はじめに

「先生、装具を外したら足が赤くなってるんですけど大丈夫ですか?」

脳卒中後のリハビリでこうした声を聞いたことがある方は多いと思います。装具使用中の皮膚トラブルは、見落とすと深刻な潰瘍に発展することもあります。一方で、適切な観察と早期対応があれば、多くのケースは防げます。

この記事では、装具使用中に起こりやすい皮膚トラブルの種類・好発部位・対応策を、PTの視点から実践的にまとめます。

1. 装具使用中に皮膚トラブルが起きる理由

① 圧迫(Pressure)

装具が特定の部位に持続的な圧力をかけることで、組織への血流が途絶え皮膚が損傷します。特に骨突出部(骨が皮膚の近くにある部分)に生じやすいです。

② ずれ(Shear)

歩行中や立ち上がりの際に、装具と皮膚の間でずれが生じることで、皮膚表層と深部組織が異なる方向に引っ張られ損傷が起きます。

③ 摩擦(Friction)

装具の内面と皮膚が繰り返し擦れることで、表皮が剥がれたり水疱が形成されます。これらに加え、脳卒中後の片麻痺患者さんでは感覚障害によって痛みや不快感を自覚しにくいことが多く、トラブルの発見が遅れるリスクが高くなります。

2. 皮膚トラブルの好発部位

短下肢装具(AFO)使用中に皮膚トラブルが起きやすい部位を覚えておくことが、早期発見の第一歩です。

部位理由
外果(外くるぶし)骨突出部に直接圧迫が加わりやすい
内果(内くるぶし)同上。特に内反傾向がある場合に圧迫が強くなる
踵骨(かかと)歩行時の繰り返す衝撃と圧迫が重なる
第5中足骨基部足の外側の骨突出部。装具の側壁が当たりやすい
足背(足の甲)ストラップの締め付けによる圧迫・摩擦
下腿前面(脛骨稜)装具の上縁が当たりやすい部位
アキレス腱部背面のプラスチックが直接当たる場合がある

3. 皮膚トラブルの段階と見極め方

Stage 1:発赤(消退性発赤)

皮膚に赤みが見られるが、指で押すと白くなる(消退する)。皮膚の表面は損傷していない。対応:装具の当たっている部位を確認し義肢装具士に調整を依頼する。しばらく装具使用を中断し、発赤が消えるか確認する。

要注意:非消退性発赤

指で押しても白くならない(消退しない)。組織への血流障害が始まっているサインです。対応:義肢装具士へ早急に連絡し、パッドの追加・装具の削り出し・使用中断など早急な対処が必要。担当医・看護師への報告も行う。

Stage 2:浅い潰瘍・水疱

皮膚の表層(表皮〜真皮浅層)に損傷が生じた状態。水疱(みずぶくれ)が形成されることもあります。対応:装具使用を一時中断し、医師・看護師に報告して創部の処置を依頼する。

Stage 3以上:深い潰瘍・壊死

真皮深層〜皮下組織に及ぶ損傷。対応:直ちに装具使用を中止し医師に報告する。創傷管理の専門的な介入が必要です。

4. PTによる皮膚観察のタイミングと手順

タイミング理由
装具完成直後(初回装着後15〜30分)初めての使用で圧迫が起きやすい
毎回の装着後・除去後継続使用中のトラブルを早期発見するため
歩行訓練後運動による圧迫・摩擦が加わった後
体重変化・浮腫変化があったとき足の太さが変わると装具の当たり方が変わる

確認手順:①装具を外す前に痛み・違和感・熱感がないか確認する → ②外果・内果・踵・足背・下腿前面・アキレス腱部を観察する → ③発赤の消退性・浮腫・熱感・水疱・擦れ跡を確認する → ④記録する → ⑤非消退性発赤以上は必ず担当医・看護師に報告する

5. 皮膚トラブルを予防するために

装具側の対策

  • 骨突出部にプレフォームパッドや低反発素材のパッドを追加する
  • ストラップの締め付けをきつすぎず・ゆるすぎない適切な調整にする
  • 装具内面のライニング材の劣化を確認する
  • 「ちょっと当たっている気がする」段階で義肢装具士に早めに相談する

皮膚側の対策

  • 装着前に保湿クリームで皮膚を保護する(油脂の塗りすぎには注意)
  • 装具を外した後に皮膚と装具内面を清潔に保つ
  • 装具の下には必ず靴下を着用する(縫い目が皮膚に当たらないよう注意)
  • 使い始めの初期は短い時間から徐々に延ばしていく

6. 患者・家族への指導のポイント

退院後の自宅では PTが直接観察できないため、患者さんとご家族が自分でトラブルに気づける力をつけることが重要です。

  • 「装具を外したら必ず足を見る」習慣をつける
  • 「赤くなっていたら10分待って消えるかどうか確認する」
  • 「消えない赤み・水ぶくれ・傷がある場合はすぐに連絡する」
  • 「痛くなくても見て確認することが大切」(感覚障害があることを説明する)

特に感覚障害が重度な患者さんでは、ご家族による確認が不可欠です。入院中から「一緒に確認する」習慣を作っておくことが大切です。

ほーりーの臨床メモ

装具使用中の皮膚トラブルは「見て確認する」習慣なしに防ぐことができません。特に感覚障害があると患者さん自身が「痛い」と気づかないまま潰瘍が進行していることが危険です。

装着前と外した後の皮膚確認は鉄則で、発赤が30分以上残るようであれば装具の当たりを疑う必要がある。この判断を患者さん・家族にも伝え、自宅で自己チェックできるよう指導することもPTの大切な役割だと思い実践しています。

義肢装具士への相談は早いほどいい。「もう少し様子を見よう」でいた間に傷が悪化した経験から、異変に気づいたら即座に連携することを習慣化したいですね。装具は適切なフォローがあって初めて機能するものだと感じています。


まとめ

装具による皮膚トラブルは「予防可能なリスク」。PTの目で早期発見できる視点が、患者さんを守ります。本記事の要点を整理します。

  • 主な原因:①圧迫 ②摩擦 ③湿潤の3要素が複合的に作用
  • 好発部位:踵骨・外果・内果・脛骨粗面・腓骨頭・足背の骨突出部
  • 段階分類:①発赤 ②水疱・びらん ③潰瘍 段階が進むほど治癒に時間がかかる
  • 観察のタイミング:装具着脱時の毎回。30分以上の発赤は要注意
  • 3つの予防策:①適切なフィッティング ②段階的着用時間延長 ③皮膚保湿・清潔保持

「装具は治療具」だからこそ、皮膚トラブルで装具拒否につながると治療が止まります。新人PTのうちから「観る目」を育てましょう。

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よくある質問(FAQ)

Q1:装具を脱いだ後の発赤は、どのくらいで消えれば「問題なし」ですか?

結論:30分以内に消失すれば許容範囲です。それ以上続く発赤は要注意。

装具装着部の発赤は、装着中の圧迫による正常反応です。脱いで30分以内に消えれば問題なし。30分以上消えない・触れると痛む・色が濃くなる場合は、フィッティング調整が必要です。義肢装具士へ相談しましょう。

Q2:糖尿病患者さんの皮膚観察で特に気をつけることは?

結論:「感覚低下」「治癒遅延」「感染リスク」の3点を意識します。

糖尿病性神経障害がある場合、痛みを訴えられず気づいた時には潰瘍化していることも。観察は毎回必須で、たとえ患者さんが「大丈夫」と言っても目視確認。小さな傷でも感染リスクが高いため、医師・看護師との連携を密にしましょう。

Q3:水疱ができた場合、装具を使い続けても大丈夫ですか?

結論:原則「水疱破裂・感染リスク」のため、装具使用を一旦中止して治癒を優先します。

水疱は皮膚バリアの破綻直前のサイン。そのまま装具を続けると破裂・潰瘍化・感染へと進行します。一旦中止して、患部を保護(ハイドロコロイドドレッシング等)。治癒後はフィッティング再調整、段階的に着用時間を戻します。看護師・医師との連携が必須です。

Q4:自宅退院後の皮膚チェックを家族に依頼する時のコツは?

結論:「写真記録」と「観察項目チェックリスト」を渡すと家族の負担が減ります。

「赤み・水疱・傷」の3項目を1日2回(朝・夜)チェックする習慣を提案。スマホで写真を撮って外来診察時に見せてもらうと、変化を客観的に追えます。「気になる時はすぐ連絡」できる体制(LINEや電話番号の共有)を整えると、家族の安心感がぐっと上がります。

免責事項

本記事の内容は、筆者個人の経験・知識および参考文献に基づく情報提供を目的としており、個別の医療・リハビリテーションに関するアドバイスではありません。皮膚トラブルの評価・対処については、担当の医師・看護師・理学療法士・義肢装具士など専門家に必ずご相談ください。本記事の情報を利用したことによって生じたいかなる損害についても、筆者は責任を負いかねます。

参考文献

  1. 澤村誠志(編). 義肢装具学 第4版. 医歯薬出版; 2010.
  2. 日本褥瘡学会(編). 褥瘡予防・管理ガイドライン 第4版. 照林社; 2015.
  3. European Pressure Ulcer Advisory Panel (EPUAP), National Pressure Injury Advisory Panel (NPIAP), Pan Pacific Pressure Injury Alliance (PPPIA). Prevention and Treatment of Pressure Ulcers/Injuries: Clinical Practice Guideline. EPUAP/NPIAP/PPPIA; 2019.
  4. 日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会. 脳卒中治療ガイドライン2021. 協和企画; 2021.
  5. Waterlow J. Pressure sores: a risk assessment card. Nursing Times. 1985;81(48):49-55.
  6. 中村隆一, 齋藤宏, 長崎浩. 基礎運動学 第6版補訂. 医歯薬出版; 2012.
  7. 日本リハビリテーション医学会(監). リハビリテーション医学・医療コアテキスト. 医学書院; 2018.
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ほーりー
脳卒中認定理学療法士/臨床13年目/総合病院勤務(回復期・地域包括・緩和ケア病棟)で累計500例以上の脳卒中患者のリハビリを担当。院内では新人PT教育・勉強会講師を継続。日本神経理学療法学会所属。新人PT・若手PTと患者様・ご家族に「現場の知見」をわかりやすく発信しています。