脳卒中リハビリの目標設定【ICFやGASのメリット・デメリット】

「目標設定ってどうやって立てればいいんだろう?」「ICFって結局どう使うの?」「GASって聞いたことあるけど実際の臨床でどう活かせるの?」
新人PTがリハビリを始めてすぐに直面する疑問の一つが、目標設定です。ただ漫然と機能訓練をするのではなく、患者さんと共有できる明確な目標を立てることが、リハビリのアウトカムを左右します。
この記事では、脳卒中リハビリにおける目標設定の考え方と、代表的なフレームワークであるICF(国際生活機能分類)とGAS(Goal Attainment Scaling)のメリット・デメリットを、新人PTの視点でわかりやすく解説します。
なぜ目標設定がリハビリに必要なのか
目標設定がリハビリを有効にする理由は科学的にも支持されています。明確な目標を持つことで、以下の効果が期待できます。
- 患者さんのモチベーション向上:何を目指しているのかが明確になると、辛いリハビリも継続しやすくなる
- 自己効力感の向上:小目標を達成することで「自分は回復できる」という確信が生まれる
- リハビリ介入の焦点化:セラピストも「今何をすべきか」が明確になり、評価・介入が一貫する
- 多職種連携の促進:PT・OT・ST・医師・看護師が共通の目標を共有できる
目標設定には長期目標(Long-Term Goal:LTG)と短期目標(Short-Term Goal:STG)があります。LTGは「退院後の生活」を見据えた到達点、STGはLTGへの過程で達成すべき中間目標です。
ICF(国際生活機能分類)とは
ICF(International Classification of Functioning, Disability and Health)は、2001年にWHOが提唱した「人の生活機能と障害を分類・記述するための国際共通言語」です。
ICFの最大の特徴は、障害を「できないこと」という否定的側面ではなく、「生活機能全体」の相互作用として捉える点にあります。
ICFの構成要素
ICFは6つの構成要素から成ります。
| 構成要素 | 内容 | 脳卒中の例 |
|---|---|---|
| 健康状態 | 疾患・変調・傷害 | 左被殻出血 |
| 心身機能・身体構造 | 生理的・解剖学的機能 | 右片麻痺、感覚障害、失語 |
| 活動 | 個人が行う課題や行為 | 歩行、食事動作、更衣 |
| 参加 | 社会・生活・人生への関与 | 家族との外食、趣味のゴルフ |
| 環境因子 | 生活・社会の物的・人的環境 | 自宅の段差、家族のサポート体制 |
| 個人因子 | 個人の背景(年齢・性別・ライフスタイルなど) | 68歳男性・農業従事者・意欲高い |
これらの要素は相互に影響し合うことが重要なポイントです。たとえば、「環境因子(自宅に手すりがある)」を整えることが「活動(歩行)」の改善につながり、「参加(家庭内での役割)」の回復につながるという連鎖を捉えることができます。
ICFのメリット
- 生活全体を見渡せる:機能障害だけでなく「参加」まで視野が広がり、患者さんのQOLにつながる目標が立てやすくなる
- 多職種で共通言語として使える:PT・OT・ST・MSWがICFの枠組みを共有することで、患者像と目標を統一しやすい
- 患者の強みも評価できる:「できないこと」だけでなく「できること(残存機能・環境資源)」も明示できる
- 国際標準:世界共通の分類なので、エビデンスの解釈・研究への応用がしやすい
ICFのデメリット・注意点
- 具体的な目標数値が出ない:ICFはあくまで「分類の枠組み」なので、「いつまでに何を達成するか」という具体的な目標設定には別のツールが必要
- 記載に時間がかかる:6要素すべてを丁寧に整理しようとすると、初期評価の記載が煩雑になりやすい
- 変化の追跡に不向き:ICFは状態の記述には優れているが、リハビリ効果(変化量)の評価には向いていない
GAS(Goal Attainment Scaling)とは
GAS(Goal Attainment Scaling:目標達成スケール)は、患者さん個別に設定した目標の達成度を数値化する評価手法です。1968年にKiresuk & Shermanが開発し、現在はリハビリテーション医学・精神科・老年医学など幅広い分野で活用されています。
GASのスコアリング方法
GASでは各目標について、以下の5段階スケール(-2〜+2)で評価します。
| スコア | 意味 | 例(「T字杖で病棟内歩行」という目標の場合) |
|---|---|---|
| -2 | 予想より大幅に悪い | 歩行不能・車いす使用 |
| -1 | 予想より少し悪い | 平行棒内歩行のみ可能 |
| 0 | 予想通りの達成 | T字杖で病棟内歩行自立 |
| +1 | 予想より少し良い | T字杖で病棟内+病院廊下を歩行自立 |
| +2 | 予想より大幅に良い | 独歩で院内全域を自立歩行 |
複数の目標を設定した場合は、各目標の達成スコアを合算してT-スコア(正規分布の平均50を目標達成とする)として算出することができます。
GASのメリット
- 個別性が高い:標準化された評価尺度では捉えられない「この患者さんだけの目標」を数値化できる
- 変化の追跡に優れる:リハビリ前後の達成度を定量的に比較でき、治療効果の評価に使える
- 患者参加を促せる:目標設定の過程に患者さんを巻き込むことで、「自分のリハビリ」という当事者意識が高まる
- 多様な目標に対応:ADL・高次脳機能・社会参加など、どんな種類の目標にも適用できる
GASのデメリット・注意点
- 目標設定に習熟が必要:「0(予想通り)」の設定が難しく、低く設定しすぎると+1・+2ばかりになり意味が薄れる。逆に高く設定しすぎると-2・-1が続いて患者さんのモチベーションが下がる
- 評価者間信頼性の問題:目標の具体性が不十分だと、評価者によってスコアがばらつく
- 記録・管理の煩雑さ:複数目標を適切に設定・管理するには一定の時間と経験が必要
- 比較研究には向きにくい:目標が患者ごとに異なるため、集団間の比較研究には向いていない
ICFとGASの使い分け・組み合わせ方
ICFとGASはそれぞれ異なる目的に優れているため、組み合わせて使うのが最も効果的です。
臨床での実践的な流れはこのようなイメージです。
- ICFで患者さんの生活全体を把握する:初期評価でICFの6要素を整理し、「参加」レベルでの最終目標(生活ゴール)を共有する
- ICFを基にGASの目標を設定する:「活動」「参加」の観点から優先度の高い目標を2〜4つ選び、GASの5段階スケールで具体化する
- 定期的にGASで進捗を評価する:中間評価・退院時評価でGASスコアを確認し、目標の達成状況をチームで共有する
臨床での目標設定の具体例
70歳・男性・右被殻出血後の左片麻痺(発症3週間、回復期病棟)というケースで考えてみましょう。
ICFで整理した患者像:
- 心身機能:左上下肢Brunnstrom stageⅢ、感覚障害(軽度)、高次脳機能は保たれている
- 活動制限:歩行は平行棒内見守り、ADLは要介助
- 参加制約:農業(畑仕事)が趣味・生きがい。孫の運動会に出席したい
- 環境因子:妻と二人暮らし・自宅は農家で段差多い・家族のサポートあり
- 個人因子:意欲高い・農業への復帰を強く希望
ICFから見えた長期目標:「屋外をT字杖歩行で自立し、自宅の畑まで歩いて行けるようになる」
GASで設定した短期目標(4週間後):
- 目標①:T字杖での病棟内歩行自立(GAS 0)
- 目標②:更衣動作(上衣)の一部介助以下(GAS 0)
目標設定でよくある新人PTのつまずきポイント
①「機能回復」を目標にしてしまう
「右上肢のBrunnstrom stageをⅣに上げる」は評価指標の変化であって、患者さんにとっての意味のある目標ではありません。「スプーンを自分で持って食事できる」といった活動・参加レベルの目標に落とし込むことが大切です。
②患者さんの希望を聞かずにセラピストが決めてしまう
「この患者さんには歩行自立が最優先だろう」というセラピストの思い込みで目標を立てるのは危険です。患者さんが本当に望む生活を傾聴し、その人の「参加」レベルから目標を逆算する姿勢が重要です。
③短期目標と長期目標がつながっていない
短期目標は「長期目標に向かっての一段階」である必要があります。短期目標を積み上げれば長期目標に届く、というストーリーを描けるかどうかを常に確認しましょう。
まとめ
脳卒中リハビリにおける目標設定のポイントをまとめます。
- ICFは患者さんの生活全体を6要素で整理する「地図」として使う。「参加」レベルの最終ゴールを見据えるために有効
- GASは個別目標の達成度を数値化する「モノサシ」として使う。治療効果の評価と患者モチベーションの維持に有効
- 2つを組み合わせることで「患者さんを中心においた、測定可能な目標設定」が実現できる
- 目標は「機能回復」ではなく「活動・参加レベル」で立てることが重要
新人のうちは目標設定がうまくいかなくて当然です。指導者や上司に目標設定の根拠を説明する習慣をつけながら、少しずつ精度を高めていきましょう!
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北陸の総合病院勤務・臨床13年目・脳卒中認定理学療法士 ほーりー
参考文献
- World Health Organization. International Classification of Functioning, Disability and Health: ICF. Geneva: World Health Organization; 2001.
- Kiresuk TJ, Sherman RE. Goal attainment scaling: A general method for evaluating comprehensive community mental health programs. Community Ment Health J. 1968;4(6):443-453. doi:10.1007/BF01530764
- Turner-Stokes L. Goal attainment scaling (GAS) in rehabilitation: a practical guide. Clin Rehabil. 2009;23(4):362-370. doi:10.1177/0269215508101742
- Levack WM, Taylor K, Siegert RJ, Dean SG, McPherson KM, Weatherall M. Is goal planning in rehabilitation effective? A systematic review. Clin Rehabil. 2006;20(9):739-755. doi:10.1177/0269215506070791
















