脳卒中後のリハビリにおいて、バランス評価は非常に重要なスキルです。「立てるか立てないか」だけでなく、どのような場面でバランスが崩れやすいのか転倒リスクはどの程度かどこに介入すべきかを把握することが、より質の高いリハビリにつながります。

しかし、新人PTのみなさんの中には、「BBS(ベルグバランススケール)って聞いたことはあるけど、実際にどう使えばいいの?」「BESTestって何が違うの?」と感じている方も多いのではないでしょうか。

この記事では、脳卒中後のバランス評価において代表的な2つのツール——BBS(Berg Balance Scale)とBESTest(Balance Evaluation Systems Test)——について、それぞれの特徴・評価方法・臨床での使い方を丁寧に解説します。


1. バランス評価がなぜ重要か

脳卒中後の患者さんは、姿勢制御に関わる複数の機能が障害されます。感覚入力の低下(感覚障害)、筋緊張の変化(痙縮や低緊張)、体幹の安定性低下、注意・認知機能の障害など、バランスに影響する要因は多岐にわたります。

バランス障害は、転倒リスクの増加・ADL(日常生活動作)の制限・屋外歩行の困難など、患者さんの生活の質に直結する問題です。研究では、脳卒中後の患者さんの約3分の1が退院後1年以内に転倒を経験するとされており(Weerdesteyn et al., 2008)、バランス評価は単なる記録作業ではなく、リスク管理とリハビリ計画の基盤となるものです。

バランス評価には以下の目的があります。

  • 現在のバランス能力の定量化(客観的な記録)
  • 転倒リスクの予測
  • リハビリの介入ポイントの特定
  • 治療効果の測定と記録
  • 退院・転院先の選定に関わる情報提供

2. BBS(Berg Balance Scale)とは

概要と目的

BBS(Berg Balance Scale)は、1989年にKatherine Bergらによって開発されたバランス評価スケールです。立位バランスと機能的な動作を定量的に評価するツールとして、現在も世界中の臨床現場で広く使用されています。

脳卒中後を含む多くの神経疾患・高齢者のバランス評価において信頼性・妥当性が確認されており、新人PTが最初に習得すべきバランス評価スケールの筆頭といえます。

評価項目(14項目)

BBSは以下の14項目を0〜4点の5段階で評価し、合計点(最大56点)を算出します。

  1. 座位から立位
  2. 立位保持(非支持)
  3. 座位保持(非支持)
  4. 立位から座位
  5. 移乗
  6. 閉眼立位
  7. 両足をそろえた立位
  8. 上肢を前方に伸ばす(前方リーチ)
  9. 床からのもの拾い上げ
  10. 後方への振り返り
  11. 360度回転
  12. 交互に台に足をのせる
  13. 片足を前方に出した立位(タンデム立位)
  14. 片脚立位

各項目は「最大限の介助が必要(0点)」から「独立して安全に行える(4点)」まで採点します。所要時間は15〜20分程度です。

カットオフ値と臨床での解釈

BBSのスコアは以下のように解釈されます。

スコア転倒リスク・歩行の目安
0〜20点高い転倒リスク・車椅子使用レベル
21〜40点中等度の転倒リスク・介助歩行レベル
41〜56点比較的低い転倒リスク・自立歩行レベル

45点以下は地域在住高齢者において転倒リスクが高いとされています(Berg et al., 1992)。また、脳卒中患者においては40点以下で転倒リスクが有意に高まるという報告もあります。臨床では、初回評価と定期的な再評価を行い、スコアの推移でリハビリの効果を客観的に確認します。

BBSの限界

BBSは優れたツールですが、以下のような限界点も知っておく必要があります。

  • 天井効果(ceiling effect):歩行自立レベルの患者では満点に近いスコアが出やすく、変化を捉えにくい
  • バランス障害の「原因」はわからない:スコアは量を示すが、「なぜバランスが悪いのか」の質的な分析には向かない
  • 環境要因の考慮が限定的:二重課題や不整地など、実際の生活場面でのバランスは評価できない

3. BESTest(Balance Evaluation Systems Test)とは

概要と目的

BESTest(Balance Evaluation Systems Test)は、2010年にFay Miriam Horak らによって開発されたバランス評価ツールです。BBSが「バランス能力の全体的なレベル」を数値化するのに対し、BESTestは「バランス障害の原因(どのシステムが問題か)」を特定することを目的としています。

この点がBBSとの最大の違いであり、BESTestはバランスを6つのシステム(セクション)に分けて評価します。

6つの評価セクション

セクション1:生体力学的制約(Biomechanical Constraints)
足底圧・関節可動域・体幹の筋力など、支持基底面の機械的な要素を評価します。足関節可動域制限や体幹筋力低下がバランスに影響していないかを確認します。

セクション2:安定限界・垂直性(Stability Limits / Verticality)
重心を動かせる範囲(安定限界)や、垂直性の認知(自分が傾いていても気づかない等)を評価します。Pusher現象(プッシャー症候群)がある患者さんの評価に特に有用です。

セクション3:予測的姿勢調節(Anticipatory Postural Adjustments:APA)
動作開始前に体幹・下肢が先行して安定を図る「予測的な姿勢調節」の機能を評価します。片足立ちや速い腕の振り上げ動作などが含まれます。

セクション4:反応的姿勢制御(Postural Responses)
外乱(急な押し・引っ張り)に対して素早く姿勢を回復できるかを評価します。ステップ反応やバランス回復能力を見ます。

セクション5:感覚統合(Sensory Orientation)
視覚・前庭覚・体性感覚という3つの感覚情報を適切に統合できるかを評価します。閉眼・不安定な床面などの条件を組み合わせて、どの感覚情報への依存が問題かを特定します。

セクション6:歩行の安定性(Stability in Gait)
歩行中のバランス——変化する速度、障害物、頭部の回旋、二重課題など——を評価します。

各項目は0〜2点(または0〜3点)で採点し、総得点は108点満点です。評価には30〜40分程度かかります。

mini-BESTest について

BESTestは項目数が多いため、臨床での使用時間が課題でした。そこで短縮版としてmini-BESTest(14項目・28点満点)が開発されています。

セクション3(予測的姿勢調節)・セクション4(反応的姿勢制御)・セクション5(感覚統合)・セクション6(歩行の安定性)の項目から構成されており、脳卒中後の評価での信頼性・妥当性が確認されています。所要時間は約10〜15分程度で、臨床での実用性が高いツールです。


4. BBSとBESTestの使い分け

新人PTの方は「どちらを使えばいいの?」と迷うかもしれません。2つのツールは目的が異なるため、「状況に応じて使い分ける」または「組み合わせて使う」のが正解です。

BBSBESTest / mini-BESTest
主な目的バランス能力のレベル把握・転倒リスク評価バランス障害の原因特定・介入ポイントの明確化
所要時間15〜20分30〜40分(mini:10〜15分)
習得難易度比較的習得しやすい評価者トレーニングが必要
向いている場面初回評価・定期的なモニタリング介入プログラムの立案・バランス障害の精査
天井効果あり(高機能例で出やすい)少ない

使い分けの例:

  • 急性期〜回復期初期:まずBBSで現在のレベルと転倒リスクを把握する
  • 回復期中期〜後期:BBSでモニタリングしつつ、介入方針を検討したい場合はmini-BESTestを追加
  • BBSで天井効果が出た場合:mini-BESTestで詳細な原因を精査する
  • Pusher現象や感覚障害が疑われる場合:BESTestのセクション2・5を優先的に確認する

5. その他のバランス評価との組み合わせ

TUG(Timed Up and Go Test)

椅子から立ち上がり3m先を折り返して戻る時間を計測します。簡便で所要時間も短く(2〜3分)、動的バランスと移動能力を素早く評価できます。脳卒中後では13.5秒以上で転倒リスクが高いとされる報告があります。BBSと相補的に使用することで、立位静止バランスと移動中のバランスの両面を評価できます。

FRT(Functional Reach Test)

立位で前方に腕を伸ばせる距離を計測し、動的な重心移動能力を評価します。簡便で短時間(5分以下)で実施できるため、スクリーニングとして有用です。15cm未満で転倒リスクが高いとされています。

CBS(Catherine Bergego Scale)

半側空間無視(USN)がバランスに与える影響を評価するスケールです。半側空間無視を合併している場合、通常のバランス評価だけでは見落とされる問題が生じるため、必要に応じて追加します。


6. 臨床での実践ポイント

評価前の準備と注意点

  • 履物・装具の統一:毎回同じ条件で評価することで、変化が正確に捉えられます
  • 疼痛・疲労の確認:コンディションが悪い日の評価は信頼性が下がります
  • 転倒への備え:評価中は必ず介助できる位置に立ちましょう
  • 患者さんへの説明:「テスト」という言葉で不安を与えないよう、目的をわかりやすく伝えます

「スコア」だけで終わらない評価を

新人のころは「点数を出すこと」に集中しがちですが、大切なのはそのプロセスの観察です。

  • どの項目でバランスが崩れたか?
  • 代償動作(上肢で支える・体幹を過剰に傾けるなど)は見られたか?
  • 疲労によって後半の点数が下がっていないか?
  • 視線の使い方、足圧の偏りはどうか?

こうした質的な観察をあわせて記録することで、介入の優先順位が明確になります。

チームへの情報共有

BBSのスコアと評価中の観察内容は、医師・看護師・OT・ST・ソーシャルワーカーと共有する情報として非常に重要です。「BBSが32点で、特に閉眼立位と360度回転で点数が低下した。感覚系・前庭系への介入が必要と考える」というように、スコア+根拠+プランをセットで伝えることが、チーム連携の質を高めます。


まとめ

脳卒中後のバランス評価において、BBSとBESTestはそれぞれ異なる役割を持つ重要なツールです。

  • BBS:バランス能力の全体的なレベルと転倒リスクを素早く評価できる。定期的なモニタリングに最適。
  • BESTest / mini-BESTest:バランス障害の「原因」を6つのシステムから精査できる。介入ポイントを明確にしたいときに使う。

どちらか一方で完結させるのではなく、患者さんの状態・評価の目的・使える時間に応じて組み合わせながら活用することが大切です。スコアを「記録する」だけでなく、評価中の観察から仮説を立て、介入につなげる——そのサイクルを意識することが、バランス評価をリハビリに活かす第一歩です。


免責事項
本記事は脳卒中リハビリに関する一般的な情報提供を目的としており、特定の患者さんへの医療アドバイスを意図するものではありません。実際のリハビリ計画は、担当医・リハビリチームと連携のうえ、個々の患者さんの状態に応じて判断してください。


参考文献

  • Berg KO, Wood-Dauphinee SL, Williams JI, Maki B. Measuring balance in the elderly: validation of an instrument. Can J Public Health. 1992;83 Suppl 2:S7-11.
  • Horak FB, Wrisley DM, Frank J. The Balance Evaluation Systems Test (BESTest) to differentiate balance deficits. Phys Ther. 2009;89(5):484-498. doi:10.2522/ptj.20080071
  • Franchignoni F, Horak F, Godi M, Nardone A, Giordano A. Using psychometric techniques to improve the Balance Evaluation Systems Test: the mini-BESTest. J Rehabil Med. 2010;42(4):323-331. doi:10.2340/16501977-0537
  • Weerdesteyn V, de Niet M, van Duijnhoven HJ, Geurts AC. Falls in individuals with stroke. J Rehabil Res Dev. 2008;45(8):1195-1213. doi:10.1682/jrrd.2007.09.0145
  • Blum L, Korner-Bitensky N. Usefulness of the Berg Balance Scale in stroke rehabilitation: a systematic review. Phys Ther. 2008;88(5):559-566. doi:10.2522/ptj.20070205
  • Tsang CS, Liao LR, Chung RC, Pang MY. Psychometric properties of the Mini-Balance Evaluation Systems Test (Mini-BESTest) in community-dwelling individuals with chronic stroke. Phys Ther. 2013;93(8):1102-1115. doi:10.2522/ptj.20120454
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病院で10年以上勤務。認定理学療法士(脳卒中)取得。病院では新人や若手セラピストの教育や指導を担当しています。