被殻を損傷すると何が起きるのか——症状の読み方と評価・リハビリへの活かし方

「被殻出血の患者さんを担当することになったけど、どんな症状が出やすくて、何を評価すればいいのか整理できていない」——病棟で脳卒中患者を担当し始めた新人PTが感じる、こうした不安は珍しくありません。
被殻(putamen)は高血圧性脳出血の最多部位であり、脳卒中リハビリで最もよく遭遇する損傷部位のひとつです。この記事では、被殻の解剖と機能から出発し、損傷時に出やすい症状と評価のポイントを臨床に直結する形で整理します。
この記事でわかること
- 被殻の解剖的位置と、大脳基底核回路における役割
- 被殻が損傷されやすい理由(血管支配と高血圧性出血)
- 被殻損傷で出やすい症状と、その背景にある神経解剖学的根拠
- 損傷部位・血腫サイズによる症状パターンの違い
- 担当時に押さえるべき評価のポイント
被殻とは何か
大脳基底核の構成
被殻を理解するには、まず大脳基底核(basal ganglia)全体の構造を把握する必要があります。大脳基底核は以下の核群から構成されます。
| 核 | 構成 |
|---|---|
| 線条体(striatum) | 尾状核(caudate nucleus)+被殻(putamen)+腹側線条体 |
| 淡蒼球(globus pallidus) | 内節(GPi)+外節(GPe) |
| 視床下核(subthalamic nucleus, STN) | — |
| 黒質(substantia nigra) | 網様部(SNr)+緻密部(SNc) |
このうち尾状核と被殻を合わせて線条体と呼びます。被殻は線条体の外側部分を占める大きな核で、内包の外側に位置しています。
被殻の機能:大脳基底核回路の入力ゲート
被殻は大脳基底核回路における主要な入力部(input station)です。大脳皮質(特に運動関連領域)から大量の入力を受け取り、その情報を処理して視床・運動野へ戻すフィードバックループを形成しています。
直接路(direct pathway)
被殻 → GPi/SNr(抑制)→ 視床の脱抑制 → 大脳皮質の活性化
間接路(indirect pathway)
被殻 → GPe → STN → GPi/SNr(興奮)→ 視床の抑制 → 大脳皮質の抑制
この2つの経路のバランスによって、運動の「開始・促進」と「抑制・選択」が調整されます。被殻が損傷されると、この調整機能が失われ、随意運動の開始・停止・調節が障害されます。
被殻の位置関係:隣接構造との関係が症状を決める
被殻は以下の重要な神経構造と隣接しています。この位置関係が、被殻損傷の症状を理解する鍵です。
- 内側:内包(特に内包後脚)——皮質脊髄路・皮質橋路・感覚路が通る
- 外側:外包・最外包
- 上方:放線冠・半卵円中心
- 内側上方:尾状核
- 下内側:淡蒼球
被殻出血は血腫が拡大するにつれて内包を圧迫・破壊することが多く、これが片麻痺・感覚障害などの主要な症状を生じさせます。
なぜ被殻が損傷されやすいのか
血管支配:レンズ核線条体動脈
被殻の血液供給は主にレンズ核線条体動脈(lenticulostriate arteries)が担います。これは中大脳動脈(MCA)の近位部(M1セグメント)から直角に分岐する細い穿通枝の束です。
- 親動脈(MCA)から直角に分岐するため、血圧の急激な変化を受けやすい
- 細径(直径100〜400μm程度)で、長期にわたる高血圧による血管壁変性(脂質沈着・微小動脈瘤形成)が起きやすい
- 自動調節能が限界を超えると、脆弱化した血管壁が破綻して出血する
このメカニズムにより、高血圧性脳内出血の約30〜40%が被殻出血として生じます。
被殻梗塞
出血だけでなく、MCA穿通枝の閉塞によるラクナ梗塞でも被殻が障害されます。被殻のラクナ梗塞は純粋運動性片麻痺や感覚運動性脳卒中として現れることがあります。
被殻損傷で出やすい症状
被殻出血・梗塞の症状は、大きく「基底核機能の障害」と「隣接構造(特に内包)への影響」に分けて理解します。
1. 片麻痺(最も多い主症状)
被殻に隣接する内包後脚には皮質脊髄路が密集しています。被殻出血の血腫が拡大すると内包を圧迫・破壊し、対側の顔面・上肢・下肢の均等な片麻痺が生じます。
- 発症早期は弛緩性麻痺(急性期の神経性ショック)
- 数日〜数週間で痙性麻痺・共同運動パターンへ移行
- 被殻出血は大きな血腫になりやすく、麻痺が重度になることが多い
2. 感覚障害
内包後脚には感覚路(視床皮質路)も走行しています。血腫による圧迫で対側の表在感覚・深部感覚の障害が生じます。感覚障害は運動麻痺と合併することが多く、リハビリの難度を高めます。
3. 共同偏視(眼球の一方向への偏り)
急性期には病変側への共同偏視(眼球が病変側を向く)が見られることがあります。これは前頭眼野(FEF)からの眼球運動指令と、病変による抑制解除によって生じます。多くは数日〜数週間で自然軽減します。
4. 失語(優位半球病変:多くの場合は左半球)
左(優位)半球の被殻出血では、被殻そのものや周囲白質が言語ネットワークに関与するため失語が出現することがあります。
被殻性失語(subcortical aphasia)の特徴:
- 流暢性は保たれやすいが、言語の自発性が低下
- 復唱が比較的保たれる(皮質性失語との違い)
- 失語の性状は血腫部位・範囲によって多様
5. 半側空間無視(劣位半球病変:多くの場合は右半球)
右(劣位)半球の被殻損傷では左半側空間無視が出現することがあります。注意ネットワークへの影響(特に頭頂葉・前頭葉への白質連絡の遮断)が関与します。
6. 意識障害
大きな被殻出血では血腫が脳室に穿破したり、周囲の脳組織を圧排することで意識障害が生じます。重症例では意識消失から始まることもあります。
7. 基底核機能の障害
- 運動の開始困難・緩慢(bradykinesia):特に亜急性期以降
- 反復・自動的な運動の障害:歩行や日常動作の自動化の遅れ
- 感情・意欲の変化:アパシー・うつ状態(側坐核周囲への波及)
損傷部位・血腫サイズによる症状パターンの違い
| 分類 | 血腫の位置 | 主な症状 |
|---|---|---|
| 小型(小被殻出血) | 被殻内に限局 | 軽度の片麻痺・感覚障害、意識清明 |
| 後方型 | 後方拡大(内包後脚圧迫) | 重度片麻痺・感覚障害・同名半盲 |
| 前方型 | 前方拡大(尾状核・前頭葉) | 認知・注意障害、失語(左側) |
| 大型(脳室穿破を伴う) | 脳室内・周囲組織圧排 | 重度意識障害・水頭症リスク |
臨床で担当する被殻出血患者の多くは後方型または大型であり、重度の片麻痺・感覚障害が中心症状になります。
被殻梗塞との違い
被殻梗塞は一般に血腫の質量効果がないため、被殻出血より症状が軽度になりやすいです。ただし、MCA近位部の広範な梗塞に被殻が含まれる場合は、高次脳機能障害を含む重篤な症状を呈します。
評価のポイント
初期評価のフレームワーク
被殻損傷患者を担当したとき、以下の順序で評価を組み立てます。
Step 1:全体像の把握(カルテ・申し送り確認)
- 出血 or 梗塞の区別、血腫サイズ・部位(CT画像)
- 優位半球(左)か劣位半球(右)か
- 発症からの日数・意識レベルの推移
- 手術・ドレナージの有無
Step 2:意識・覚醒の確認
- JCS(Japan Coma Scale)またはGCS
- 覚醒が不十分な状態でのリハビリは内容を制限する
Step 3:運動機能の評価
| 評価 | 方法 | 確認ポイント |
|---|---|---|
| Brunnstromステージ(BRS) | 上肢・手指・下肢 | ステージの確認と経時的変化の追跡 |
| MMT | 個別筋 | 残存筋力の把握 |
| 筋緊張 | Modified Ashworth Scale | 痙性の程度 |
| 関節可動域 | 他動ROM | 拘縮リスクの早期把握 |
Step 4:感覚の評価
- 表在感覚(触覚・痛覚・温度覚)
- 深部感覚(位置覚・運動覚・振動覚)
- 感覚障害の有無・程度は運動回復の予後にも影響する
Step 5:高次脳機能のスクリーニング
| 疑う症状 | 評価ツール | 確認のポイント |
|---|---|---|
| 失語(左半球) | 標準失語症検査(SLTA)、簡易スクリーニング | 自発言語・復唱・呼称・理解 |
| 半側空間無視(右半球) | 線分二等分試験・BIT | 食事・歩行での無視の影響 |
| 注意障害 | TMT(Trail Making Test)・CAT | 集中持続・選択的注意 |
| 遂行機能 | BADS | ADLへの影響 |
Step 6:ADL・起居動作の評価
- FIM(機能的自立度評価表)
- 基本動作(寝返り・起き上がり・端座位・立位・歩行)の実用性
画像所見と症状の対応を確認する習慣
CT・MRI画像を自分で確認し、「どの構造が損傷されているか」を把握することが重要です。特に内包後脚の関与の程度が、片麻痺の重症度・回復予後の推定に役立ちます。内包後脚が完全に破壊されている場合は、上肢・下肢の分離運動回復が困難なことが多く、ADL自立の目標設定に影響します。
リハビリへの活かし方
急性期:早期離床と廃用予防
- 意識清明・バイタル安定を確認したうえで、できるだけ早期に座位・立位訓練を開始
- 麻痺肢の良肢位保持・関節可動域訓練で拘縮を予防
- 病棟スタッフとのポジショニング指導の共有
運動麻痺への対応
麻痺の重症度はBRSで段階的に把握し、現在のステージに合わせた訓練を設計します。
- BRS Ⅰ〜Ⅱ:近位部からの共同運動を引き出す訓練
- BRS Ⅲ〜Ⅳ:共同運動からの逸脱を促す訓練
- 下肢は歩行・立位の反復で回復を促進しやすい
高次脳機能障害への対応
- 失語がある場合:言語聴覚士(ST)との連携・コミュニケーション方法の統一
- 無視がある場合:視覚的手がかりの配置・食事・歩行訓練への反映
- 注意障害がある場合:訓練時の刺激量を調整・二重課題を段階的に導入
自動性の回復を意識した訓練
被殻は運動の「自動化」に関与するため、繰り返しの練習による運動プログラムの定着がリハビリの重要な柱です。歩行・移乗などの基本動作を反復し、意識せずに遂行できる自動性の回復を目指します。
ほーりーの臨床メモ
被殻損傷の患者さんを担当するとき、「感覚障害」「視空間認知」「注意」「運動麻痺」が組み合わさった症状の複雑さに最初は混乱しました。正直今でも混乱します。しかし、ひとつひとつの症状を丁寧に評価して、どの組み合わせが日常生活の困難につながっているかを整理するようにしています。
被殻は基底核の一部として随意運動の制御に関わっています。痙縮が出やすく、ボツリヌス療法の適応になるケースも多いです。運動麻痺の改善と痙縮管理を並行して考えましょう。
画像で被殻病変の広がりを確認しておくと、症状の多様性が理解しやすいことがあります。「なぜこの患者さんにこの症状が出るのか」を解剖学的に説明できるようになるためにも脳画像の知識も必要になりそうですね。
まとめ
- 被殻は大脳基底核回路の入力ゲートであり、運動の開始・調節・自動化に関与する
- 高血圧性脳内出血の最多部位(約30〜40%)。レンズ核線条体動脈の脆弱化が原因
- 内包後脚に隣接するため、片麻痺・感覚障害が主症状になりやすい
- 優位半球(左)病変では失語、劣位半球(右)病変では半側空間無視が出現しやすい
- 評価は「意識→運動→感覚→高次脳機能→ADL」の順に組み立て、画像所見と症状を対応させる習慣を持つ
- リハビリは麻痺の段階に合わせた訓練+高次脳機能障害への対応+動作の自動化促進が3本柱
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免責事項
本記事は理学療法士による教育・情報提供を目的として執筆されています。個々の患者さんへの具体的な医療行為や訓練内容については、担当医師・理学療法士の指導のもとで判断・実施してください。本記事の内容を参考に生じたいかなる結果についても、筆者および当ブログは責任を負いません。
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