見える形で水分を準備しておくのもよい方法です。

マイボトルや水分チェックシートを活用する 500mLのボトルを「今日は何本飲んだか」で管理する方法は、簡単で続けやすいのでおすすめです。

尿の色を確認する習慣をつける トイレの後に色を確認するだけで、脱水の早期発見につながります。「薄い黄色ならOK、濃い色は要注意」と覚えておきましょう。

温かい飲み物で飲みやすくする工夫を 冬や飲み込みが不安な方には、とろみ剤を使って飲みやすい粘度に調整する方法もあります。担当のSTさん(言語聴覚士)や栄養士に相談してみてください。

暑さ・体調変化に早めに気づく エアコンの設定や着替えのサポートなど、室温管理を一緒に行うことが脱水予防の基本です。本人が「大丈夫」と言っていても、様子が普段と違うと感じたら積極的に声をかけてください。


ほーりーの臨床メモ

脳卒中後の患者さんは嚥下障害・感覚障害・尿意の変化などから、脱水に気づきにくい状態にあります。「水を飲みたいと感じない」「飲み込みが心配で飲まない」といった理由で水分摂取が不足していることもしばしば。

リハビリ中に患者さんの表情や皮膚の状態、尿の色などを観察することは、脱水の早期発見につながります。「喉が渇いていない」と言っていても、体は脱水状態ということがある。

昨今の猛暑の影響もあり、夏場の屋外歩行訓練では特に注意が必要です。「少し歩いてみよう」で始めた練習が水分補給なしで長時間になっていた、という経験から、必ず水分を持参させることをルール化したほうがいいでしょう。


よくある質問(FAQ)

Q1. 1日にどのくらい水分を摂ればいいですか?

体重1kgあたり30-35mLが目安です。体重60kgなら約1.8〜2.1L。食事に含まれる水分(約1L)を引くと、純粋に飲む量は1〜1.2Lが目標です。心不全・腎不全がある方は主治医に確認が必要です。

Q2. お茶やコーヒーでも水分補給になりますか?

なります。ただしカフェイン入り飲料は利尿作用があるため、主体は「水・麦茶・ノンカフェイン茶」で、お茶やコーヒーは補助的に。アルコールは脱水を進めるため水分補給にはなりません。

Q3. むくみがあるのに脱水?と言われました

「水分は摂っているのに体の中で循環していない」状態で、低栄養や心機能低下が背景にあることが多いです。体重・尿色・口渇感を総合的に見て判断します。むくみがある時こそ自己判断せず、主治医に相談を。

Q4. 嚥下障害がある場合の水分摂取は?

トロミ調整食品(トロミ剤)でとろみをつけて、ペースト状にすると安全です。むせやすい・誤嚥性肺炎の既往がある方はST評価のうえ、適切なとろみ濃度を決めます。家族はとろみの作り方・食事姿勢の指導を受けることが大切です。


まとめ

  • 脳卒中経験者は脱水になりやすい。嚥下障害・利尿薬・口渇感低下の3因子
  • 脱水は血液濃縮で血栓リスク上昇→再発予防の盲点
  • サインは口渇・尿色濃い・皮膚弾力低下・体重減少。毎日チェックを
  • 1日1〜1.2Lの飲水(体重60kgで2L目標−食事1L)。夏は+500mL
  • 家族の声かけ・記録・とろみ調整が支援の柱。嚥下障害ありはST連携で

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免責事項

本記事の内容は、筆者個人の経験・知識および参考文献に基づく情報提供を目的としており、個別の医療アドバイスではありません。水分摂取量の目標値や薬との関係については、必ず担当の医師・薬剤師にご相談ください。本記事の情報を利用したことによって生じたいかなる損害についても、筆者は責任を負いかねます。

参考文献

  1. 日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会. 脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2023〕. 協和企画; 2023.
  2. 環境省. 熱中症環境保健マニュアル2022. 環境省; 2022.
  3. 厚生労働省. 健康のため水を飲もう推進運動. 厚生労働省; 2013.
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ほーりー
脳卒中認定理学療法士/臨床13年目/総合病院勤務(回復期・地域包括・緩和ケア病棟)で累計500例以上の脳卒中患者のリハビリを担当。院内では新人PT教育・勉強会講師を継続。日本神経理学療法学会所属。新人PT・若手PTと患者様・ご家族に「現場の知見」をわかりやすく発信しています。