はじめに

「装具を処方してもらったけど、どうやって歩行訓練を進めればいいの?」

新人理学療法士の方から、こんな疑問をよく聞きます。

装具を正しく選択できたとしても、歩行訓練の「進め方」を間違えると、患者さんの回復を遠回りさせてしまうことがあります。

この記事では、脳卒中片麻痺の方に対して回復期病院で行う、装具を使った歩行訓練の段階的な進め方を解説します。

  • KAFOとAFO、どちらを使うべきか迷っている新人PTの方
  • 回復期での歩行訓練の流れを体系的に整理したい方
  • 装具の種類を変更するタイミングに悩んでいる方

こういった方にとって、臨床の参考になれば幸いです。



回復期における装具と歩行訓練の考え方

脳卒中後の歩行再獲得は、多くの患者さんにとって最大の目標のひとつです。

回復期病院では、急性期で処方された装具(KAFOや既製品AFOなど)を引き継ぎながら、段階的に歩行能力を向上させていくことが主な役割となります。

ここで大切な視点が、**「装具はゴールではなく、歩行再獲得のための手段である」**ということです。

装具をつけて歩ければ終わり、ではありません。 患者さんの回復状況に応じて、装具の種類・形状・補助具の選択を継続的に見直しながら、最終的に「その人に合った歩き方」を目指すことが、回復期理学療法の本質です。


装具を使った歩行訓練:段階的な進め方

歩行訓練は、おおよそ以下の3つのフェーズに沿って進めていきます。 フェーズをいつ移行するかは画一的なルールがあるわけではなく、患者さんの機能回復の状況を評価しながら柔軟に判断することが重要です。


フェーズ①:平行棒内での立位・歩行訓練

目的

  • 立位姿勢の安定を図る
  • 装具を装着した状態での荷重・重心移動の感覚を習得する
  • 歩行パターンの基礎を作る

使用装具の目安

  • 重度片麻痺(BRS下肢ステージ I〜II 程度):**KAFO(長下肢装具)**が第一選択
  • 軽〜中等度(BRS下肢ステージ III 以上、膝折れが軽度):**AFO(短下肢装具)**でも対応可

KAFOは膝関節を固定することで、麻痺が重度でも立位・歩行が可能になります。 一方、膝伸展の随意性がある程度得られている場合は、最初からAFOを使用するケースもあります。 (KAFOとAFOの選択基準については 短下肢装具の基礎知識長下肢装具(KAFO)の基礎知識 もあわせてご覧ください。)

臨床でのポイント

  • 立脚相の安全確保が最優先です。膝折れや足関節の不安定性がある状態で、平行棒の外に出るのは危険です。
  • 平行棒内でも、単に「歩かせる」のではなく、荷重の左右対称性・骨盤の水平移動・遊脚期のクリアランスなどを観察・修正しながら進めましょう。
  • 患者さんが装具の感触に慣れるまで時間がかかることもあります。焦らず、できることを少しずつ積み上げる姿勢が大切です。

フェーズ②:歩行補助具を使った歩行訓練(平行棒外)

平行棒内での歩行が安定してきたら、歩行補助具を使った平行棒外の歩行に移行します。

歩行補助具の選択と進め方(一般的な順序)

ステップ補助具適した状況
1歩行器(ウォーカー)立位バランスが不安定・麻痺が重度
2ロフストランドクラッチ(松葉杖型)ある程度の上肢支持力があり、バランス能力が向上
3四点杖(四脚杖)一点支持では不安だが歩行速度を上げたい段階
4T字杖(一本杖)基本的なバランスが安定し、屋内自立歩行を目指す段階
5杖なし歩行十分なバランス能力が獲得された場合に検討

補助具の変更は焦らないことが鉄則です。「早く杖なしで歩けるように」と急ぎすぎると、代償動作が定着してしまい、かえって歩行の質を下げる場合があります。

また、歩行補助具が安定していれば安定しているほど、頼ってしまい麻痺側下肢への荷重機会が減っていまうリスクもあるため、麻痺側大腿四頭筋や大殿筋などの筋収縮を歩行中にしっかり確認することも重要です。

FAC(Functional Ambulation Categories)の活用

歩行補助具の変更タイミングの目安として、FACをはじめとした歩行評価スケール が参考になります。

FACレベル状況の目安
FAC 1〜21〜2人介助が必要 → 平行棒内・歩行器が中心
FAC 3監視・口頭指示で歩行可能 → 歩行器〜四点杖
FAC 4平地はほぼ自立 → T字杖・杖なしを検討
FAC 5全自立(段差・坂道含む) → 屋外歩行自立を目標

FACは簡便に使えますが、歩行速度や歩行距離の情報が含まれない点は注意が必要です。10m歩行テストや**TUG(Timed Up and Go Test)**と組み合わせて、多角的に評価しましょう。


フェーズ③:屋内自立〜屋外歩行への展開

屋内での歩行が安定してきたら、退院後の生活を見据えた応用歩行訓練に移行します。

応用歩行として練習しておきたい場面

  • 段差の昇降:自宅玄関・公共施設の段差など
  • 傾斜面の歩行:坂道・スロープ
  • 不整地歩行:砂利道・芝生など
  • 横断歩道・信号がある場所:一定時間内に渡れるか
  • エレベーター・エスカレーターの乗降
  • 人混みの中での歩行:注意分割が必要な環境

これらの訓練を通じて、退院後の生活で「歩ける」だけでなく、**「安全に、その人らしく歩ける」**状態を目指すことが目標です。


KAFOからAFOへの移行:タイミングの考え方

回復期でよく悩む場面のひとつが、「そろそろKAFOからAFOに変えていいかな?」という判断です。

移行を検討する目安

以下の要素を総合的に評価して判断します。

  1. BRS(ブルンストロームステージ)下肢:ステージIV〜V程度に回復しているか
  2. 膝伸展の随意性:立脚期に膝を安定して保持できるか(膝折れがないか)
  3. 足関節のコントロール:底屈・内反の程度と随意性
  4. 立位バランス:安定した立位が保てるか
  5. 歩行速度・耐久性:実用的な歩行が可能か

KAFOの膝継手をロック解除した状態で歩行させてみる**「KAFO-AFO歩行試行」**が有効な判断手段になります。 ロック解除後も膝が安定して歩行できれば、AFOへの移行を検討できます。

注意点 「ステージが上がったから変える」というステレオタイプな判断は避けましょう。歩行訓練中の安全性・バランス・実用性を優先した臨床判断が求められます。


💡 装具カットダウンの判断基準(評価指標・段階的移行アプローチ・注意点)については、別記事「装具カットダウンの判断基準|段階的アプローチで迷わない考え方」で詳しく解説しています。

AFOの種類を変更するタイミング

AFO移行後も、回復とともに装具の種類を見直すことがあります。

機能回復の状況適したAFOの変更
足関節の随意性が低い・内反が強い固定式AFO(プラスチック、全面支持)
足背屈が出てきた・底屈がコントロールできる継手付きAFO(可動域を活かす)
ある程度の随意性があり、装具の補助量を減らしたい後方支柱型AFO・カーボン製AFO
麻痺が軽度で足関節の安定性のみ必要足底挿板・靴型装具で対応できる場合も

装具の変更は、義肢装具士・リハビリ医とのチームで連携しながら判断することが重要です。 新人PTが単独で「変更しましょう」と決めるのではなく、カンファレンスや診察の場でしっかり情報共有するようにしましょう。


歩行訓練で使いたい評価指標まとめ

定期的な評価で「どのくらい進歩しているか」を客観的に把握することは、訓練計画の見直しにも、患者さんのモチベーション維持にも重要です。

評価指標目的特徴
FAC歩行自立度の把握0〜5の簡便なスケール
10m歩行テスト歩行速度の計測快適速度・最大速度の両方を計測
TUG(Timed Up and Go)起立〜歩行〜着座の総合評価転倒リスクの予測にも活用できる
6分間歩行テスト歩行持久力の評価実用的な歩行距離の把握に有用
BRS下肢ステージ麻痺の回復段階の評価装具・補助具の変更判断の参考に

評価指標の詳細については 脳卒中片麻痺の歩行評価の基本 で解説していますので、あわせてご参照ください。


患者さん・ご家族への説明ポイント

歩行訓練の進め方は、患者さんやご家族にとって不安の多いプロセスです。 特に新人PTは、「なぜ今は平行棒なのか」「いつ杖なしで歩けるのか」といった質問に、どう答えるか迷うことがあるかもしれません。

伝えるときのポイント

  • 今の段階と目標を具体的に共有する 「今は平行棒内で安全に歩けることを目標にしています。次は歩行器を使った練習に進む予定です」など、現在地と次のステップを伝えましょう。
  • 装具の役割を簡単に説明する 「この装具は、足首が安定するよう補助してくれています。今の状態でこれがないと足首が内側に曲がってしまい、転倒の危険があります」など、なぜ装具が必要なのかを伝えると納得感が高まります。
  • 焦りに共感しながらも、安全第一を伝える 「早く歩きたいというお気持ちはとてもよくわかります。でも、焦ると転倒のリスクが高まってしまうので、一歩一歩確実に進めましょう」という言葉がけが大切です。

ほーりーの臨床メモ

装具を装着したからといって瞬時に歩行が改善する患者さんばかりではない。「装具+適切な歩行訓練」の組み合わせが重要で、単に歩かせるだけでは不十分だと感じます。

歩行環境は平行棒内、歩行器、杖と段階的に検討していきますが、ハンドリングの有無も段階的に検討します。そのペースは患者さんのバランス能力や筋出力の変化に合わせる必要があります。「もう少し頑張れそう」と「安全の確保」を両立させる判断がPTに求められます。

歩行練習の最終目標は「リハ室で歩けること」ではなく「退院後の実生活で安全に移動できること」です。訓練中には病院内のことだけ考えるのではなく、自宅の環境に合わせた応用練習や装具着脱練習なども並行して行っていきたいですね。


まとめ

装具を使った歩行訓練は、患者さんの回復段階に合わせて「環境」と「補助具」を段階的に変えていく作業です。本記事の要点を整理します。

  • 3つのフェーズ:①平行棒内→②歩行補助具(歩行器・杖)→③屋内自立〜屋外
  • 装具の役割変化:重度麻痺はKAFO→中等度麻痺はAFO→軽度麻痺は装具卒業へ
  • 評価指標:FAC・10mWT・6MWT・TUGで客観的に進捗を捉える
  • カットダウン判断:詳細は別記事「装具カットダウンの判断基準」で深掘り
  • 説明のコツ:患者さん・ご家族には「次の目標」を明確に伝えると協力を得やすい

歩行訓練は「装具」「環境」「補助具」の組み合わせで無限のパターンがあります。新人PTのうちから「段階的に攻める」視点を持てば、訓練設計が一気にレベルアップします。

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よくある質問(FAQ)

Q1:平行棒内訓練はいつから始めるべきですか?

結論:バイタル安定・座位保持5分以上が目安。早ければ急性期から開始可能です。

急性期病棟でも医師の許可があれば早期から立位経験を。最初は2人介助・KAFO使用で短時間から。立位経験は脳の運動学習に直結するため、「立てない」と判断する前にあらゆる手段を検討します。

Q2:歩行補助具(杖・歩行器)はどう選びますか?

結論:「バランス能力・上肢機能・歩行速度」の3軸で選びます。

歩行器→4点杖→T字杖の順に「自由度」が増し、「安定性」が減ります。BBS・TUG・10mWTで客観的に評価しつつ、患者さんの自宅環境(階段・狭い廊下)も考慮。退院後の実用性とのバランスが大切です。

Q3:屋外歩行訓練に進む基準は?

結論:「屋内自立+バランス余裕+持久力」の3条件を満たせば屋外練習に進めます。

具体的にはFAC4以上、6MWT300m以上、10mWT0.5m/s以上が一つの目安。屋外は段差・人混み・気候など予測不能な要素が多いため、段階的に環境負荷を上げます。安全を最優先しつつ「実生活復帰」をゴールに据えましょう。

Q4:歩行訓練が頭打ちになった時の打開策は?

結論:①装具変更 ②ボツリヌス治療検討 ③環境変更の3方向で打開を図ります。

同じ装具・同じ環境で頭打ちなら、変化を作ることが重要。装具のカットダウン or 種類変更、痙縮が強ければボツリヌス治療検討、慣れた環境から新しい刺激(屋外・坂道)へ。患者さんのモチベーション維持にも繋がります。

免責事項

本記事の内容は、筆者個人の経験・知識および参考文献に基づく情報提供を目的としており、個別の医療・リハビリテーションに関するアドバイスではありません。症状や治療方針については、必ず担当の医師・理学療法士などの専門家にご相談ください。本記事の情報を利用したことによって生じたいかなる損害についても、筆者は責任を負いかねます。

参考文献

  1. 日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会(2021)「脳卒中治療ガイドライン2021」協和企画
  2. 吉尾雅春(2017)「脳卒中の下肢装具」第4版,医学書院
  3. Tomioka K, et al. (2025). Evaluation of balance and orthotic gait training techniques for rehabilitation in hemiplegic stroke patients. Scientific Reports.
  4. 日本理学療法士協会(2017)「長下肢装具を用いた急性期から行う重度片麻痺例に対する積極的歩行トレーニング」(日本支援工学理学療法学会)
  5. 橋本圭司(2019)「エビデンスからみた下肢装具と理学療法」The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine, 56(4), 277-283.
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ほーりー
脳卒中認定理学療法士/臨床13年目/総合病院勤務(回復期・地域包括・緩和ケア病棟)で累計500例以上の脳卒中患者のリハビリを担当。院内では新人PT教育・勉強会講師を継続。日本神経理学療法学会所属。新人PT・若手PTと患者様・ご家族に「現場の知見」をわかりやすく発信しています。